原田 忠さん (資生堂)

原田 忠さん (資生堂) | この人から学ぶ成功の秘訣 TBMG

美しさとはパワー。ヘアメイクアップアーティストとして世界を舞台に活躍している原田さんの想いとは。

JHAを始めとする受賞歴が多数あり、大人気漫画やアニメとのコラボレーションで世界的に有名な日本を代表するヘアメイクアップアーティスト原田 忠さん。

「誰もやったことがないこと」を追求して、アーティストとして唯一無二の活動を行う原田さんに、アイディアの秘訣や、アーティストでありながら、SABFAの校長を引き受けた理由、さらに今年11月に開催されるTWBC2022のステージにかける想いや、将来の夢までをお伺いしました。

「美容業」の幅広さや奥行き、今後の活動の広がりまで、大変興味深い内容のインタビューです。

ライター 森永 泰恵 | カメラ 山﨑 美津留 | 配信日 2022.8.10

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航空管制官を経て、人と接する仕事に立ち帰った20代

航空自衛隊から美容業へと転身されたのは、なぜですか?

原田 忠さん (資生堂)

戦闘機パイロットの夢を実現するために航空自衛官になりましたが適正がなく、航空管制官として勤務していました。

しかし、叶わなかったパイロットをサポートしている自分に違和感を覚えたことと、人の命を預かる緊張感のある仕事にも関わらず、その人の顔を見ることがないというコミュニケーションの希薄さを痛感し、3年で退職しました。

もっと人と接する仕事、人と顔を合わせてコミュニケーションが取れる仕事に就きたいと思ったんです。

そんな時、自分の生まれ育った環境=美容師をしていた母の姿が目に浮かび、きれいになったお客様が笑顔で帰っていく原風景を思い出して、美容の世界に飛び込むことを決意しました。


東京で6年間サロンワークを経験し、このままいけば店長などを任され、お客様ももっと増えていくだろうと思っていた時に、ふと、気づいたんです。

僕は髪ばかり見ていて、トータルで提案できていないのではないかと……。

メイクやファッション、その方のライフスタイルまで提案できるような自分になりたいと思い、美容師としてのキャリアを一旦リセットして、27歳の時に美容を一から学び直すべくSABFA(サブファ)に入学しました。

キャリアに合わせて広がる、想像以上に幅広くて刺激的なヘアメイクアップアーティストという職業

SABFAを卒業後、資生堂に入社され、ヘアメイクアップアーティストになってみてどんなことを感じましたか?

原田 忠さん (資生堂)

アーティストとして技術的なところは練習をしたり、色々なものを見たり、現場に行ったりすることで徐々に実力がついていきましたが、商品開発を担ったり、その商品をどう使うかというハウツー情報を発信したり、海外のデパートの資生堂カウンターでメイクアッププロモーションしたり、コレクションの現場でヘアメイクをしたりすることは、想像していた以上に仕事の幅が広く、驚きました。

ある一定の期間、特定のブランドの担当をしたら、次は違うブランドを担当したり、男性のブランドも女性のブランドも担当します。


僕はどちらかというと飽き性なのですが、ルーティンではなく日々、異なる仕事に携わることは本当に楽しく、飽きないんです。キャリアに合わせて色々な仕事が増えていき、自分にとってとても刺激的でした。

海外に行って色々な国の文化を肌で感じることで視野も広がりましたし、それぞれの国の文化を体験することによって、それぞれの国が「美」というものをどういう切り口でどう表現するか、「美」に何を求めているか、そういうことを考える機会がたくさんあり、様々なことを経験させていただきました。

自分自身を掘り起こし、突き詰めることでオリジナリティがみつかる

作品作りにおいて、人とは違うことをどう見つけていますか?

