2026年7月、TB-SQUARE osakaでDaBの八木岡聡さんによるスペシャルセミナー「Beauty Cambria」が開催されました。セミナーの合間に行った八木岡さんとタカラベルモントの片岡さんの対談では、機能性と美学が交差する美容椅子の価値や、その根底に流れるプロダクトデザインの哲学について熱い議論が交わされました。
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八木岡 聡
株式会社ダブ、株式会社ビタミンズ代表。現在、代官山・青山・銀座にヘアサロン「DaB」を展開。高いデザイン性とテクニックを誇るヘアデザイナー集団の代表を務める。インダストリアルデザイナーとして照明器具や家具、美容器具などのプランニングやデザイン、化粧品の開発・ディレクションなど幅広く手掛けている。
タカラベルモントでは、2000年から販売を続けている美容椅子のベストセラー「D.シリーズ」の開発に関わる。
片岡 良太
営業本部 理美容営業部 統括副部長
2002年にタカラベルモントに入社。大学では心理学を専攻し、その後プロダクトデザインを学ぶ。入社後は美容椅子や理容前洗面、リアシャンプー機器、美顔機などのプロダクトデザインを担当し、D.シリーズの「HARP」などでは八木岡氏とともに開発に携わり大きな刺激を受ける。その後、各製品のプロダクトマネージャーを歴任し、現在は理美容事業のマーケティング部門の責任者を務める。
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美容室は、美容師がヘアで勝負する場所
片岡さん:
本日はよろしくお願いいたします。今日は八木岡さんがデザインを手がけられ、25年以上のロングセラーとなっている美容椅子「D.シリーズ」やプロダクトデザインについてお話をお伺いしたいのですが、その前にまず美容室という“場”は八木岡さんにとってどのような場所でしょうか?
八木岡さん:
お客さまが新しいヘアでハッピーな生活を送れるようにする。そこに僕たちの仕事は関わっています。美容室は心地いい時間を提供する場所であることはもちろん大切だけど、僕たちはデザイナーであり職人でもあるので、ヘアで勝負したい。だから、仕事がやりやすい場であることは絶対だと思っています。
当然タカラさんは美容師の仕事の精度を上げ、魅力的なものにするために美容椅子やシャンプー台などをつくられていると思います。そのように心地よさだけでなく、作業性も美容室においては大事だと思いますね。
ヘアで勝負するために美容椅子に必要なのは、まず作業性
片岡さん:
八木岡さんはこれまでに美容椅子の代わりに「家具椅子(理美容専用ではない一般的な椅子)」を使われたことはあるのですか?
八木岡さん:
冒頭でも言ったように僕は作業性を優先するので、どれだけおしゃれでも絶対に家具椅子は避けてきたんですよ。仕事がやりやすいことが何より重要で、一番押さえたいのはそれです。
タカラさんと一緒に「D.シリーズ」をデザインするときにまず考えたのは、安っぽい椅子、仕事がしにくい椅子は絶対につくりたくないってこと。その点、タカラさんの椅子は高品質で、スペックも機能性も高いので、デザイン部分を自身のアイデアと発想で素敵に仕立てればすごくいいものができるなって考えたんです。
片岡さん:
八木岡さんが感じられるタカラベルモントの「高品質」とは具体的にどのような部分なのでしょう?
八木岡さん:
シートの耐久性は確かだよね。海外では美容椅子=消耗品で、3年から5年で変えちゃうからシートは柔らかい。一方、タカラさんは高品質を守るために10万回のテストをするから、10年は持つよね。暇なお店なら15年持つんじゃないかと思うぐらい高品質。張り過ぎと思うくらい硬いけどね(笑)。
片岡さん:
硬さについては、ずっとおっしゃっていますよね(笑)。座面に柔らかい反発性のないクッションを採用するとヘタりやすく、姿勢を保つために腹筋や背筋が必要になり疲れやすくなるんですよ。椅子に最初座った時は柔らかく感じられるようにし、併せて耐久性もしっかり確保する。それは長年のテーマで、これからも追求していくのでご期待ください(笑)。
実はタカラベルモントは“ポンプ”の品質にもこだわって美容椅子をつくっているんです。ポンプの部品一つひとつの精度が高く、組み立て時のチェックを徹底しているのでペダルを踏む時や回転させる時、ロックをかける時など、常に同じ感覚で操作できます。
80kg(椅子15kg+人体65kg計算)の荷重を10万回繰り返しかける試験を実施。 長時間使用しても、性能に問題ないことを確認しています。
同じ機種を複数台導入されるサロンさまで、どの美容師さんがどの椅子を使用しても戸惑いや引っ掛かりがなく、同じようにお客さまや施術に集中することができるのです。
時代を超えるデザイン性と作業性を両立させた「D.シリーズ」の誕生
片岡さん:
美容椅子に対して仕事のしやすさや品質を大切にされているとのことですが、「D.シリーズ」のデザインを手がけられた際にテーマなどはあったのでしょうか? 最初の「D.シリーズ」の発売は2000年でした。もうそんなに経つんですね(笑)
八木岡さん:
そうですね(笑)。テーマは「オリジナリティ」と「タイムレス」でした。斬新でオリジナリティがあり、時代を超えていくデザインをつくっていきたかった。そう考えた時にタカラさんの品質や付加価値が絶対必要でしたね。
片岡さん:
D.シリーズは、まさにその通りのテーマのシリーズになっていますね。最初はSC-205Sをリデザインした「CADILLA(キャデラ)」ですよね。
CADILLAのベースになったSC-205S。当時はシャンプー椅子タイプしかなく、八木岡さんはそれを美容椅子として使われていました。
八木岡さん:
そうですね。50年代・60年代の豊かなアメリカを意識してつくり、名前は車のキャデラックから取って少しイタリア語っぽく「キャデラ」にしました。
片岡さん:
SC-205Sのエッセンスがかなり残っているけど、全然違うものに見えますよね。実際にどのようなリメイクを施されたのですか?
