いつか大好きなオールドアメリカの世界観を表現したサロンを開きたい――その夢を心に秘めて修業を積み、30歳で「THE BARBA TOKYO」をオープンした渡部さん。自分のスタイルを貫き通す意思の強さと同じくらい、義理と人情を大切にする熱い想いを持つ渡部さんの、ブレない理容道を紐解きました。
ライター 森永 泰恵 | カメラ 小池 徹 | 配信日 2019.3.28
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手先が器用なことを生かし、老舗理容室の門を叩く
理容師を志したきっかけは何ですか?
僕は元々小さな頃から、絵や彫刻など細かい作業が好きで唯一の取柄でした。通っていた高校も工業高校だったので、最初は自動車整備士になろうと思っていたんです。でも、当時「ビューティフルライフ」という美容師が主人公のドラマが人気で、その影響を受けて美容師を目指す人が周りに大勢いたこともあり、僕も美容に興味を持ち始めました。美容師を目指そうと思ったのですが、好みや性格上、理容のほうが自分に合っていると思い、理容師になるため札幌にある北海道理容美容専門学校に進学しました。最初は続けられるか不安でしたが、入ったからには技術を極めたいと思い、毎日努力を重ね、様々なコンテストで賞を獲ることもできました。僕は親の影響で幼稚園の頃からオールドアメリカの世界観が好きでした。就職活動をする際、その趣味に合ったサロンを選ぶという道もありましたが、まずは確かな技術と接客を身に付けたいと思い、あえて老舗の「ヘアーサロン銀座マツナガ」に入社させていただいて、理容の道を極める決意をしました。
恩返しをしてから卒業したかったんです
独立したいと最初から思っていましたか?
入社してからは練習や研修が色々あって大変でしたが、アットホームな雰囲気で楽しく学ぶことができました。でも、僕は生意気な新人だったので(笑)、楽しいことも大切だけど、とにかくてっぺんを獲ってやろうという意気込みに燃えていました。入社3日目で店長の髪を切らせてもらい、1年でスタイリストデビュー、5年目には全店舗の中で売上やカット人数で1位になりました。社内コンテストでもたびたび1位を獲り、26歳の時には店長になることができました。僕は、夢は見るだけではなく、叶えて形にしないと納得できない性格なので、いつかは独立して自分の大好きな世界観にこだわったサロンを作りたいと思っていました。しかし、それにはやはり、段階というものがあるのではないかと考えていました。義理と人情を大切にして生きてきた中で、いくら自分に技量と人脈があっても、店長になってから1年で辞めるようなことはしたくなかったんです。僕を育てていただいた恩返しをしてからでないと独立はできないと思い、入社してちょうど10年の節目で卒業させていただきました。僕は基本的に人の下につくのが苦手なタイプですが、この人と思える人と出会ったら、自分の夢を一旦後回しにしてでも、その人に尽くすべきだと思っています。松永社長はそう思える方でした。辞める時、「君が僕の弟子でよかったよ」と言っていただいたことは、本当にうれしかったです。独立をお客様に告知することも認めていただき、感謝の気持ちでいっぱいでした。
憧れのオールドアメリカの世界観で、内装にもこだわる
店づくりのこだわりを教えてください。
周りの人たちは僕の独立にみな、反対しました。髭にタトゥーのお前が独立なんて、絶対失敗するぞと。でも僕は、人にどう思われたいかではなく、自分がどうありたいかで人生を貫きたいというのがモットーなので、自分を信じ、ブレずにやっていこうと思って独立しました。子どもの頃、映画好きの父の影響で、40~50年代のアメ車が出てくるような映画を観たり、昔のハーレーに憧れたりしているうちに、どんどんオールドアメリカの世界観が好きになり、独立するならその雰囲気そのままのサロンを作りたいと思っていました。ヴィンテージ風とかアンティーク風ではなくて、本物のアンティーク家具や調度品を買い付け、ときにはアメリカから取り寄せたりして揃えました。自分で内装もデザインし、スタッフと一緒に夜中までお店づくりをしたりもしましたね。どうせなら地元への還元もしたいと思い、僕の出身地である北海道・音威子府村(おといねっぷむら)の上質なナラ材を使った棚も特注して作ってもらいました。高くつきましたが(笑)、質感や色合、使い心地も良くて気に入っています。
SNSで自分たちのこだわりを拡散した集客が成功
経営はすぐ軌道に乗りましたか?
