美容の仕事は天職。美容の仕事は人生の全てだった、と言える生き方をしてきた。
50年にわたる美容師人生を駆け抜けてきたDaB八木岡聡さん。その八木岡さんの軌跡と功績を記念したスペシャルセミナー「Beauty Cambria(ビューティ カンブリア)」が東京、大阪はじめ全国6都市で開催されました。今回は大阪で開催されたBeauty Cambria第一部のスペシャルレクチャー、第二部のトークセッションのハイライトを編集・再構築し、「TBMG特別号」としてお届けします。
八木岡さんが考える「美容椅子の価値や、その根底に流れるプロダクトデザインの哲学」について語る、
TB-PLUS特別対談「美容師がヘアで勝負する場に相応しいプロダクトデザインとは」はこちら
※2026年9月15日公開予定
ライター 鎮目 和樹 | カメラ 船井 ユリエ | 配信日 2026.9.1
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【第一部】FLASH BACK 50:スペシャル・レクチャー
Beauty Cambria第一部は八木岡さんの50年の美容師キャリアから紡ぎ出された金言をお届けします。
多彩な才能が集まって、人を魅力的に仕立てるのがこの仕事の醍醐味
まず、「美容師の醍醐味」について。それは“誰が、誰を、誰と、どんなプロセスで、どんなヘアを作るか。そしてどんな結果や影響力を作るか”もうこれに尽きると思っています。才能のある人と出会い、目の前の人をどう魅力的な存在にしていくか。そこに大きな価値があると思っています。
自分以外の才能が、自分にはできないことを担ってくれることに面白さ、醍醐味を感じるので、僕はチームで仕事をするのが好きなんですよ。ただし、原点にあるのはやはり“個の力”です。一人ひとりが確かな技術やセンスを持っていないとダメ。特化したスキルを持った一人ひとりの集団が集まってこそ、ブランドとしても強くなると思います。多彩な才能がサポートし合いながら世の中に影響をつくっていくことは、サロンで働く僕たちにとって最も重要なことだと思う。
AIに負けないデザイン提案が、今の時代を生き抜くためには必須
ここからは本題の「Beauty Cambria」です。これまでの歴史を振り返るとさまざまな産業において、それまでの常識を大きく変える地殻変動がありました。たとえば、1800年にイギリスで起きた産業革命やパソコン、スマートフォンの登場など。美容業界では過去6回大きな変化が起こっています。
※地球上で最も劇的な生命の進化が起きた「カンブリア紀」。「Beauty Cambria」というセミナータイトルは、その爆発的変革になぞり名付けられています。
ここから得られる教訓は、時代は繰り返さないということ。よく「時代は繰り返す」って言われてきたけど、全然繰り返さない。50年美容師をやってきたけど、一度もないね。一瞬、リバイバルが流行ることはあるけど、業界はどんどん変化して、新しいものが出てくる。だから僕たちはこれからの未来に何が必要かもっと発展的に考えるべきだと思うんです。
これまでこの業界を50年歩んできたなかで、なくなったお店はいっぱいあります。もちろん、生き残っているお店もいっぱいある。生き残ったお店はそれぞれの時代のカンブリアを見事に乗り越えてきているんだよね。それがブランドたる所以でもある。
これから先はどうか。美容師はアナログな仕事なので、AIやロボットに代替されることは当面ないでしょう。ただ、AIに負けないデザイン提案ができる美容師にならないと未来はないと思ってください。スタイルだけではないです。髪質の判断なども含めて提案できる美容師にならないと時代に飲まれてしまいます。僕自身もそういう美容師でありたいと思うし、当然そうなるべきだと思う。それが、このBeauty Cambriaを通して皆さんにメッセージしたいことです。
デザインの境界を横断することで増したデザイナーとしての厚み