八木岡さん:
背もたれの大きさ、柔らかさは変えてゴツイ印象をエレガントに。でも、取っ手や型は美しいので上手く活かしましたね。
SC-205Sの背もたれの傾倒機構を外してリメイクされたのがCADILLAです。この時、艶消しのメッキ(ダル仕上げ)が初めて採用されました。どっしりとした重量感のあるデザイン、身体をゆったりと受け止めてくれるバケットタイプのシート。そして硬質なアルミフレームの手すりが特徴のチェアです。
片岡さん:
その後に手がけられたのが、FIORE(フィオレ)をリメイクした「BRIDGE(ブリッジ)」ですよね。これはどのような発想で?
八木岡さん:
ビニールレザーを外して、ひと繋がりだったものを分ける発想からですね。やはりタカラさんがつくり上げた椅子には素晴らしいクオリティがある。そこを上手く活かしながら、新しい魅力を構築しようと思っていました。
FIOREのキルティング加工されたビニールレザーを剥がし、残ったウェービングテープにレザーを個別に巻いたBRIDGE。ハンモックスタイルのスケルトン構造シートは開放感があり、アクセントを効かせた機能的なデザインに。
片岡さん:
まさに、オリジナリティと普遍性を強く感じさせるのが「CADILLA」であり「BRIDGE」ですよね。そして近年では、同じく往年の名作チェアを現代的な感性で再解釈した「HARP(ハープ)」も多くのサロンさまにお選びいただいています。時代を超えて受け継がれる魅力に、新たな価値を加えるという八木岡さんの考え方が、多くの方に支持されているのだと感じます。
時代を超えて、愛されるチェア「Timeless(タイムレス)ライン」
流行に左右されず長年愛されてきた美容椅子7機種を選定し、2025年より「Timelessライン」として展開しています。デザインだけでなく座り心地や使い心地も多くの方に評価され、今なお多くのサロンさまに導入されています。Timelessラインには、八木岡さんがデザインに携わったCADILLA(左から3つ目)、BRIDGE(右から2つ目)、HARP(右から3つ目)の3機種が選ばれています。
※BRIDGEの元になったFIORE(左から2つ目)もラインナップ。
革新的なデザインでPenの表紙を飾った「SKELETON」
片岡さん:
CADILLAやBRIDGEはリメイクベースですが、一方でゼロからつくられたものも印象的です。
特に「SKELETON(スケルトン)」は鮮烈な印象を放っていましたが、これはどのような想いのもとつくられたのですか?
八木岡さん:
CADILLAやBRIDGEは、ある意味オマージュ的な作品です。タカラさんが元々持っていたものをより魅力的にするという意味では、温故知新とも言えますね。
対して「SKELETON」は、それまでの美容室になかった存在感のあるデザインをつくろうと思ったんです。たとえば、骨組みに新しい素材を使ったり、シートにジェルを使ってみたり。その「SKELETON」がPenという雑誌の表紙に載り、特集してもらえたんですよね。僕からすれば、ヘアスタイルでVOGUEの表紙を飾る感覚に近い。Penのようなクオリティの高い雑誌に載ったことは美容のイメージアップだけでなく、美容の持つ役割を一歩先に進めることができたんじゃないかと感じています。
Pen(CEメディアハウス発行)2002年5月号 ※この表紙画像の使用は発行元の許可を得ています。
片岡さん:
「SKELETON」は本当に名作だと思います。
八木岡さん:
強いて言うとちょっと主張しすぎているところもあるわけ。完成度は高いけど、存在感が強すぎかなと。もう少し存在感が控えめな方が、ロングセラーにはなると思いますね。でも、やっぱり今見てもデザイン的には鮮度あるよね。
※SKELETONは2015年に販売終了
クリエイターなら、考え続けることをやめてはいけない
片岡さん:
その後も、私も幸運にも関わらせていただいた「D.シリーズ」の「HARP(ハープ)」「CHOCO(チョコ)」「D.SUITE(ディ・スイート)」と美容椅子を世に送り出してこられましたが、八木岡さんは「こんなものを、つくりたい」といつもイメージされているのですか?
八木岡さん:
そうですね。たとえばCADILLAだと、SC-205Sをシャンプー椅子として使っていた時から「この椅子をセット面で使うならデザインをどう変えよう?」と想像していました。やっぱりクリエイターって、いつもそういう考え方をするものだよ。ヘアスタイルを考えるのもそう。「次ご来店された時はこんなヘアを提供したいな」「次の季節になったらこんな感じのヘアがいいんじゃないか」っていつも考えている。常に頭の中でイメージを膨らませて構築し、実際のカタチに落とし込むのがデザインというものだと思うね。
片岡さん:
今のお話はとても示唆に富んでいますね。八木岡さんがスタッフの方におっしゃった「人の作ったもので感動するレベルではダメ。自分ならどうするのかを考え続けるべき」という言葉は私にも非常に響きました。私たちもモノづくり企業として作業性や品質をより高めていくにはどうすればいいか考え続け、理美容師さんの仕事や価値創造を支えるプロダクトデザインを追求していきたいと思います。八木岡さん、本日は本当にありがとうございました。
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