ライター 前田正明 | カメラ 更科智子 | 配信日 2012.12.6
江戸時代の髪結い業がルーツの老舗理容室
私の祖父が今の場所(横浜市鶴見区)で理容室を開業し、さらに父の後を継ぐ形で理容師になりました。実は郷里の新潟に帰省した時に江戸時代から髪結い業を営んでいたことを知り、過去帳を調べると読み取れる範囲だけでも私で5代目にあたることが分かりました。親戚も理美容業に従事している人がほとんどです。そんな環境で育ったので、何となく理容師になるんだろうなぁとは思っていました。ただ、子供の頃は「床屋の息子」と言われることが恥ずかしくて、反発心を持っていました。昔は店構えも内装もいかにも「昔ながらの床屋さん」といった感じで、大繁盛しているわけでもなく、友達や彼女を家に連れてくるのが恥ずかしかったです。でも、高校生の頃、将来について色々と考えた結果、家業を継ぐのが一番いいと考え理容の世界に進みました。専門学校時代の私は放課後の遊びの事ばかりを考えている、ごくごく普通の学生でした。真面目に練習や勉強をした思い出はあまりありません・・・(笑)。当時はカリスマ美容師がブームで美容科は人気がありましたが、理容科は特に盛り上がっているわけでもなく、ほとんどが家業を継ぐ為に入学した生徒ばかりでした。その頃は、祖父が高齢で父もサロンワークが忙しかったので、早く一人前になって手助けしたいと考えていました。だから、卒業後は他店で修行をせずに、そのまま家業を手伝いました。
研究団体や他店のレッスン会で学んだ新人時代
新人の頃は父のアシスタントがメインで、今どきの技術を学ぶ環境ではありませんでした。そこで、技術的なことは理容の研究団体や他店のレッスンに参加させていただいて学びました。研究団体では接客などいろんな経験談も聞かせていただき勉強になりました。また、ディーラーさんが主催するセミナーにも積極的に参加しました。そこで知り合った先輩たちと交流を深めることができ、自分の目指す方向性をつかんだ気がします。当時の夢は、男性も女性もカットできる技術者になることでした。それと、お店を繁盛させること。しかし、美容と比較して理容業は勢いがなく、この世界で一生やっていけるのか不安はありました。そんな時でも、この職業を選んでよかったなと実感したことがあります。それは、お客さまとのふれあいです。お客さまは年配の方がほとんどでしたが、シェービングやシャンプーを一生懸命させていただくと応援してくれるんです。そんな時は本当に嬉しく思い、やる気が湧いてきました。
リニューアルを目標に基盤作りとして集客を図る
私は理容師になって12年になります。私がお店に入って数年、お店の業績は徐々に伸び悩み、そんな状況を打開したいといつも考えていました。そんな時、2004年の結婚を機に家族を養うことに強い使命感を感じました。妻も通信課程で学びながら家業を手伝ってくれることになり、近い将来にリニューアルしたいという願望が出てきました。でも、リニューアルしたからと言って繁盛するわけではありません。そのための基盤作りが必要だと考え、まずは私と妻のお客さまを増やす事を頑張りました。父親になぜリニューアルが必要なのかを説明する為にも、実績が必要だと考えたからです。数字を示しつつ説明する事で、反対されることもなく納得してもらいました。そして私と妻のお客さまが8割くらいになった時、満を持して2008年にリニューアルしました。大きなサインポールを掲げた昔ながらの理容室では若い人が来店しにくいと思い、リニューアルは従来の床屋さんというイメージを払拭し、店内もメニューも新しい展開にしました。集客面では地元の友人に来てもらいそこから口コミで広めてもらったり、手作りのビラを配布したり、またホームページを作成してPRを行いました。
シェービングの価値を高めヘッドスパも導入
リニューアル後は、リラクゼーションを提供できる新感覚のサロンをコンセプトにして、セット面を半個室化にしました。理容室といえば主力メニューは総合調髪で、カットにシャンプーやシェービングがセットになっています。私は、この当たり前のようにセットでついてくる「シェービング」に着目しました。こんな気持ちの良いメニューがなぜ「おまけ」なのか。理容師・理容室でしかできない価値ある技術を、快感メニューとして独自性を打ち出し、もっと全面にアピールしていくべきだと考えたんです。そのアドバイスをディーラーさんからいただき、単なるひげ剃りではなくクレンジングやパックまで行う別メニューとして展開しました。シェービングの価値を高め、さらにヘッドスパも導入して気持ちよくなっていただく。はじめは料金の発生するリラクゼーションメニューを、どこまで男性客に受け入れてもらえるか不安はありましたが、やってみると大変好評でした。以前の理容室ではシェービングで別料金をいただくのは難しかったのですが、改装前からそれを徐々に試みて、リニューアルをしてサロンの雰囲気を変えたことで可能になったんです。技術・メニュー・空間、全てがマッチングすれば、自然とお客さまは理解してくださいます。
癒しと疲労回復の「季節限定メニュー」も好評