原田 忠さん (資生堂)

本来、遠いイメージのものをミックスすると新しいものが生まれる、そんな感覚を大事にしています。

たとえば日本人が着物を着ると古典的ですが、外国の方が着るとドキッとすることがありますよね。

どんな人もみな生まれや育ち、経験したことも異なりますから、自分は何が好きなのか、自分はどんなことに興味があるのかなど自分自身を掘り起こし、突き詰めていけば、必ず人と違うことを見つけられると思うんです。

そこから色々なものをうまく組み合わせていけば、イノベーティブでオリジナリティのある表現ができると思います。


僕にはちょっと変わった「集めグセ」があり、いずれ使うかもしれないという思いが常にあるので物がなかなか捨てられません。

数年経ってから「そういういえば引き出しに○○があった」と思い出して実際に作品作りで使うこともあります。本来捨ててしまう物をあえてストックしておき、その数が増えると「これらで何か面白い物が作れないかな?」と想像することもよくあります。想像するだけで楽しいんです。

今はネットで大抵のことは調べられますが、僕は極力、現場に足を運ぶようにしていて、本屋さんや材料屋さんにもよく行きます。

足を運ぶことで思いがけない物との出合いがあったり、手触りや香りを体感して脳が刺激されることで新しい発想が生まれたりするんです。

なので、日頃から作品づくりのヒントになりそうな物や行動を大事にしています。

漫画やアニメとビューティをミックス。世界中から反響があった

漫画やアニメからインスパイアされて作った作品が世界中で反響を呼びました。感想をお聞かせください。

原田 忠さんの作品

僕は好きな漫画家やイラストレーターの画集を見るのが大好きで、家にもたくさんあります。

日本に限らず海外の方のものも多いですね。結構、細かい表現をしているものが好きなのかもしれません。

2013年、大好きな漫画やアニメからインスパイアされてビューティとミックスさせてみようと思い、表現してみたことは大きな経験になりました。

漫画のコマのカット割りやアングルは頭の中に残っていたので、モデルさんのポージングなどに生かすことができたと思います。

作ること自体よりも、モデルさんに漫画の世界観を理解してもらうことが大変でした。

僕だけではなく、モデル、ファッションスタイリスト、フォトグラファー、など関わってくれた方々にどれだけ気持ちよくプロとしての仕事をしていただけるかという環境づくりが本当に大切だと思いました。

うれしいことに、その作品は世界中から反響があり、作品が一人歩きするような感覚に陥りました。

発信する以上は責任感を持って作品作りをし、高いクオリティ保たなければならないと改めて感じましたね。

自分の技術を詰め込みながら、見てくれた人が納得するような説得力のある表現をしておいてよかったなと思います。


海外でも僕の作品を見てくれた人は多いようで、今までは業界内だけで収まっていたことが、その枠を飛び越えていく時代になったのではないでしょうか。

一つひとつの作品にしっかり思いを込めてクオリティの高い作品を発表することは、とても大切なことだと思います。

アジア風、日本人風のテイストを入れ込んで世界を意識

作品を発表する時は、世界を意識していますか?

原田 忠さんの作品

最近は特に世界をより強く意識しています。海外のフォロワーも結構いますので、ただ作品を発信するだけでなく、そこに何かしらのメッセージを込めています。

僕は日本人であり、アジア人というアイデンティティがあるので、アジア風なものを入れることもあります。

他の文化の人たちが「これは真似できないね」と思うような日本人らしいテイストを入れ込むと、他の地域の方の作品と差別化できますから、そこを考えて作品を作っています。

コロナ禍になってから作品作りの数は減っていますが、タイミングを見て作り、発信しています。

アーティストとして、学生と同じ目線で業界を盛り上げる新たな校長像を目指して

2016年、SABFAの校長に就任されました。オファーを受けられた理由を教えてください。

SABFA

SABFA卒業生で校長に就任したのは僕が初めてだったと思いますが、2019年までの4年間、校長を務めさせていただきました。

当時、アーティストとしてだけでなくマネージメント業にも携わるということを次のステップとして掲げていたので、ぜひお受けしたいと思ったんです。

いわば「二刀流」に挑むことで自分も成長するでしょうし、プレイヤーでもある僕が校長になることで、次の世代の方が僕の活動を見てSABFAを目指していただけたらという思いがありました。


普通、校長先生といえば年齢もかなり上の方で、一線を退いて後進の育成に専念し、机にドンと座っているイメージだと思いますが、僕はそうではなくて、自らも発信しながら学生と同じ目線で業界を盛り上げている、そんな校長像をお見せしたいと思ったんです。

とはいえ、やり始めてみるとかなり大変でした。

当時は海外出張も頻繁にありましたし、様々な仕事をさせていただいていましたから、1年先までスケジュールが見事に埋まっている状態で、かなり無理をしていたと思います。

個性はそれぞれ。その人に相応しい可能性の扉を開いてあげることが大切

校長として過ごした中で、得たもの、感じたことは何ですか?