以前からのお客様がたくさん来てくださったことでお店の基盤を築くことができたのですが、たまたま時代がバーバーブームということもあり、すぐに経営は軌道に乗りました。新人時代、ビラ配りやポスティングが本当に大変だったので、できれば別の方法で集客できないかとあれこれ考えた結果、お店のデザインと自分たちの作品で勝負しようと決めたんです。お金がかかっても路面に出店し、めちゃくちゃカッコいい店を作って、個々それぞれスタイルを持ったスタッフがそこで働く。そして、自分たちがカットした「お客様」という作品を写真に撮らせていただいて、それをfacebookやInstagramなどのSNSにアップするという方法で集客を試みました。すると、新規のお客様が最初から月100人以上来てくれたんです。3店舗となった今でも、毎月本店だけで170人くらい新規のお客様がいらっしゃいます。うちのお店の雰囲気はオールドアメリカンですが、確かな技術を松永先生の所で学ばせてもらったので、技術と気遣いは日本ならではの理容師、というのが僕の理念です。スタッフもタトゥーが入っている子もいますが、技術と礼儀はしっかり指導しています。費用をかけて宣伝しなくても、ひとつひとつこだわった空間でこだわった仕事をすると、お客様は来てくれるものなのだなとつくづく思います。
20人いたら、20通りの接し方が必要
経営者となった今の悩みは何ですか?
今、もっとも難しいと思っていることは人材確保です。熱意に押されて採用した子に限って辞めてしまったり…。うちはほぼ新人しか採用していないので、技術を学んですぐ辞めて他のサロンに行きます、なんて言われたら、本当に辛いです。厚生年金にも入り、会社としては新人に投資するわけですから、せめて5年はいてほしい。僕も自分の夢を追いかけてきたので、どんな理不尽な辞め方をされても、その子の夢を諦めさせてまで引き留めるつもりはありません。ただ、義理だけは果たしてほしいというのが本音です。自分の生き方を貫くといっても、アシスタントのうちは特に義理を大切にしないといけないのではないでしょうか。そう考えてはいても辞めるスタッフが出る事もあり、僕自身心身ともに疲労がたまっていた時に、「僕は辞めませんから。絶対がんばりますから」とメールをくれたスタッフがいまして。泣きそうになりましたね。特に愚痴も何も言ってなかったのに、僕の様子を見て気づいてくれたんです。別のスタッフも「大丈夫ですよ。私はついていきますから」と言ってくれて…。笑顔でそう言ってくれるだけで、もしうまくいかなくなっても、この子たちがいれば1からやり直せると思いました。正直、うれしかったです。僕はそういう信頼関係が大事だと思うのですが、逆にそういう関係性がイヤで去っていく子もいます。去る者を引き留めるより、残ったメンバーでがんばっていくほうがいい、と僕は考えています。店舗が増え、スタッフも増えてきたので、20人いたら20通りの接し方をしないといけないと感じています。最近は、各店舗の店長たちとも連携して、定期的にミーティングをするようになりました。また、普段頑張ってくれているスタッフに還元をする意味で、社員旅行はグアムや沖縄に行っていますが、うちは初年度から毎年全額会社負担です。スタッフが増えてきたので大変ですが、それもお互いの信頼関係を築くいい機会になっていると思います。
どこにも負けない技術と笑顔を大切にしています
お店の“売り”は何ですか?
うちのお店の売りは、ズバリ「技術」です。技術は絶対にどこにも負けません。僕も新人時代、特にアイロンパーマはとてもよく練習しました。感性も大事ですが、とにかく練習して数をこなすことが重要です。今は店長たちを育てるためにも教育は店長たちに任せていますが、僕自身が直接指導することもあり、夜遅くまで一緒に残って練習したりもしています。技術のほかに大切にしていることは「笑顔」です。特に僕は一見、怖そうにも見えるようですが(笑)、「こんにちは」「いらっしゃいませ」「また来てくださいね」など、笑顔はいつも欠かしません。また、フレンドリーな中にも礼儀をわきまえることも大切です。様々な職業、役職の方が来店され、年齢も環境も考え方も様々です。そのすべてのお客様にきちんと対応できるよう、技術はもちろん、知識も人間性も磨いていく必要があります。売れているスタイリストは、技術はもちろんですが、笑顔が素敵な方が多い気がします。笑顔でお客様に接し、笑顔で帰っていただけるよう、日々努力しています。
日々の生活すべてから刺激をもらっています
デザインのインスピレーションの源は何ですか?
僕は元々、普段から刺激を受けやすいほうなので、「これいいな」と思ったら頭の中に焼き付け、デザインに生かすことはよくあります。アメリカンカルチャーではなくても、たとえば古民家の古材とか、いいなと思うものは何でも心に留めておくようにしています。うちにはアスリートのお客様も大勢いらっしゃるのですが、彼らから得ることもすごく多いですし、色々なことを教えてもらいます。また外国人のお客様から刺激をもらうこともあります。本店だけで、月に300人近く来店されるんですよ。英語がペラペラというわけではありませんが、接客用語はわかるので、英語でご要望を把握し、最後は笑顔で「Do you like it?」と言って鏡を見せると「Thank you!」と喜んでくれます。国によって文化や価値観も様々なので、外国人のお客様からも得るものがとても多いです。
「シャンプー、気持ちいいよ」が最初の感動
理容師になってよかったと思うことは?