メニューは、カットにヘッドスパかシェービングを選んでいただくリフレッシュコースと、2つを同時に体感できるリラックスコースを設けました。当然、カットのみのメニューもあります。今では、ヘッドスパの内容を充実させたヒーリングコースやハンドアームマッサージをプラスしたリッチコースなど徐々に種類が増えました。さらに、オリジナルの「季節限定メニュー」もあります。これは、疲労回復などを目的にしたヘッドスパとシェービングエステで、ハーブティーをお出しながら季節ごとに内容を変えています。理容室でカット以外のメニューを別料金にすると抵抗を感じられますが、一度体験された方は「内容と比較してこの料金は安い」と言ってくれます。それくらい内容を吟味しているので、今では大勢のファンがいらっしゃいます。お客さまに満足していただきながらいかにして客単価を上げることができるか。それを考えた結果、このようなアイディアが浮かびました。
妻の疑問から業界の常識を覆したメニューへ
男性のお客さまの中には、このようなサロンを探していたという方が意外に多かったので驚きました。美容室ではやはり女性メインのメニュー構成ですよね。だから、美容室に通っていた若いビジマンの方には特に好評でした。特に、美容室の雰囲気に違和感を感じ始め、かといって床屋さんには抵抗がある…といった30~40代前後の男性はChatp.1を気に入ってくれているようです。私は、安っぽいサービスはしたくないし、また一時的な流行に便乗するのも好きではありません。そのため、いろんなセミナーに参加して、自分で納得できるものをご提供しています。しかも、女性のお客さまもご来店されているので、男女ともにリラックスできる空間創り、メニュー構成を心掛けています。実は今のChapt.1には、妻の発想がたくさん詰まっています。私たちには普通に思える事でも、一般家庭で育ち、結婚してからサロンに従事した妻には不思議に思う事がたくさんあったようです。一般消費者、一般女性の視点として妻の意見を取り入れ、メニューや空間に反映させたところ、サロンの内容が更に充実したものに変化していきました。そして現在の「男性も美しくなれる」メニュー展開に至っています。
男性客の強さ、大切さに気付く
店内には完全個室も設けていて、季節限定メニューの方や女性客を接客しています。以前は、そこで妻がヘッドスパやエステを担当していました。妻は理容師とエステティシャンの資格を取得し、理容室とは思えないほどのハイグレードな内容でエステティックメニューを行っていました。女性客も順調に増え続け、ユニセックスサロンも視野に入れ始めていた頃、東日本大震災が起きました。私は翌日の予約はみんなキャンセルだろうと思い、キャンセルの電話を受ける為にサロンに行きました。しかし、ほとんどの男性客はご来店されたんです。その時、私は理容師であり男性客に支えられていたことを再認識しました。妻の努力で女性客から高単価をいただくようになりましたが、それも男性客がいたからこそのサロン展開です。そう実感した時、理容師としてこれからが腕の見せ所だと思いました。2012年、妻はこれまでChapt.1の一画で行っていたエステサロンShine-Cを、自宅に移し、女性限定エステサロンをオープンしました。これまでは二人三脚で歩んできたのですが、ここからは私の腕次第です。不安もありますが、お店をどう創っていけるか、楽しみです。
男性がもっとカッコよくきれいになることを願う
私には小学生になる息子がいますが、理容師という職業を通して、子供に誇れる仕事をしていきたいと思っています。息子が、友達に自慢したくなるような、憧れを抱いてくれるような存在でいたいですね。また、理容室という空間を、単に髪が伸びたから行く場所ではなく、「リラックスする為に」「カッコよくなる為に」「キレイになる為に」行く場所に変化させていきたいと思っています。その思いが、タカラベルモントの「New Men’s Project (NMP)」と同じ発想だったことから、現在では、「NMP」のビジネスモデルとして、セミナーの講師もさせていただくようになりました。2013年4月に大阪で開かれる「TWBC 2013」には、カッティングエッジにおいてセミナーもさせていただく予定です。理容業界が活性化して男性がもっとカッコよく、もっときれいになれるための一助となれば嬉しいと思っています。
アクションを起こす前にあきらめないで頑張れ
今後の展開は、スタッフを増やしてもっとサロンを充実させたいと考えています。今は男女1人ずつスタッフがいますが、女性理容師募集中です!やはり、女性の視点や発想は接客業において欠かせない存在です。そして、家族ではない新たな人材を確保し、フレッシュな意見を取り入れつつプチリニューアルもしたいです。さらに、男性のお客さまにご満足していただけるようなサービスやメニューを徹底したいですね。最後に、この業界で頑張っている若い人に対して、アクションを起こす前にあきらめないでほしいと言いたいです。「理容師だから」といった考えで自分の枠を狭めず積極的にトライしてください。それと家族との時間を大切にすることも。頑張って業績が上がれば余裕ができ家庭環境も良くなります。そんなところも仕事ぶりに表れると思うので、健康管理もしっかりしながら自分を磨いていってください。
中野 泰一(ナカノタイチ)
hair&relax chapt.1代表。神奈川県出身。育生会技術専門学校卒業。理容業を営む家系は江戸時代の髪結いがルーツの老舗。卒業後、稼業を手伝う為に実家の理容店に入り、サロンワークに従事する。結婚後、2008年にリニューアルし、ヘッドスパやシェービングなどのリラクゼーションメニューを充実させて新規集客に成功。また、レディスカットに加え、エステ・シェーブ・ブライダルなどを展開し女性客の獲得にも積極的に取り組む。
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