表参道のおしゃれな一軒家サロンからスタートし、現在3店舗を展開しているGarlandを率いる榊原さん。意外にもバイトに明け暮れた学生生活、25歳でのスタイリストデビューを経て、あることをきっかけに独立を決意。現在も経営学を学び続け、新しい美容室の在り方を追求し続けている榊原さんの経営哲学をじっくりお聞きしました。
ライター 森永 泰恵 | カメラ 山﨑 美津留 | 配信日 2019.1.31
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業界誌への憧れから上京することを決意
美容師を志したきっかけは何ですか?
高校3年生の時、進路を料理人、デザイナー、美容師、の三択で迷っていたのですが、料理なら中学卒業から進んだほうがよかったのではと思い、またデザインは難しい大学に進学するべきではないかと考え、美容師がこれから目指すのにちょうどいいと思ったんです。僕たちの少し上の世代の美容師さんたちが雑誌でよく特集され始めた時代で、そんなことへの憧れもあり、美容の道に進むことに決めました。故郷の広島から大阪の専門学校に進学したのですが非常に厳しく、厳しすぎてバイトに夢中になってしまいまして(笑)。ギリギリで卒業した感じです。美容室に1週間勤めるインターンシップのような制度があり、大阪の美容室に行ったのですが、その店の店長に、「将来どういう美容師さんになりたいの?」と聞かれ、「業界誌に憧れているので、そういう華やかな世界で活躍する美容師になりたいです」と話したら、それなら東京に出たほうがいいと言われ、東京に行くことを決めました。
独学からの転職。25歳でようやくデビュー
上京して就職し、どのように技術を磨いたのですか?
一般誌や業界誌を見て東京の美容室をリストアップし、70社くらい電話したのですが、すでに10月だったので新卒はほぼ決まっていました。それでも10社くらいは面接にこぎつけましたが、どこも受からず…。「とらばーゆ」という就職情報誌に載っていた世田谷区の小さな美容室で採用していただくことができ、そこから僕の美容師人生がスタートしました。そのお店は練習会や教育カリキュラムがなかったので、僕は業界誌を見ながら練習をし、営業中に先生の後ろに立って見て覚えるという日々でした。2年半でスタイリストにはなりましたが、不安だらけで、もっと技術を磨きたいという思いと、業界誌に出たいという夢を叶えるため、そのお店を退職しました。そんな時に、たまたまPHASEが募集しているというのを聞き、受けてみたところ、縁あって入社することができました。それが22歳の時で、ここで1から出直そうと決意しました。入社してみたらパーマもカラーも全然違い、見るものすべてが新鮮で。まったく技術が追いつかないので、またアシスタントとして勉強し直しました。カリキュラムがしっかりしている上、僕は不器用だったのでなかなか受からず、デビューするまで3年かかりました。
ネットによる集客に懸けてみたいと思った
独立を決意したのはなぜですか?
華やかな世界への憧れはありましたが、はじめは独立しようという考えはありませんでした。そんな中、お店で一番売上を上げていた先輩が姉妹店を作ることになり、もっとも売上の少なかった僕を引っ張ってくれたんです。その先輩は撮影の仕事をとてもたくさん持っていて、僕は現場について回る日々でした。そのうち自分でも作品を作るようになったのですが、最初はなかなか思うように作れず、よく怒られましたね。悔しかったですが、先輩のようにうまくはできず、ひたすら練習する日々でした。まずは先輩の完コピを目指して必死でマネをして覚えていきました。すると月に40本ほどあった撮影をこなしているうちにだんだん力がついて、完コピだけではなくオリジナリティのある作品も作れるようになりました。ちょっと崩した感じのスタイルを打ち出し始めたら、業界誌をはじめ各方面の方から声をかけていただくようになったんです。そこから撮影の仕事が増えていきました。その後、別ブランドの店舗を任せてもらえるようになり、3年ほど働かせていただきました。ちょうどその頃、情報発信が雑誌からネットに変わる変革期で、集客も雑誌からネットに変えていかないと新規のお客様はなかなか増えないような状態になっていました。そこで、ネットに力を入れたいと考えていたのですが、当時の環境では実現することが難しく、それなら自分でやってみようと思い、独立することにしました。ある程度、教育や数字について勉強はしていましたが、いざ自分でやり始めてみたらたくさんのわからないことに直面して、本当に大変でした。
一軒家サロンで柔らかいスタイルを打ち出したのがきっかけに
独立してからは順調でしたか?
