久保 雄司さん (SIX)

久保 雄司さん (SIX) | この人から学ぶ成功の秘訣 TBMG

“クボメイク”というワードが大流行したことで一躍脚光を浴びた久保雄司さん。今ではTVや雑誌のヘアメイクとして引っ張りだこですが、意外にも美容師になってからしばらくはメディアに出ることも作品撮りをすることも、メイクをすることもなかったそう。節目節目で美容師人生を変える出来事に遭遇しながら、2017年に自身のサロン「SIX」を設立。これまでの美容人生をじっくりお聞きしました。

ライター 森永 泰恵 | カメラ 岡田 誠 | 配信日 2019.11.28

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辞めたいと思ったことはない。美容師は天職

美容師を目指したきっかけは何ですか?

将来の進路を考えていた高校2年生の時、自分がやりたくないことを挙げていったら、目指す方向性が美容師かアパレル関係に絞られました。自分でデザインをするか、人がデザインしたものを売るか。僕は自分でデザインをする仕事に就きたいと思い、美容師を目指しました。自分は器用なほうだと思っていましたが、美容学校に入り、ワインディングに苦戦したり、女子が当たり前にできる三つ編みができなかったり、心が折れそうになったことも。とはいえ他にやりたいこともなく、逆に辞めたいと思ったこともありません。なので天職だと思っています。

SIX

後輩への教育やお店の管理を任されていた20代

デビュー後は、どんな毎日を過ごしていましたか?

久保 雄司さん (SIX)

就職してからは順調に試験をクリアして、当時そのお店で一番早い期間(2年半)でデビューしました。スタッフの人数も多く、競争も激しかったですが、苦しいとか辛いという気持ちになったことはあまりなかったかもしれません。当時の僕の役割はメディアに出たり会社を有名にしたりすることではなく、後輩への教育やお店の管理が中心で、他のサロンや美容師同士のコミュニティなどにも興味がありませんでした。毎日、お店の生産性や回転率を考えていた時、ふと、もう少し1人ひとりのお客様と向き合って本質的な部分で自分を見直してみたいと思ったんです。トレンドや売上ばかりではなく、落ち着いて親身になってお客様に接していきたいと思いました。28歳頃だったでしょうか。学生の頃から自分の店を持つ夢はありましたので、ひとまず退社し、先輩がサロンを立ち上げたのでそれに参加しました。

作品撮りを始め、セミナー講師を務めるように

そこでは、どのように集客しましたか?

久保雄司さんの作品

新しいサロンに移り、すぐに感じたのは、「○○サロンの久保さん」ではなく、ただの「久保さん」になったということ。“自分づくり”ということをやってこなかったため、もう一回1からのスタートでした。それまでどれだけ会社に守られていたのかということに改めて気づかされましたね。丸裸になり、そこから“自分づくり”をしなければならなくなったのですが、僕はそれが大変というよりむしろ楽しかったです。先輩と出したお店は小規模サロンの先駆けで、メディアにたくさん出るような有名なスタイリストは一人もいなく、どうやって売上を作るかが目下の課題。インスタがようやくできた頃で、集客サイトもまだまだ浸透していない時代です。待っていても新規のお客様はほとんど来ませんから、ヒマで時間ができたんです。目の前にお客様がいない以上、まずはお客様を呼び込まないといけません。みんなで考え、シンプルに自分たちの作品撮りをしようということになりました。カメラを購入し、モデルさんをたくさん集めて撮影をするということを毎日休みなくやりましたね。美容師さんのカメラブームの一番最初の頃です。当然それまで撮影なんてほとんどしてこなかったし、カメラの使い方も作品作りのポイントも分かっていませんでしたが、それでもとにかく続けました。僕はそれがすごく楽しくて、ゾーンに入った感覚でしたね。夢中になってやっているうちに、撮影セミナーの講師の依頼が舞い込み、SNSを通じて個人で依頼が来ることも増え、全国のサロンへ臨店講習に行ったりもしました。また、撮りためた作品を持って出版社に営業に行ったところ、雑誌に取り上げていただく機会も増え、徐々にお客様が増えていきました。撮影を始めたことによって、僕の美容師人生はガラリと変わりましたね。

自分の作りたいイメージを突きつめることを決断

作品撮りを続けた結果、どんな変化がありましたか?