自分のステージによって異なりますが、一番最初に「理容師になってよかった」と思ったのは、最初に入らせてもらったお客様から「シャンプー、気持ちいいよ」と言われた時です。次は、初めてカットに入った時。その次は先輩に褒められた時でした。その後は、育てた後輩がカットデビューできた時とか、前の店長がいなくなって売上がどん底まで落ちてから、その時のメンバーで店舗売上1位を達成した時。この時は最高にうれしかったですね。奮発して、少し値が張る鉄板焼きでしたが、スタッフとその家族も含めてご馳走しました。経営者となった今は、スタッフの成長や信頼関係を築けたと感じた時が一番うれしいです。理容師になってから、様々なタイミングで感動し、「理容師になってよかった」と感じています。
自分の夢というより、スタッフの夢を叶えたい
次にやってみたいことは何ですか?
東京には増やしてもあと1~2店舗でいいかなと思っていますが、沖縄、北海道、ハワイにも出店したいですね。別会社にしてやる気のある子に任せたいと考えています。僕は新人の頃、自分の夢を絵に描いてみてと言われた時、ハサミを持ってアメリカへ行き、無料でカットしながらハーレーでアメリカを横断するという夢を描きました。さらに、倉庫を買ってそこにお気に入りのオープンカーを入れ、バイクも飾り、倉庫内にカウンターを作ってハンバーガーやジャンクフードを出す…という夢も。当時はみんなに笑われましたが、「THE BARBA TOKYO DINE」には車とまではいきませんでしたがバイクを飾り、ビリヤード台をテーブルにしてハワイアンダイニングを併設しました。少しずつではありますが、夢が叶っています。子どもの頃に憧れたアメ車も、今では複数台所有しています。東京以外への出店は、地方出身の子が帰る場所を作るという意味でもあります。僕は人生に対してもスタッフに対しても有言実行がモットーで、スタッフもそれをわかってくれていると思うので、これからは自分の夢というよりスタッフの夢を聞いて、一緒に叶えていけたらいいなと思っています。
やると決めたら、最後までやりきってほしい
若い世代の方たちへのメッセージをお願いします。
理容業界は雑誌やSNSで見ているのと実際に働くのとでは全然違います。「楽しい」だけでは続きませんが、入ってすぐ辞めてしまったり、義理を通さない子が多いのも残念なことだと思います。僕も自分のスタイルを貫き通していますが、それにも順序が必要です。自分で一度やると決めたら最後までやってみないとわからないし、途中で投げ出してしまってはもったいないです。やりきる根性があるなら、理容師は絶対にいい職業だと思います。色々な人に出会えて、色々な人の考え方を聞いて勉強させていただけるにもかかわらず、最後は笑顔で「ありがとう。また来るね」といって貰えるだけではなく、さらにお金までいただける。こんないい職業は他にないと思います。こだわりややる気、努力と根性があれば、一生続けられる仕事です。さらにそれを誰かに伝えて世代交代もできます。辛いこともありますが、その分チャンスもあります。理容師は稼げないと思われているかもしれませんが、大金持ちになるのは難しくても、やる気次第では小金持ちくらいにはなれます(笑)。誇りを持ってやればカッコいい職業です。社長になると現場から離れて経営に専念される方もいると思いますが、僕は誰よりも店に出て仕事をしています。新規客こそ入りませんが、オーナーになってからも人一倍サロンワークを大切にしています。現場でお客様やスタッフと接している時間が本当に大事だと思っているからです。うちには女性のスタッフもいますが、努力次第では、男女関係なく店長になるチャンスもありますし、バリバリやっている女性スタッフも沢山います。僕は理容師を辞めたいと思ったことは一度もありません。男性であっても女性であっても、一度足を踏み入れたからには、最後までとことん、突き詰めてほしいと思います。
渡部 智寛さん
THE BARBA TOKYO代表。
1982年生まれ。北海道中川郡音威子府村出身。北海道理容美容専門学校卒業。2013年に「THE BARBA TOKYO」を設立。現在、東京都内に3店舗を展開。また、dunhillとのパートナーシップにより、銀座の「dunhill BARBER」の運営も行う。確かな技術とこだわりの世界観で国内外に多くのファンを持つ。
THE BARBA TOKYO
「男性がおしゃれできる空間」「大人の上質な時間」を提供する、アンティークを基調とした内装がひと際目を引く。高い技術とオールドアメリカの世界観で、スポーツ選手から政治家まで幅広い支持を集めている。
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