最初は6人でスタートし、それまでの経験から「なんとかやれるだろう」と思っていました。よく考えたら、お客様がいたのは僕だけでしたから、何も考えていなかったんですよね。なので、いちばん最初にみんなに給料を払えた時はうれしかったですね。僕が思い描いていたネットによる集客もさっそく始めたのですが、当時、柔らかい雰囲気のスタイルはあまり出ていなかったのでそれがヒットし、オープンから3カ月くらいで新規客が月に400人も来てくれるようになったんです。おかげさまで売上は順調だったのですが、人手が足りなくて…。お客様がたくさん来てくれるのはうれしいのですが、忙しくなりすぎてしまって、その合間を縫って募集をかけ、採用するというのが大変でした。オープンから1年経った頃にはスタッフは12~13人になっていました。最初は今の店舗の1階だけで営業していたのですが、オープンから1年半くらいで2階もすべて整え、2フロアで営業を開始しました。以前、撮影で訪れたハウススタジオを見て、こういう空間でお客様を切れたらいいなと思っていたので、独立する時は一軒家を探しました。いかにもサロンという感じではなく、どこでも撮影ができて、アットホームなサロンを作りたかったんです。当時は一軒家サロンはあまりなかったので、それもよかったのかもしれません。お客様が「こんなサロンは珍しいですね」と言って喜んでくれました。Garlandが打ち出している柔らかい感じのスタイルイメージともよく合い、うまくハマッたのだと思います。今ではスタッフは35人になりました。人が増えてくると、色々な考えの子が増えてくるので、なるべくスタッフと密にコミュニケ―ションを取るように心がけています。
吉祥寺、池袋に続いて梅田にも出店します
これまでに4店舗を出店されていますが、出店場所はどのようにして決めたのですか?
表参道に続き、2013年、吉祥寺に「kiitos by Garland」、2015年、Garlandの隣りに「CIECA.」、2017年には池袋に「Cafune by Garland」をオープンさせ、間もなく関西方面にも展開予定です。当時、吉祥寺にはGarlandっぽいスタイルがあまりなかったので、うちのスタイルと吉祥寺の雰囲気、マーケットをマッチさせたら面白いかなと思い、出店することにしました。オープン後すぐに新規客が月に400人ほど来てくれました。池袋は、新宿と平行して物件を探していたのですが、池袋でいい物件に出会えたことと、Garlandには埼玉方面のお客様が少なかったので開拓したいと思い、出店しました。2月には大阪・梅田に出店予定です。梅田店は僕にとって新たな挑戦なんです。僕はこれからは美容室の働き方を変えていかなければいけないと思っていて、できるだけ歩合も休みも増やすという形にしていきたいのですが、東京の店舗をいきなりガラッとは変えられないので、東京から離れた場所で試験的に新たな労働環境を取り入れてみようと思っています。梅田店はGarlandの働き方とは全然違います。そこがうまく循環できるようになれば、東京に少しずつそのシステムを取り入れていきたいと考えています。
MBAの取得を目指して3年前から学んでいます
経営はどのように学んでいるのですか?
今はサロンワークもやりつつ7割方経営に軸足を置いていて、撮影も下の子たちになるべく任せるようにしています。3年ほど前からMBAの取得を目指して大学院に通っているのですが…難しいですね。経営学は難解な専門用語がたくさん出てくるので、1年ほど経った頃にそれがようやく聞き取れるようになり、3年くらい経って徐々に、「あ、こういうことなんだな」というのがわかり始めました。自分がいかに何も考えないで独立したかが身にしみてわかりましたね。勢いだけでやっていたんだなと(笑)。今、学んでいることをGarlandの経営に取り入れ始めているのですが、美容師は技術者なので、具体的な数字や計算に慣れていないんですよね。これまでは心意気とか気持ちの部分で説得したり話をしたりしてきたのですが、数字がついてこないと給料を上げたり、休みを増やしたりするのは難しいので、今はきちんと数字を出してスタッフに話をしています。数字を出して言わないと具体的にイメージできないんですよね。最初はみんな嫌がっていたのですが、だんだん慣れてくれて、スタッフもなんとなくわかってきている感じです。うちでは全体ミーティング、スタイリストミーティング、幹部ミーティングと会議が3つありますが、僕はいつも数字を照らし合わせて話をするようにしています。
自分の感性を信じて、人の目に留まる作品を作りたい
ヘアデザインを作る上で大切にしていることは?