ようやく自分の作りたいイメージが明確になり、美容師が楽しくて仕方がない!という日々を送っていました。デビューしたての頃は、よく先輩から「お前はどんなデザインが好きなの?」と聞かれても、僕は全部かわいいと思えるタイプなので、そう答えてよく叱られていました。「お前はそれがダメなんだ、自分の色がない」と。確かにその当時は漠然と「全部かわいい」と思っていて作りたいイメージも特に無く、今思えば考えが足りなかったと思います。しかし自分で作品撮りを追求するうちに、だんだん自分の作りたいイメージが見えてきて、まさにアクセル全開で撮影に励んでいました。そのゾーン真っ最中のタイミングで、僕は自分の作りたいイメージをもっと突き詰めようと決断し、思い切ってそのサロンを辞め、別のサロンに移って次のステップを模索することにしました。そのサロンのルールは守りつつ自由にやらせてもらった結果、SNSで僕の活動が広がり、メディアに取り上げていただく機会も増えていきました。

久保 雄司さん (SIX)

仲間に恵まれ、自分の想いをサロン名に

SIXを立ち上げた当時、大変だったことは?

SIX

1年半くらいそのサロンにお世話になり、2017年にSIXを立ち上げました。最初は6人でスタートし、そのうち1人がすぐ妊娠して若干、慌てましたが、女性が多いサロンなのでそれも覚悟のうちでした。美容師としてというより、人としてちゃんとお付き合いができる仲間に恵まれたことは本当にありがたいことです。SIXというサロン名は、僕が大切にしたいと思っていることが6つだからです。「スタッフ・お客様・お店・仕事上の関係者・デザイン・家族」この6つです。僕は元々、経営には興味があったので、経営が大変だという思いはないのですが、独立に際してたくさんの資料を書かなければいけなかったのは、リアルに辛かったですね(笑)。

急激に流行らせるのではなく、少しずつ層の厚いお店に

SIXをどういうお店にしたいと思いましたか?

久保 雄司さん (SIX)

“SIXってこういうビジュアルです”という作品を作ることは簡単ですが、あえてそうしないことにしました。今の時代、イメージをつけることは簡単ですが、一度作ったイメージを変えたり消したりすることはとても難しいんです。“SIXってこういうお店です”を全面に打ち出すと、それに賛同してくれるスタッフやお客様は来ても、そうでない方は逃します。流行が変わるたびにイメージを変え続けるにはものすごくパワーが必要なんです。僕はオールマイティなお店にしたかったので、急激に流行るお店は目指しませんでした。“SIXって明るめカラーがすごいよね”と言われることがあったとしたら、それは明るめカラーを施術した人ががんばっているという証拠。少しずつスタッフが成長し、少しずつSIXらしさが加わって、少しずつ層の厚いお店になればいいと考えています。経営者が決めたレールにスタッフを乗せてグイグイ引っ張る経営法もあると思いますが、僕は自然の流れで決めていくタイプ。忙しくなったら拡張する、というくらいの気持ちで、その時いるメンバーで決めていきたいんです。型にはめ過ぎず、そこで働くスタッフが自由に自分のスタイルを表現できる環境を作っていきたいと思っています。

みんなに新規客が来るように工夫を凝らした

集客はどのようにしたのですか?

最初は僕を目当てに来てくれる方に偏りがちだったのですが、スタッフみんなが潤うことがベストなので、僕ではなくみんなに新規客が来るようにするにはどうしたらいいかを考えました。思いついたのは、僕の新規客の価格を上げることと、誰でもできる技術を作ること。例えば、SIXオリジナルカラーのカラーレシピを作って、僕じゃなくても同じカラーができるようにしました。たくさんのお客様を担当することで、僕が経験して楽しかったことをスタッフにも味合わせてあげたいんです。そのためにスタッフには自分は何が好きなのかを考え、自分が好きなデザインを大切にしてほしいと思っています。おかげさまで2019年には2フロアに拡張することができました。別の場所で店舗を出すことも考えましたが、今のメンバーはみんなで一緒にいたほうがより成長すると考え、ちょうど下のフロアが空いたのですぐ借りました。

SIXのスタッフさん

自分の感性を信じ、自由にデザインを突きつめてほしい

スタッフ教育はどうしていますか?

久保雄司さんの作品

SIXのデザインに決まりはありません。OKかどうかのジャッジはしますが、みんな自由に自分のデザインを突きつめてほしいと考えています。僕が作品撮りに夢中になっていた時、ヘアカタログというより写真集をイメージして、モデルさんを座らせたり、髪を触っていたりするポージングも取り入れ、自由にやってみようと試行錯誤していました。デザインに対して固定概念を持たず、地に足をつけずにふわふわと、その時の気分や「好き」「嫌い」「可愛い」を大切にし、作品作りをしました。好きなテイストは1人ひとり絶対あるものですが、それがずっと同じテイストのまま続くわけではないと思うんです。必ず変わる時が来る。それでいいんです。もっと可愛く、もっとこうしたほうがいいんじゃないか?とその時々の感性でふわふわとやってきた結果、型にはまらず自由にデザインができるようになったので、スタッフにも自分の感性を大切にしてほしい、それだけは伝えています。

練習は朝、自分の時間を大切にできる仕組みを構築

福利厚生はどうされていますか?

