「誰も教えてくれない○○の話」は、誰に聞けばいいのかわからない「サロン経営のさまざまな悩み」を、専門家に解説してもらうシリーズ。第1~3回まで、サロンワークにおいて、避けては通れないお客さまからの「クレーム」がテーマです。
第3回となる今回は、「“これってカスハラ!?”常連客とスタッフを守るための対応策」。10年以上通ってくださる常連客が多いヘアサロン・セラヴィ。接客態度が原因で、ロイヤルカスタマーを激昂させてしまったアシスタントの松井さん。美容業界の人材育成コンサルタント「苺谷千尋」先生に、スタッフを守る方法や、わがまま客を生み出さないための対策などを教えていただきます!
連載:“美容業界の人材育成コンサルタント”が解説する「誰も教えてくれないクレーム対応の話」(全3回)
第2回 “値上げで失客!?”ロイヤルカスタマーへの正しい対応方法
第3回 “これってカスハラ!?”常連客とスタッフを守るための対応策 ★今回はコチラ
登場人物
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苺谷千尋(株式会社ソルフォア コンサルティンググループ コンサルタント)
レセプショニスト、美容師、美容専門学校教員を経て、美容に携わる業種の人材育成をメインとしたコンサルタント。美容業界経験者だからこそわかるサロンが抱える課題に、スタッフ研修、業界講演など通じて精力的に取り組んでいる。
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矢島さん(オーナー兼スタイリスト)
40歳女性。20代で独立。過去にスタイリストデビューをなかなかさせてもらえず悔しい思いをした経験があり、スタッフの早期育成に力を入れている。「美容師は実践教育で育つ」というのが持論。
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松井さん(アシスタント)
「早期育成」というオーナーの教育方針が決め手になってセラヴィに入社。Z世代ど真ん中。自己主張が弱く主体性に欠けるところがあるが、サロン内での行動に協調性はある。
※2025年2月現在
【目次】
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お客さまがスタッフを罵倒。これって、カスハラ!?
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—オーナーの矢島さんが独立する前からの常連客Aさまが来店する日は、ヘアサロン・セラヴィのスタッフが、いつもナーバスになると言う。理由は、小さなミスでも許してもらえず、長時間叱られることもしばしば。ある日、アシスタントの松井さんに、Aさまが激昂。翌日から松井さんが欠勤状態に…。矢島さんは対応に困り、苺谷先生に相談することにしました。
先日、常連客のAさまがアシスタントの松井を罵倒し続けたんです。お店の空気が一瞬で凍りつくほど、すごい剣幕で。最終的には、私と松井でひたすら謝り、その場を収めて、ひとまず帰っていただいたのですが、その日以来、松井は「お店に行くのが怖い」と欠勤するようになってしまったんです…。これって、もしかして最近よく耳にする“カスハラ”ってやつですか?
それは大変でしたね。罵倒されるに至った経緯は、分かっているのですか?
まず、Aさまが前回来店された時に購入したトリートメントのポンプ部分に不具合があり、「他に不良品があってはいけないから」と、わざわざサロンまで持ってきてくださったんです。その日はお会計をお待たせするほど忙しかったのですが、他のお客さまを優先し、Aさまを後回しにしたみたいなんです。
それなのに、「申し訳ありません」や「ありがとうございます」などの配慮の一言もなかったようで。さらに、松井は「商品を返品するにはレシートが必要です」と…。そのお気遣いへの感謝を伝えるどころか疑いの目を向けたようでして。
なるほど。松井さんの接客上のミスが2つあったのですね。
また、そのタイミングで、店の方針で決めたロイヤルカスタマー向けの特典である“顧客特別割引サービス”を来月から廃止すると伝えたことも、良くなかったのかもしれません。
Aさまは、どのように激昂されたのですか?
「今までよくしてあげたのに…。いくら経験がないからって、そんな態度で客が納得すると思っているの!?あなたのようなスタッフがいる店に通う必要はないわ!!」と…。
この時、松井は犯したミスに気づいておらず、お客さまの急変した態度にただ驚き涙ぐむことしかできず…。そんな態度を見たAさまが追い打ちをかけるように、「あなたみたいに接客の才能がない人が店にいると、この店は良くならないわ!」と言い放たれて。一気に店の空気が凍りついてしまったんです。
松井さんの接客態度と、そんな時に常連客の特典廃止を伝えられたことが許せないということですね。
はい。Aさまは、お店に対してのエンゲージメント(愛情)がとても高く、人一倍スタッフのことも気にかけてくれているのですが、「若いスタッフには、私が教えてあげないと」といった使命感が強いため、少しのミスも許さないというスタンスでいるんです。
今回もスタッフの配慮のない言動が続いたことに激昂されて、後に引けなくなったというような感じです。
でも、そういうお客さまなら、日頃からスタッフへ注意を促すようなことはなかったんですか?
スタッフには、「ある程度、融通を利かすように」と指示を出していました。
スタッフを守るのは、お店の義務!
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事情は分かりました。矢島オーナー、まずはスタッフの松井さんへのサポートが急務です。
松井さんとカフェなど話しやすい場所で会って、じっくりと話をしてあげること。そして、本人さえ良ければ、専門家のカウンセリングを受けさせてあげてください。本人が嫌がったらムリに連れていくのは逆効果ですが、なるべく気持ちが楽になるからと最初は一緒についていくのも良いと思いますよ。
今すぐ松井に連絡してみます。でも先生、カウンセリングだなんて、少し大袈裟じゃないですか?
脅かすようですが、企業は働く人の安全を確保する「安全配慮義務」を法的に負っています。
スタッフを仲間として大切にすることはもちろんですが、今回の件は、もしかすると、この安全配慮義務違反にあたる可能性があります。もし松井さんがPTSDを発症し、このまま退職を余儀なくされ、訴訟に発展してしまうようなことになると、問題として取り上げられる可能性があると思います。
えっ、訴えられる…!?