僕はこれまで、ヘアだけじゃなくさまざまなデザインに挑戦してきました。たとえば、2000年にタカラさんから「D.シリーズ」として展開を開始した美容椅子やカットスツール。実はカットスツールを最初に使ったのは僕なんですよ。当時は「座って髪を切るなんてやる気がない」って言われましたが、この25年の間に当たり前になりましたよね。美容師さんがストレスなく作業に臨めることを大切に考えてつくったんですよね。その他には、ヘアケア企業や玩具企業、菓子企業なんかともコラボしてプロダクトをつくりました。
D.シリーズ「D-STOOL ALUMI(ディ・スツール アルミ)」 アルミ製の座面、堅牢なアルミダイキャストの脚部、ソリッド感のあるデザインで長年のベストセラー。
美容師の仕事って、ものすごいアナログなんですよ。1対1でお客さまに向き合い、ヘアを仕上げて、お金をいただく。わかりやすく言うとライブですね。でもたとえばタカラさんとのお仕事はマスプロダクションですから、1回つくると何年も売ることになる。責任感がちょっと違いますよね。僕はデザイナーとして色々な側面を持っている。そのことが僕のアイデンティティであり、デザイナーとしての厚みにつながっていると思いますね。サロンでカットスツールに座ったら八木岡を思い出してください(笑)。
長年のベストセラーであるD.シリーズのスタイリングチェア。 右手前から「BRIDGE(ブリッジ)」「CADILA(キャデラ)「HARP(ハープ)」
【第二部】FUTURE 50:トークセッション
Beauty Cambria第二部は八木岡さん他、SCREENの神谷さん、DaBのHARUTOさん、KOTAさんが登壇。昭和・平成・令和と世代が異なる皆さんが、さまざまなテーマについてトークセッションを行いました。
神谷 翼
1984年生まれ。岡山県出身。日本美容専門学校卒業後、PEEK-A-BOOで勤務。2014年2月、神戸でSCREENをオープン。2015年4月に2店舗目となるSISTER.BY SCREENをオープン。2016年2月にSCREENを1、2階に拡張。2020年にSCREEN GINZA MAISON.をオープン。サロンワークを中心に雑誌の撮影、ヘアショー、国内外でのセミナーなど幅広く活躍中。
HARUTO
DaB DAIKANYAMA副店長・スタイリスト。圧倒的なセンスと高い技術力を持ち、パーマ技術やストレートパーマ、ケミカル知識を得意とする。コンテスト受賞歴やセミナー講師の実績を多数持つ。
KOTA
DaB MUUT 副店長・スタイリスト。再現性の高いカットとエッジの効いたハイトーンカラー・デザインカラーに定評がある。ストリートやモードを落とし込んだ独自のセンスで、若者を中心に絶大な支持を集める。
クリエイティブは強い意志を持って取り組む先に生まれる
「絵」と「言葉」を高い解像度でアウトプットできるのがデザイナーとしての強み
八木岡さん:
僕が身につけたスキルで一番強みになっているのが瞬時に「絵」を浮かべること。目の前にいる人のヘアスタイルとかレングスとか前髪の長さとか、頭の中で出来上がりを濃くイメージできるんです。デザインカラーの複雑なにじみとかは想像するのが難しいけど、「絵」をイメージできるのは強みですね。ただこれは「身につけよう」と思わないと絶対にできない。たとえば、常に電車に乗っている人の顔を見てヘアスタイルを想像するとかね。僕も最初は全然浮かばなかったから、やり続けることが大事なんじゃないか。
あと言葉に関してだけど、僕たちの仕事は言葉が行動になる。たとえば、前髪を3mm切ってラウンドさせようとか。よく若い子が「ヤバい」だけで済ませちゃうけど、プロならどうヤバいかを瞬時に判断して、次の行動に移さなきゃいけない。ざっくりした捉え方じゃなくて、解像度の高い言葉に変えないといけない。そういう習慣をつけるのも大事だと思っています。
DaBで言うと創業以来、毎月欠かさず社内デザインコンペをやってきましたね。HARUTOとKOTAはコンペがクリエイティブに活きてる?