原田 忠さん (資生堂)

刺激を学生たちに与えつつ、僕自身も学生たちに刺激を与える、そんな日々でした。

校長はプレイングマネージャーとして全力で走っているよ、という姿を見せることはできたと思います。

時間がある時はできるだけ校長室にもいるようにして、「みなさんと一緒にいますよ」ということを伝えようとしていました。初めて経験することばかりでしたが、色々なことにチャレンジしていくことはとてもやりがいがあったと思います。


4年間、色々な学生を見ている中で「どれだけ気づかせてあげられるか」が大切なのだということを実感しました。

手取り足取り教えることも大切ですが、一つゴールがあるとしたら、そこにたどり着くまでの道はたくさんあるよという教え方をしたほうが、その人の選択肢が広がると思ったんです。

道が一つしかないとしたら、僕のコピーでしかなくなりますから、様々な可能性の扉を開いてあげることが本当に大切だと思いました。

コロナ禍にクリエイション魂を幅広い分野で発揮

校長を退任し、コロナ禍となった時はどのように過ごしておられましたか?

原田 忠さん (資生堂)

校長を退いた時、ちょうどSABFAが新しい校舎に移転するタイミングでしたので、1年間かけて工務店の方たちと打ち合わせを重ね、すべてをゼロから作り上げていったことは新しい経験になりました。

また、クリエイションに集中できる環境になり、様々なアイディアが湧き上がっていたのですが、そのタイミングで色々なオファーをいただいたんです。


SABFAの階下にある資生堂ビューティ・スクエアのビジュアル作成(年6回更新)、ユニクロ銀座店さんのオープン時にアーティストとして参画、ユニクロさんのシャツとコラボする、といった仕事が次々に舞い込み、校長という立場から気持ちを切り替えてさらに走り続けることができました。

コロナ禍だったのでクリエイションが鈍化するかと思いきや、逆にスピードが増し、これまで以上に表現の幅が広がったと思います。

日本の伝統美と今風な要素を融合したステージにしたい

2022年11月21、22日にパシフィコ横浜にてTWBC2022が開催されます。原田さんはTWBCでステージに立ちますが、どんなステージにしたいですか?

原田 忠さん (資生堂)

海外でヘアショーを行ったことは結構ありますが、日本ではあまりヘアショーをやったことがなく、(メーカーとしては)競合とも言えるタカラベルモントさんからお声をかけていただいたことは非常にイノベーティブなことだと思いました。

各方面で調整をしていただき、今までとは違った土俵でパフォーマンスをするのもよい経験になるのでは思い、お受けしました。


コロナ禍に日本の文化に触れる機会があり、浮世絵の結髪や日本髪、花魁などから大きな刺激を受けました。

そういった日本らしい要素と、現代のファッション的なカッコいい要素を融合させ、これまでの僕のパフォーマンスも入れ込みながら、日本の伝統的な美を意識したステージにしたいと思っています。

昔はゴムもなく、ハサミも今のように便利なものではない中でヘアスタイルを作っていたので、それを理解して勉強を重ね、今風に変えて表現できたら面白いかなと思っています。

海外の人の目も意識しながら日本的な美を発信し、「Beyond The Japanese Beauty(日本の美を超えて)」を表現したいです。



美しさとはパワー。人を勇気づけ、背中を押してくれるもの

TWBCのテーマは「WHAT IS BEAUTIFUL?」。原田さんにとって美しさとは何ですか?

TWBC2022

僕にとって美しさとは「パワー」です。コロナや戦争が起きている世の中において、美しさに触れる機会はここ2~3年で増えていると感じています。

美しさは人を勇気づけたり、背中を押してくれたりするもの。人それぞれの美しさがあり、その美しさがその人にとっての活力や勇気、エネルギーになります。

航空自衛隊にいた頃は平和を「守る」という意識でしたが、美容業界に入った今は、平和を「創る」気持ちになりました。

僕自身も美しさからパワーをもらっていますし、生きる力になっています。


「美」は時代によって変わっていきます。

それでもずっと残っている美しさには何かしら意味があり、ものすごいエネルギーやパワーがあります。それをしっかり僕らが感じて、未来に「美」を推し進めなければいけないと思っています。

最近、日本の過去の伝統や文化はもっと愛でなくてはいけない存在なのだと、とても感じています。

それを知ることで海外の人に「日本とはこういう国なんだよ」と初めて語れるのではないでしょうか。

僕は日本の伝統美を世界中の人たちに発信する使命感を持っています。

不易流行とか陰翳礼讃とか、すっかり忘れられて今は見えないものの中に、新しい「美」のヒントがたくさんあると思います。

「美」を切り口に更に幅広い活動をしていきたい

これから創作してみたいことは、どんなことですか?

