野々村かおりさん(Lu cocon 郁里)

野々村かおりさん(Lu cocon 郁里)| この人から学ぶ成功の秘訣 TBMG

ライター 前田正明 | カメラ 好川桃子 | 配信日 2010.2.4

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カリスマブームの頃に東京の美容師に憧れた新人時代

私は一般家庭に育ち、小中高と学生時代は陸上部一筋でした。その頃の私はショートヘアだったのですが、友だちの髪を結ったりしているうちに「これが自分の仕事だったら素敵だな」と思い、憧れたのが美容師になったきっかけです。高校を卒業して、名古屋で美容室を経営していた陸上部の先輩を紹介していただき、そのサロンに入社。美容学校は通信課程で学びました。新人当時は早く技術を身につけようと、とにかく一生懸命に仕事をしました。業界誌を読み、GIRL LOVES BOYの大久保美幸さんやHEARTSの山下浩二さんなど東京の美容師さんに憧れていました。最初のサロンに4年間お世話になった後、岐阜に戻り、1店舗を経てサムソン&デリラの恵那店に勤めました。そのサムソンの勉強会で主人と出会い1 年後に結婚したんです。私が26歳の時で、主人は当時、奈良の美容室に勤めていました。

野々村かおりさん(Lu cocon 郁里)

結婚後すぐに京都で出店するもまったく不安はなかった

主人は鳥取出身で、最初は近鉄に勤めていた鉄道マンだったんです。でも、学生時代からもっていた美容師への夢を捨てきれずに転職。勤務地だった奈良でサロンに入社し9年間で支店の店長まで務めさせて頂きました。その頃からあこがれの地、京都に出店することを決めていたようで、結婚してすぐに京都へ行きました。 2人で不動産屋さんに飛び込み、案内された北山通り・大宮の物件が気に入って、すんなり出店を決意。ただ、内装工事をどこに頼むか迷っていたところ、北山で気になるおしゃれなカフェを発見。お店の人と話をし、そこを手がけた大工さんを紹介していただきました。その人は大徳寺などでもお仕事をしている宮大工さんで、個性的な方でした。今思えば、結婚してすぐに京都でサロンをオープンすることになりましたが、当時はまったく不安などなかったですね。ただ2人で前に進むことだけを考えながら必死で頑張っていました。

Lu cocon 郁里

ざら半紙に描いた折り込み広告と全席個室が評判に

最初のお店は9坪で、セット面は個室タイプの3席、シャンプー台が2台、スタッフは私たち2人だけの小さなサロンでした。そのサロンデザインを考えているときに大工さんの知り合いの女性が「個室の美容室があったらおもしろいよね」とおっしゃったんです。確かに施術中の姿を見られるのはお客さまも抵抗があるだろうし、そんな配慮をしたいという2人の意見が一致したので全席個室にしました。集客は、知人のデザイナーさんにお願いして、割り箸を削って筆の替わりにしたものでざら半紙に描いてもらった新聞の折り込み広告だけ。ところがそれが好評で、オープン3日間だけ30%オフだったんですが、その後もたくさん来ていただいてありがたかったですね。多分、全席が個室で、まったく中が見えないユニークなサロンだったので興味を持たれた方が多かったんだと思います。それでも、軌道に乗るまでの数ヶ月間は厳しかったですね。

新聞の折り込み広告

苦難を乗り越え、3席での売上400万超に

1店舗目のサロンをオープンするにあたり、金融公庫から資金を借りました。オープンから数カ月は、その返済日が迫ってくると、「残りの日数で、あとこれだけ売上げを上げないと…」という状態が続きました。当初、将来のことなど計画性がないままスタートしましたから、軌道に乗せるまでが大変でした。そこで、改めて看板を作って集客を図ろうとしていた時に、その看板作りを見て興味を持ち来店していただいたり、お客様に紹介して頂いたりして集客が徐々にアップするようになりました。実は今でも、最初の折り込み広告を見て以来、8年間ずっと来店してくださる方もいらっしゃいます。多分、割引とか金額の問題ではなく、そういう方とは良いご縁でつながっているんでしょう。同じ頃、私に赤ちゃんが出来たことがわかり、とても嬉しかったです。それでも、妊娠9か月までは頑張ってサロンワークをしていました。その甲斐があり、3席で1ヶ月の売上げが400万円以上になりました。

Lu cocon 郁里

予約でいっぱいのノートを持参して銀行に融資の交渉

その頃には忙しくなったのでスタッフを増やし、スタイリストは私たちの他に現在の賀茂川店の店長を含めて4人、アシスタントも2人以上になりました。2人目の子供ができた頃は増築して待合席を2部屋増やしましたが、それでも稼動が追いつかないので支店を出そうと3年かけて物件を探しました。そしてこの賀茂川店を見つけたんです。最初は貸家でしたが、しばらくして売りに出されました。でも、その金額が思った以上に高く、ここが気に入っていたので悩んだ挙げ句、物件を管理している工務店に銀行を紹介していただき、主人が予約帳を持って交渉に行ったんです。「ウチはこんなにお客さまがいっぱいなので融資してください」と(笑)。その熱意が伝わったのか借りることができたんです。物件代金に工事費を含めた金額とその当時持っていた自己資金との差額 数千万円を融資していただきました。

野々村かおりさん(Lu cocon 郁里)