HARUTOさん:
社内デザインコンペは入社1年目から参加させてもらえるのですが、何がいいかって“発表する機会を得られる”こと。結構壮絶でむちゃくちゃ緊張しますが、コンテストにはかなり活きたと思いますね。
KOTAさん:
僕は日々のサロンワークに活きていますね。いろんな人の感性が息づくヘアデザインを目にすることで、凝り固まらずさまざまなデザイン提案をできるようになったと感じています。
八木岡さん:
モデル探しや衣装選定も全部含めて、みんなよく頑張っている。デザインを見る目やデザインする力を養うのは、反復練習で回数をこなすしかない。基礎技術だけをどれだけ高めても、素敵なデザインをつくれるようにはならない。デザインの発想や考え方も持っていないとダメだから、若い時期からその習慣をつけることは大事だと思いますね。
クリエイティブだけでなく、まずビジネスで成功してほしい
プロとして成功しないと、クリエイティビティの裏付けがなくなる
八木岡さん:
我々の仕事の軸はサロンワークで、お客さまを満たすこと。だからこそクリエイティブの前に、まずはサロンが成功することが大事。クリエイティブには力を入れるけど、サロンがほどほどではダメよ。やっぱり美容師ならサロンを繁盛させるべきだし、一人ひとりが売れっ子になるべきだし、稼ぐべき。それがクリエイティビティの裏付けになる。ビジネスとしても成功しないと美容業界の表現者として良くないと思うね。
神谷さん:
よく「クリエイティブとサロンワークってどうつながりますか?」という質問をされるのですが、つながっている部分もあれば、つながっていない部分もあると思っています。僕がヘアショーをする理由は結構シンプルで、ステージ上でパフォーマンスをする機会って、普段の仕事ではないじゃないですか。人生においてサロンワークともう1つの顔がつくれたら面白いなっていう動機です。クリエイティブって何かのためにやるというより、気づいたら生まれてくるものと思っていますね。
クリエイティブがサロンワークにつながる部分としては、僕たちはヘアショーなどの写真をサロンに来られたお客さまに見せるんですよ。そうするとすごい喜んでくれて、信頼度が増す実感はあります。さらに、そこから紹介だったり、広告の仕事につながったりと幅が広がることは実際にありますね。
ヘアをイチから仕立てる美容師はデザイナーである
スタイリストではなく、ヘアデザイナーであることを意識して歩んできた
八木岡さん:
美容業界では、世界を見ても未だに「ヘアデザイナー」とは呼ばれません。やっぱりスタイリストなんですよ。でも僕は「ヘアデザイナー」という呼び方に強いこだわりがあります。
極端に言いますがファッションスタイリストという職業自体はとても素晴らしい仕事です。ただし、服はつくりませんよね?ファッションデザイナーがつくった服を選んで、その人流にコーディネートするのが、スタイリストです。
対して、美容師はお客さまを見てイチからヘアをつくり上げる。ファッションで言うとオートクチュールのようなものです。スタイリストとデザイナーでは、役割が違うんですよ。そういう意味で僕はヘアデザイナーであることを強く意識しながらこれまで歩んできました。
SNSはお客さまの分母を増やす最良のツール
問われるのは、SNS経由で来店されたお客さまに対応する底力
八木岡さん:
仮に僕が令和デジタル時代の美容師だとしたら、SNSを誰よりもやるよね。SNSは分母を増やすいいキッカケになる。大事なのは、それをどう活かしてクリエイティブや先につなげていけるかということ。
KOTAさん:
今やSNSは若手美容師にとっては必要不可欠なツールです。僕はInstagram、TikTok、YouTubeの合計で約20万人のフォロワーがいるのですが、一番意識しているのはリピート率です。僕のお客さまの比率は毎月70%がリピートで、30%がご新規さま。この7:3の比率を大事にSNS活動をしています。
リピートにつなげるために重要なのは、まず技術力。そして、ホスピタリティです。たとえば、僕の場合ブリーチカラーのお客さまが多いので放置時間には絶対一人ひとりにお声かけをするようにしています。あと大事にしているのが、SNSのイメージと実際のギャップをできるだけなくすことです。むしろ、より良く見せるために、お客さまとのファーストコンタクトでは、いつもより声をワントーン上げて接客しています。結局、そういう部分が一番大事になってくると思っていますね。
八木岡さん:
KOTAは頭がいいし、人間的なスキルを持っている。カラーデザインのテクニックも凄い。誰もが思い通りに顧客をつくれないところ、KOTAはSNSを活用して顧客をつくり、多くの新規のお客さまにしっかりと対応できているのは素晴らしい。自ら自分のキャパを広げていくのは、プロとしての絶対条件だと思うよ。
DaBは濃い才能が集まっている集団でありたい
育てたスタッフが、自分の想像を超えていく幸せ