SIXのスタッフさんたちと

SIXは完全週休二日制で、売上が上がれば給料も上がりますが、休みも増える仕組みです。美容師という仕事は20代半ばまでが勝負という“短距離走”だと思われがちですが、人とのコミュニティの場所を大切にしたり、デートをしたり、30歳を超えたら健康面にも気遣ったりしながら長く続けていくのが本来の姿だと思うんです。長く働き続けてもらうため、ある程度のレベルになると有給休暇が年間で30日くらいになるような仕組みを取り入れています。夜は早めに帰って自分の時間を過ごし、プライベートでもたくさんのことを経験してほしいと思っています。プライベートが充実すると心が潤い、いい仕事にもつながります。先輩が帰るまで帰れないとか、夜11時過ぎまで練習するとかはしないように徹底していますね。練習するなら朝です。大切なのは時間価値を高めること。限られた時間を有効に使い、将来的には完全週休3日制を目指しています。また、新年会や忘年会、みんなでお祭りや花火に行ったり、ちょこちょこ飲みに行ったりもしながら、コミュニケーションを取っています。

女性をヘアだけでなくメイクでも素敵にしたい

久保さんといえば“クボメイク”。メイクを始めたきっかけは?

久保雄司さん(SIX)

美容師になった当初は、男性がメイクをするという概念がなく、自分でメイクをするということは絶対にないと思っていました。しかし作品撮りを始めた時、メイクができる人を毎回頼むよりも自分でやったほうが都合がいいと考え、勉強することにしました。同じサロンにいたメイクが上手な女性スタッフに、とりあえずこれだけは買ってくださいというリストをもらい、その通りのコスメを1人で買いに行き、猛烈に恥ずかしかったことを覚えています。全く知識が無かったので、何をどこにどう塗るのかもよく分かっていませんでしたね。リップ、チーク、アイシャドウを1個ずつ買い、撮影の時に色々と組み合わせて塗っていくという感じでした。ですので、学校に行って学んだわけではありません。当時、カメラは楽しくて夢中になっていましたが、メイクは苦手でしたね。できればやりたくなかったです(笑)。ただ、女性をヘアだけでなくメイクも含めて素敵にしたいという思いで、勉強しました。

固定概念にとらわれず、オリジナリティを追求

“クボメイク”はどのようにして生まれたのですか?

久保さんのスケッチ

その頃は「アイシャドウとチークの違いって?」というレベルでした(笑)。何をどうしたら自分のイメージする質感が出せるのかも全く分からず、ただ塗るという感じでした。そんな時に、リップにもチークにも使えて、指でつけてトントンと叩くだけという「リップ&チーククリーム」(ヴィセ/コーセー)というアイテムに出会い、僕の固定概念がガラッと変わったんです。正解なんてない、どこに塗るのがいいのかわからないけど自分の感性でやってみよう、結果的に可愛くなればいいんだ、そう思ったんです。そこからメイクがすごく楽しくなり、自分の頭で描いたビジュアルを作るための最短手順を考えるようになりました。つまり“クボメイク”は自己流で、合っているかどうかはわかりません。逆になぜそこに塗らなければいけないの?という自由な発想が肝です。正解なんてないと思っています。メイク本も持ってはいましたが、あえて読まないようにしていました。読むとセオリー通りになってしまいそうだったからです。行ける所までオリジナリティを追求してみようと思いました。今ではコスメを買いに行くのも全然恥ずかしくなくなりました!

デッサンにコスメを塗って、色のバランスを考える

メイクで大事にしていることは何ですか?

久保雄司さん(SIX)

色のバランスです。塗り絵的な感覚に近い、色遊びが僕の得意分野。顔のデッサンを描いた紙を何枚もコピーして、それに実際にコスメを塗ります。このコスメをここに使いたいなとか、衣装に合わせて色を考えたりする時、ひたすらこれに描いてみます。コスメは見た目と塗った時の色が違いますし、質感も思っていたのと違う場合がありますが、塗ってみるととてもよくわかります。実際にその通りにモデルさんにメイクして撮影することもあります。同じアイテムの色違いをひとつひとつ紙に塗って表にしたカラーチャートのような物も作っています。僕の一番の強みは、ヘアとメイクの関係性がわかっているということ。メイク専門職ではなく美容師なので、リアルな髪のトレンドも知っていますし、カットもカラーもできます。髪の流行りとメイクの流行りを両方わかっていることによって、そのモデルさんの魅力を最大限に引き出せるのではないかと思っています。

インスタで紹介するのは自分で買った物だけ

メイクの情報はどうやって得ていますか?