原田 忠さん (資生堂)

僕らの仕事は意外と活動範囲が狭くなりがちなのですが、美しさは無限にあり、たとえば音楽や絵画、料理などとビューティをつなげていきたいと考えています。

2021年にポケモンシャツさんとコラボして、僕が表現したポケットモンスターのキャラクターのビジュアルに対し、ミュージシャンが曲を作り、パティシエがドリンクを作り、調香師が香りを作ってくれました。

一つのものを複合的に五感で「美」を感じられるような展示会をすることができ、とても面白い取り組みだったと感じています。

中でもミュージシャンの方が「原田さんの作品を見ると、頭にメロディが浮かぶ」と言ってくれたことが印象に残っています。

そういう活動をもっと拡大していきたいですね。「美」を切り口にした体験はとても大切です。「五感で感じる美しさ」が最近のテーマになっています。

次のテーマの一つは「宇宙美容」の推進

長期的な目標やテーマは何ですか?

原田 忠さん (資生堂)

今、「宇宙美容」に取り組み始めたところです。


宇宙のことを考えることは地球のことを考えること、極地のことを考えると地球上の恵まれない人たちの環境を解決できるという発想で、極限状態で美容をどう捉えるかが鍵になってきます。


20年後、30年後に普通に宇宙に行けるような時代が来ると思いますので、次の世代につなぐために今のうちから宇宙に関わるソリューションを作っていきたいと考えています。


たとえば、カットをしても毛が飛び散らないよう毛を吸い取る機能があるハサミや、水が飛び散らないシャンプー台、アルコールフリーのシャンプーや拭き取り用のペーパー、飲み込める歯磨き粉、など、とにかく環境に配慮し、ゴミを出さないことを追求した製品ができつつあり、究極のSDGsと言えます。



将来的には宇宙飛行士にならなくても宇宙に行ける時代が来ると思うんです。宇宙ステーションを作るために建築士が宇宙に滞在する、そうなると宇宙に美容室も必要になり、僕ら美容のプロフェッショナルも行くことになります。

一部のお金持ちしか宇宙に行けない時代から、職業によっては宇宙に滞在できるようになるのではないでしょうか。


ルーティンの中で美容というのは、生活のリズムや気持ちを整えるスイッチになると言われています。


体内時計に合わせて歯を磨く、シャンプーをする、宇宙ステーションからメディア対応をするためにメイクをする……。そのおかげでだらだらと時間を過ごしてしまうことを防ぐことができます。



「宇宙美容」を推進することで、色々なことを考えるきっかけになればいいなと思います。

3つの法則を守れば、夢は叶う

若い美容師さんへメッセージをお願いします。

原田 忠さん (資生堂)

僕はいつもセミナーで最後に必ず「夢を叶える方法」をお話しています。


夢を叶えるには、

1.やりたいことを声に出す。

2.仲間に助けてもらう。

3.最後まで諦めない。


この3つがとても大事です。やりたいことは声に出せば必ず誰かが聞いてくれます。


仲間を探して聞いてもらいましょう。

そして仲間に助けてもらいましょう。


作品撮りも絶対1人ではできず、モデル、カメラマン、ファッションスタイリスト、みんなのチームワークが大切です。


最後に、諦めない気持ちが大切です。


この3つを心に留めて日々がんばっていれば、夢は一つひとつ叶っていくと思います。



原田 忠さん (資生堂)

原田 忠さん

ビューティークリエーションセンター
資生堂トップヘアメイクアップアーティスト
国内外のコレクションのバックステージや、宣伝広告ヘアメイク、商品開発に携わるなど、幅広く活動している。2004年、2012年、JHAグランプリ受賞、2005年、2006年、2009年にJHA準グランプリ受賞、2008年、JHA芸術賞受賞、他受賞歴多数。2016~2019年、SABFA校長として後進の育成に尽力。2022年、JHAプロフェッショナル審査員就任。


https://www.instagram.com/tadashi_harada_official

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