八木岡さん:
DaBは今、若手やキャリアのあるスタッフ、幹部もみんな育っているのでいいブランドになっていると思います。DaBは才能の濃い人間の集団でいたい。だから、人を育て、活躍する場をつくることを大事にしていますね。それが自分のミッションだと思っていますし、それが結果としてブランドになっていくんじゃないかな。
神谷さん:
SCREENはまだ12年ぐらいで歴史が浅くブランドサロンだと思ったことはないのですが、ブランドであり続けるのは本当に難しいと思っています。DaBさんを見て思うのは「継承」があることですね。いろんな世代のスタッフがいてカタチは違ってもDaBのカッコ良さが根底にある。KOTAさんもキャッチーに見えますが、やっぱりDaBなんですよ。その血筋みたいなものをどれだけつなげていけるかが、ブランドサロンになれるかどうかじゃないかと思っています。
その点で僕たちは今、舵取りの最中だと思っています。これまでの10年間、僕が先頭を走り、背中を見せてきました。僕の背中を見てきたスタッフが次に何をしていくか。想いや仕事をどう継承していくかという点で舵取りの最中だと思っています。
八木岡さん:
これから、きっと楽しいよ。自分が育てた子が、自分はやらないようなアプローチでお客さまを呼び込んで、ヘアをつくる。「カッコいいな」と思える瞬間がずっと続いていく。もう、これ以上の財産はないね。もちろん、悩むこともあるよ。でも悩む時間は短くすると決めている。悩むのを習慣づけちゃダメ。悩みは短い時間で乗り越えて、やるしかないよ。
一人ひとりが胸に抱く、美容師としての未来
美容の仕事は人生の全てだった、と言いたい
KOTAさん:
生涯チャレンジャーでいることです。まずはお客さまを満足させること。SNSを頑張る。クリエイションにもさらに磨きをかけていく。そういった意味で、生涯チャレンジャーでいることを目標にしていきます。
HARUTOさん:
僕は社内で「DaBの顔になります」って宣言したんです。八木岡さんはじめ、諸先輩たちがつくった歴史を引き継ぎ、デザインの顔になることを目標にしてやっているので今後もそこを極めていきたいと思います。
神谷さん:
自分自身、八木岡さんやヘアショーへの憧れがあったからこそ、今があると思っています。だから、若い子たちが憧れを抱けるようなものをつくっていきたい。そして、またその若い子たちが誰かの憧れになるような。そんな血筋をつくっていきたいと思います。
八木岡さん:
僕はもう美容の仕事は天職ですからね。ここまで来たら「美容の仕事は人生の全てだった」と言いたい。若い世代の人たちも、結果的にそうなっちゃったでいいと思う。いろんなものに挑戦して、美容を通じて学んでいく。そういう自分をまた好きになることが大事だと思うよ。今を生きる美容師さん、特に若い世代の美容師さんには素敵な美容業界をつくっていってほしい。今日は本当にありがとうございました。
八木岡 聡(ヤギオカ サトシ)
株式会社ダブ、株式会社ビタミンズ代表。現在、代官山・青山・銀座にヘアサロン「DaB」を展開。高いデザイン性とテクニックを誇るヘアデザイナー集団の代表を務める。インダストリアルデザイナーとして照明器具や家具、美容器具などのプランニングやデザイン、化粧品の開発・ディレクションなど幅広く手掛けている。
タカラベルモントでは、2000年から販売を続けている美容椅子のベストセラー「D.シリーズ」の開発に関わる。
シリーズ:この人から学ぶ、成功の秘訣「TBMG」
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木村 和彦さん(株式会社 友美) | この人から学ぶ成功の秘訣 TBMG
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本田 真一さん (HONDA AVEDA hair&spa) | この人から学ぶ成功の秘訣 TBMG
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矢崎 由二さん (LIPPS Hair) | この人から学ぶ成功の秘訣 TBMG
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古城 隆さん (DADA CuBiC) | この人から学ぶ成功の秘訣 TBMG
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みやち のりよしさん(SHACHU) | この人から学ぶ成功の秘訣 TBMG
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原田 忠さん (資生堂) | この人から学ぶ成功の秘訣 TBMG
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