久保雄司さん(SIX)

雑誌を見ることが多いですね。いいと思ったら、すぐ買いに行きます。メイクを始めて4年ほどですが、始めた翌年(2016年)には、自分の本を出したいという夢を叶え(『#クボメイク』/講談社刊)、メイクのライブに出させていただく機会も増えました。コスメをいただくことも多いので、自然と情報が入ってくることもあります。使ってみていいなと思ったアイテムは、インスタで紹介することも多いのですが、オススメするのは自分で買った物だけです。広告のご提案をいただくこともあるのですが、すべてお断りさせていただいています。SNSにおいては信用がとても大事ですから、ウソをつくことなく、自分の言葉でリアルに伝えられる物しか載せないことにしています。

自分の世界観を伝えられるインスタを毎日更新

美容師として圧倒的なフォロワー数ですが、インスタの活用法を教えてください。

SIXのスタッフさんたちと

美容師なので、スタイルだけを載せるという活用法もあると思いますが、僕はもう少し人間味があるといいますか、ふざけた感じの投稿があってもいいのかなと思っています。全部飲み会の写真だったら失客してしまう可能性もありますが、食事や家に置いている雑貨、最近買った物、嬉しかったことや日々感じることなども含めて載せておくと、その人の世界観が伝わる気がするんです。技術も大事ですが、僕は人柄や好みなど人となりが分かる方が好きなので、パーソナルなことも踏まえて投稿しています。もちろん、髪型だけに特化することも大事なブランディングだと思いますが、いずれにしても、止まらないことがもっとも大事です。一週間更新していなかったら不信感につながり、一カ月更新していなかったらアウトだと僕は思っています。今はインスタを必ず見られる時代。名刺代わりのツールです。何でもいいから1日1回は更新することがSIXのルール。僕もそれを守っています。

サロンワークだけでなく、様々なビジネスを考えたい

今後の目標を教えてください。

SIX

サロンワークに軸足を置き、それをベースに色々な分野に挑戦してみたいです。僕は美容師はサロンワークだけをやる職業ではなくなっていくと思っています。自分のセンスを生かして本業とは異なるビジネスを考える――。これからは日本全体がそうなっていくのではないでしょうか。イベントを企画したり、ヘアメイクの仕事をしたり、副業的な感覚で色々な収入源があってもいいと思うんです。サロンワークを週3勤務にし、あと2日は外部活動に当てるなどして時間を有意義に使い、時間価値を上げていきたんです。全部のサロンがそうなるとは思わないですが、こういうことに柔軟に対応できるサロンもあると思いますし、僕と同じような考えを持っている経営者もいると思うんです。1日1日を大切にし、時間を有効活用できる環境づくりをしていきたいと思っています。

考えてから動くのではなく、動きながら考えることが大事

若い美容師さんへのメッセージをお願いします。

考えつくことは実現できることだと思います。大切なのはそれを本気でやろうとするかどうかです。頭で考えてから動くのではなく、とりあえずやってみることが大切です。考えてばかりいるうちに、考えていること自体が古くなっていきます。動いてから考える、動きながら考えるのがいちばんいいと思います。頭で考えているうちは結果は出ません。失敗も成功のもとなので、フットワークを軽く、まずは動いてみることが大事です。あとは自分のことだけを考えるのは20代前半までにし、そのあとは技術を継承し、思いをつないでいく努力が必要です。自分がなりたい夢と目標をしっかり持ち、楽しみながらそれに向かって突き進んでほしいと思います。

久保 雄司さん(SIX)
久保 雄司さん(SIX)

久保雄司(クボユウジ)

SIX代表。

都内3店舗を経て2017年、表参道にSIXをオープン。サロンワークの他、雑誌や広告、TVなどでヘアメイクとしても活動し、全国で美容師や一般の方へのイベントも行う。2016年に『#クボメイク』(講談社刊)を出版。多方面で活躍中。


Instagram:@six_kuboyuji

SIX

SIX

都会の喧騒を忘れさせてくれるような閑静な街並みの中に融合しつつ、ひと際ハイセンスな空間が目を引く。一人一人の魅力を引き出すスタイルや、サロンで過ごす特別な時間を提供し、お客様にとっての“一番”を追求。今もっとも注目されているサロンのひとつ。


http://six-salon.com/

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