場所よりも技術する“人”の方が大事なんだと再認識

今振り返ると、あの頃に繁盛していたのは主人の技術力によるものだと思っています。カットはドライカットを極めており、パーマはその頃すでに、髪のダメージ状態に応じて根元と毛先に塗布する薬剤を塗り分けていました。また、ヘアカラーもブームになり始めていた頃でお客さまのニーズにお応えできる技術とデザインを提供していたからだと思います。当時から技術や商品の説明をきちんとしていましたから、お客さまに信頼されていたんだと思います。技術の説明については、お客さまだけでなくスタッフに対しても同じで、社員旅行の行き先は、バリやフランス。バリはクリームバス、フランスはアロマオイルの勉強会を兼ねての旅行でした。クリームバスは実際に体験して、私たちの施術プログラムの方が気持ちいいと感じ、場所よりも技術する人の方が大事なんだと再認識しましたね。そんな主人が生前考えていたのが『ハッピー8店舗計画』というビジョンで、これは家族だけでなくスタッフの将来も考えた未来図でした。

Lu cocon 郁里

人を育てる環境作りと地域社会への貢献を目指す

主人が考えていた『ハッピー8店舗計画』というのは、郁里の将来のビジョンです。8は末広がりを意味する8店舗の出店。私たちがいなくなっても子供やスタッフたちを育てるための環境を作り、また地域社会への貢献も目指していたようです。例えば、サロンを株式会社にしたり、出張サービスを含めた福祉関係に力を注いだり、あるいはスタッフの成長に合わせて独立をバックアップすることまで考えてノートにびっしり内容を書き込んでいました。その他にもいろんな計画を練っていたようです。それを実践したのが賀茂川店の出店で、昨年は御池店もオープン。さらに賀茂川店は昨年リニューアルし、3店舗ともテイストの違う全席個室タイプのサロンにしました。個室には移動式シャンプーユニット「オアシス」を導入して可動式にしています。改装に関しては私がいろんなアイデアを出して、限られたスペースを有効に使い、セット面を増やすようにお願いしました。

Lu cocon 郁里

病魔と闘うご主人の療養生活とスタッフの奮闘

実は賀茂川店改装の話をしていた頃、急に主人が「頭が痛い」と言い出したんです。検査の結果、悪性の脳腫瘍だと判明し急遽入院。私もサロンワークを休んで看病しましたが、その間も各店長以下スタッフたちが必死で頑張ってくれて毎月400万円以上の売上げを維持してくれました。賀茂川店の店長は、自分以外に主人や私のお客様も担当し、のちに「1年で20年分の勉強をさせてもらいました」と言っていたほど。現在の御池店の店長も、私のヘアやエステのお客さまを担当してくれました。みんな頑張ってくれましたが1年間の闘病生活後に主人が亡くなり、しばらく私は途方に暮れていました。そんな時、「ハッピー8店舗計画は僕たちの夢なのでやりましょう」と大宮店の店長が言ってくれ、賀茂川店の改装に踏切りました。お客さまの中には主人のイメージが残っているので来るのがつらいと言う方もいましたから。それと、賀茂川の景色をお客さまに見せたいという主人の希望を実現したかったのです。

Lu cocon 郁里

ネガティブな言葉は『プラス言葉貯金箱』に罰金!

でも、工事期間中に賀茂川店のお客さまをどうするか悩み、大宮店でカバーするのは無理だという結論に達して思い切って御池店を出店しました(笑)。私は計画性がなく、主人が亡くなってからも不安だらけでしたが、落ち込んでも何も解決できないと思い前向きに実行しています。最近、マスコミで『不況』という言葉をよく見聞きしますが、その言葉がさらにマイナス要素として伝染していると思うんです。うちのサロンでは『プラス言葉貯金箱』というのを作って、ネガティブな言葉を言ったら100円の罰金制度を設けました。それを有効に使って、マイナスをプラスに変えるんです。今でも、「お疲れさま」の言葉は禁止で、「ありがとうございました」を義務づけています。ポジティブな言葉を使うと、サロンのムードも一瞬にして変わるんですよ。プラスの波動を大切にしてこれからも頑張ろうと思います。最後に、この業界で頑張っている若い人に対して、美容が好きならずっとこの仕事を続けてほしいと思います。お店が合わないなら退職することもひとつの選択ですが、続けることで分かることもたくさんあります。みんなの幸せを考えながら自分から人に与えることができる美容師さんがたくさん育つと、この業界ももっと素晴らしくなると思います。

ご家族の似顔絵
野々村かおりさん(Lu cocon 郁里)

野々村かおり(ノノムラカオリ)

株式会社コワフュール・ジャポン代表取締役、Lu cocon 郁里ディレクター。岐阜県出身。中部美容専門学校卒業。名古屋市内で1店舗、岐阜県中津川市で1店舗、岐阜県恵那市で1店舗、奈良県橿原市で1店舗を経て、2001年7月に亡き夫で創設者でもある初代ディレクターの野々村郁民さんと共に京都市内にLu cocon 郁里 大宮店をオープン。その後、2005年11月に賀茂川店、2009年7月に御池店をオープンし、2009年11月に賀茂川店をリニューアルオープン。2008年に夫の野々村郁民さんが他界した後に代表となり、トータルビューティーを提案する全店個室で人と地球に優しいサロン展開を継承する。現在、サロンワークを中心に出張ブライダルや撮影の他、デトックスのコーチングや半断食の指導など地域・社会貢献にも寄与している。

シリーズ:この人から学ぶ、成功の秘訣「TBMG」

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