接客が難しい常連客に対して、「融通を利かすように」といった曖昧な指示にとどまり、店としての対応方針を明示していませんよね。
また、クレームの初期対応をマニュアル化して訓練していない等のことが該当する可能性があるのです。
マニュアル化していないのは、事実です…。でも先生、そもそも“カスハラ”するお客さまが悪いのではないですか?
今回の件は、確かに激昂してスタッフを罵倒したシーンだけを切り取れば、カスハラと取れなくもありませんが、激昂されたお客さまは10年来のお付き合いがある方。
お客さまの立場を利用し、どう考えても無茶な要望やわがままを通そうとしたり、意図的に利益を求める不当な要求などではないので、「強めのクレーム」として対応する方が妥当ではないかと思います。
クレーム後に来店したお客さまへの適切な対応
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次回Aさまがサロンにいらっしゃった時に、どのような対応をすれば良いでしょうか?
まずは、いつもと変わらず笑顔でお出迎えします。その後、すぐに先日の出来事について謝罪し、その一件の後にサロンで取り組んだ再発防止策を具体的に伝えてください。
そうすることで、お客さまは自分の思いが少しはサロン運営の役に立ったと思っていただけると思います。
ただ、そのお客さまの訴えの影響で、スタッフが傷心してしまったというのも事実ですので、「スタッフの対応で至らない点があれば、矢島に指導不足だとおしゃってください」と、伝えていいのではないでしょうか。
はい、分かりました。これからは私がお客さまとスタッフの間に入るようにします。
また、ロイヤルカスタマーはお店に完璧を求めがちですので、まだ発展途中であること、温かく見守ってほしいと伝えてください。
本当にサロンのことを思ってくださっている方であれば、今回は少し言い過ぎたのかもしれない…と、お気づき頂けるのではないかと思いますよ。
常連客をわがまま客にしないための未然防止策
今後、同じようなことが起こらないようにするためにも、お客さまのご要望やご不満を聞く機会を定期的に設けることも大切です。
目的は、お客さまに快くご利用いただき、末永く通っていただくことなので、ある意味「ガス抜き」的機会として、お客さまの不満が爆発する前に課題を発見し、早めに対処することができます。
お客さまにアンケートをお願いしても良さそうですよね。
はい。知らず知らずのうちに、お店がわがまま客を育ててしまうことがあることを理解してください。
例えば、予約時間からかなり遅れ、連絡がないまま来店したにも関わらず、予定通りのメニューをしたいと言うお客さまっていませんか?
います。他のお客さまに迷惑がかかるので、本当は断りたいのですが、なかなか言いにくくて…。
そういう時は、「次にご予約をいただいているお客さまがいらっしゃるので、〇時までにできるメニューでしたら、何でもさせていただきます。」と、時間には限りがあることを伝えましょう。
これは、ロイヤルカスタマーを目の前にして言いにくいことではありますが、わがままを放置しない為には必要なことです。
また、このような対応をとるために、何分遅刻したお客さまはお断りするなど、対応の方針を決めておきましょう。決して、スタッフ個人の判断に委ねてはいけませんよ。
確かに…。わがままと取られる言動をされる傾向のあるお客さまに「融通を効かしている」と言えば聞こえはいいですけど、ただ言いなりになっているだけで、スタッフを危険にさらすというリスクを放置していたなと思います。
いいですか、矢島オーナー。問題が起きたらすぐミーティングを開き、お店の基準をルール化していくことが大切です。
クレーム対応もそうですが、クレームに至らないためのルールをきちんとマニュアルにすることで、スタッフを守りつつ、お客さまにも気持ちよくお店に通ってもらえます。
今回の件は、あくまで強めのクレームでしたが、昨今カスハラの相談が増えているのも事実です。下記にカスハラ対策についてまとめていますので、ぜひ今後の参考にしてください。
サロンのカスタマーハラスメント対策
① 現場のスタッフと一緒にカスハラと思われる過去のケースを洗い出す。
② クレームとカスハラの違いを理解する。
③ お店のカスハラ判断基準を作る。
④ ストレスマネジメント研修等を受講してスタッフのメンタル対策を強化する。
⑤ 対応マニュアルを作成してロープレ研修を実施する。
⑥ 相談体制(産業医、産業カウンセラーとの連携)を作る等。
—その後、オーナーの矢島さんは、松井さんと話し合った結果、松井さんはお店に戻って頑張ることを決意しました。ヘアサロン・セラヴィでは、ミーティングを開き、接客やクレーム対応など、店の判断基準をルール化し、マニュアルづくりに取り組んでいるそうです。
ロイヤルカスタマーもスタッフも、サロン・セラヴィを支えてくれる大切な存在です。両者を守るためにも、リスクに備えなければいけません。今後は、お客さまにとってもスタッフにとっても、末永く、安心して通ってもらえるような環境を整えてくださいね。
はい!お客さまとスタッフ、その両方を守るためには、整備不足であったと改めて反省しています。先生、今回もありがとうございました!
【今回の話から学ぶこと】想定されるリスク全てに備えよ!
今回の件は、前提として、スタッフに元々備わっているコミュニケーションスキルに頼っていたことに気づく出来事だったと思います。美容の専門家であるということは、『美容のプロ』であると同時に『接客のプロ』であるべきです。美容技術や美容知識を学ぶことと同じように、接客についてもしっかり学ぶ必要があります。さらに、今回のような起こりうるケースが発生した場合にどうするか、様々なことを想定して事前に体制、対策を持っておくことが大切です。サロンの発展のためにも「想定されるリスク全てに備えよ!」ですね。
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