見た目のバランスのよさはもちろんありますが、雑誌を見ている時に、ふと目が留まるスタイルが自分の好きなスタイルなんだなって思うんです。分析したポイントを頭の中に入れたり、写真に収めたりして、普段から人の目に留まるようなデザインを心がけています。自分がいいなと思うこと(自分の感性)を信じているので、そこに関しては純粋に表現できればいいかなと。うちはみんな自主的に作品撮りをやっています。サロン全体がスタジオも兼ねていますし、撮影機材も揃えているので、モデルさんを呼べば自分たちで簡単に撮影できるようになっています。そこでスタッフと一緒に作品撮りを監修しながらヘアスタイルを直したりとか、あとで作品を見てアドバイスすることもあります。普段から結構意識して街を歩いたりしていますが、たとえば僕は犬を飼っているので、犬の毛並みを見てヒントを得ることもあるんですよ。「こういう質感っていいな」と思ったものを表現したりもします。
早くデビューさせることで、ヘアデザインの楽しみを教えてあげたい
教育についての取り組みを教えてください。
ずっと3年育成のカリキュラムを組んでいたのですが、梅田店から2年育成にしていく予定です。結局、3年といっても4年5年かかったりして、その間に飽きてしまうんですよね。5年しないと人の髪を切れないなんて…と。早く切れるような人材にしていきたいんですが、カリキュラムを短くすると技術がついてこない。なので少し低価格でカットモデルのような感覚で来てもらえるお客様を集めて、早めに実践を積ませるという方向にしていきたいと考えています。ジュニアスタイリストみたいな感じですね。今までは完璧にできないと入客できないシステムでしたが、それだとモチベーションが続かないんです。なので、早めにヘアデザインの楽しみを教えてあげたいんですよね。中には途中でネイルとかアイラッシュに行きたいという子もいて、うちにはその受け皿もありますから、働き方の多様化に対応できている部分もあるのかなと思っています。アシスタントでも稼げる仕組みを整えて、給料などに還元できるようになればベストですね。そのためにはサロンの生産性を上げていく必要があります。うちでは生産性を高めるための1つとして、ベースドライを自動化できる「ケアドライ」というドライマシンを導入しているのですが、2月にオープンする梅田店はアシスタントがいないので、特に効果を発揮してくれるのではないかと思っています。
スタッフの働き方の多様化に応えていきたい
今後の働き方についてはどうお考えですか?
時代が変わり、様々な働き方が考えられますよね。ただ、ひと昔前の、労働時間は長く給料は安い、という理美容師の働き方は変えていかなくてはいけません。理美容師の地位を高めるためにも、梅田店をモデルサロンとして運営し、より良い形を見つけ、業界全体の活性化に繋がればいいなと思っています。また、スタッフの成長に応じて、通常の店舗展開はもちろんしていくのですが、違った意味での店舗、たとえば女性に特化したサロンもいいなと思っています。現在、産休・育休を取って復帰し、フレックスで働いている子もいるのですが、ひとりひとりに合わせたやり方で働いてもらっています。また、うちには美容師をやりながらコーヒーショップをやっている人もいて、副業も少しずつ認めています。会社としても美容以外の事業に参画してもいいかなと思ったり、ネイルとアイラッシュだけでなく、トータルビューティを事業としてもっと大きく展開していきたいという気持ちもあります。そうすることでスタッフの働き方の多様化にも応えられるのではないかと考えています。
美容師さんが独立せずに会社に残れる仕組みが大事
今後の理美容業界の展望はどうお考えですか?
今、美容室は飽和状態にあります。オーナーになればもっと生活が豊かになるのではないかと思って多くの人たちが出店するのだと思いますが、きちんとしたビジョンの無いお店はだんだん淘汰されていくような気がします。僕みたいに勢いで独立しても、お客様が大勢いらっしゃるような時代ではありません。しっかりと経営の理念を持ち、先のことを考えてやっていく経営者が残っていくでしょう。また、自分で出店するリスクよりも、会社にいたほうがいいと考える人も増えてくると思うので、それに柔軟に対応できる会社が残っていくのではないかと思います。美容室が増えすぎてお客様が分散しているので、正直、一人勝ちは難しいと思います。とはいえ、お客様がたくさん来ているサロンもあるのでやり方次第ではありますが、美容師ではない人たちが新規参入してくることもあります。美容師としての心意気とか技術への思いが強すぎて数字としっかり向き合わないと足元をすくわれてしまうかもしれません。そういう背景を踏まえ、美容師さんが独立しなくても会社に残って豊かになれる、という状況を会社が作ってあげることも大事だと思います。
進化しながら努力し続けることが大事
若い世代の方たちへメッセージをお願いします。
Garlandは最初からお客様が大勢来てくれました。変な話ですが、今考えるとそれがよくなかった。「あ、お客様って来るんだな」と思ってしまったんです。その頃に比べると新規集客は減っているので、そこを生み出すのが今いちばん大変なことかもしれません。お客様は世の中にウケている美容室=行く価値のある美容室でないと来てくれません。その価値の作り方を模索している感じです。ずっと同じではダメで、進化していかなければいけないと思っています。美容師も同じで、長く続けていけばいくほど技術もうまくなりますし、お客様も増えてはいきますが、ただ長く続けるのではなく、感受性を磨いて進化しながら長く続けていくことによって、いい技術者になると思うんです。スタッフにもよく言うのですが、来てくださっているお客様を幸せにするためには、自分の努力がすごく大事だと思うんです。お客様のライフスタイルを理解してサポートするヘアスタイルを作るには、常に勉強や努力が必要です。それがしっかりできる美容師さんが将来活躍すると思います。僕は若い頃、どんなに先輩に怒られても美容師を辞めようと思ったことはありません。むしろもっとがんばってやるぞと思っていました。若い皆さんには、努力を積み重ねてがんばってほしいと思います。
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