2023年で33回目を迎えたTakara Business Creation Awards(TBCA)。デザイナーによる自作品のプレゼンテーションと、国内外で活躍する外部審査員のディスカッションで選ばれた、TBCA2023サロン部門受賞作品・ノミネート作品を紹介します。
外部審査員
五十嵐 久枝(IGARASHI DESIGN STUDIO)
1993年にIGARASHI DESIGN STUDIOを設立。グッドデザイン賞審査委員、キッズデザイン賞審査委員、武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。
芦沢 啓治(芦沢啓治建築設計事務所)
1995年横浜国立大学建築学科卒業。2005年に芦沢啓治建築設計事務所を設立。2014年石巻工房代表取締役。
鬼木 孝一郎(株式会社鬼木デザインスタジオ)
早稲田大学卒業後、約10年間に渡って国内外の空間デザインを手がけ、2015年に鬼木デザインスタジオを設立。
ファシリテーター
塩田 健一
月刊『商店建築』編集長。東京都生まれ。工学院大学大学院修了後、2006年より『商店建築』編集部に所属。2017年2月より現職に就任。
※2023年9月現在
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作品紹介✨サロンデザイン賞 銀賞/NUTS
所在:愛知県半田市
面積:38.2㎡(11.6坪)
竣工:2022年1月
立地:住宅地域
種別:内装(新装)
業種:美容
デザイナー:林 優佑/嶋木 良
デザイナー林さんによるプレゼンテーション
デザイナー
林 優佑
1994年奈良県生まれ。大阪市立大学工学部都市学科卒。京都府立大学大学院生命環境科学研究科環境科学専攻修了。2019年タカラスペースデザイン株式会社入社。世界観やストーリーを重視した設計で、シンプルかつ独創的なサロン空間デザインを手掛ける。近年、各業界紙・建築雑誌などにも多く取り上げられている期待の若手デザイナー。
※2023年12月時点
愛知県半田市の住宅街にあるメンズサロンで、「人も場所も生まれ変わる」をコンセプトに設計したサロンです。このコンセプトのとおり、サロンに来店されるお客さまは、自身の骨格や髪質などを活かしつつ、施術を通して新たな特性を獲得し、生まれ変わるというストーリーを体験します。
空間においても、既存の状態を活かしながらそこに新たな特性を加えることに着目し、サロンに来店されるお客さまのストーリー体験とサロンの空間設計がリンクするようなデザインを心がけました。
物件はパッチワーク状の石膏ボード、露出したモルタル基礎、鉄骨梁と木板天井が特徴の古いテナントビル。新たに挿入するパーツは既存の材質に関連するものに限定しました。石膏ボードのパッチワークはそのまま残して塗装。空間の仕切りには、モルタル基礎と鉄骨からインスピレーションを得たLGS(以下、軽量鉄骨)を素地で配置し、ラワンの曲げ合板を沿わせ、ボーダーパネル(連続した帯をイメージしたパネル)としてシルバー塗装で仕上げました。ボーダーパネルは空間のつなぎ役として全体に延ばしています。
ボーダーパネルはラワンの木目を活かしつつ、シルバーに塗装することで、一見木材とは思えない鈍い光沢が現れており、「新たな特性を加えて生まれ変わる」というデザインコンセプトを表現しました。また、ラワンの裏面の素地をあえて見せている場所があり、素材が持つ表裏の二面性も表現しています。このボーダーパネルはミラーや掲示物、照明などを吊すためのベースとして、また、ミラーのどこからでも映り込むため、サロンのアイコン的な役割も果たしています。
審査員・ファシリテーターからのコメント
少ない手数、少ない要素で複雑な空間を作り出していますよね。既存の建物の要素を活かす場合、ただむき出しにした空間に仕上げがちですが、シルバーのボーダーパネルや軽量鉄骨の仕切りなど、新たに加えた要素が空間をギュッと引き締めています。
最低限何を足すことで新しい空間に生まれ変わるのか、とてもよく考えられていて、面白いです。
ラワンの曲げ合板の木目が少し透けて見えるような、鈍く光るシルバーの塗装は、いい塗料を選ばれていますね。帯状にして空間をつなげつつ、角のアールが空間をマイルドにしていて、本当にうまいなと思いました。
また、仕切りの軽量鉄骨は新規で造作したものですが、元々あったものかと思うくらいの仕上がり。特に既存の基礎に合わせた軽量鉄骨の高さが絶妙ですよね。一点気になるとすれば、ラワン合板の元の状態をあえて見せている場所があります。林さんがおっしゃった通り、素材の二面性を表現するというコンセプトに沿ったデザインとはいえ、やや浮いて見えてしまうように感じました。
ボーダーパネルに架かっているミラーがすべて可動式で、イスも移動できるのがいいですね。意匠的である一方で、機能的でもあって。照明も吊せるとのことなので、どこでもカットスペースにできるといった切り口も面白いと思いました。
とても上手いです。上手いからこそ言わせてもらうと、私が以前シルバー塗装で驚いたのは、スイス人建築家のピーター・ズントーが手掛けた教会でした。素材を大切にするズントーがすごいことをするんだなと。重層感がとても感じられ、衝撃を受けたのですが、そこではあえて裏側を見せるようなことはしていないんですね。
今回はコンセプト的に必要だったかもしれませんが、ラワン合板の裏をあえて見せることが、この空間で真に必要だったのかは、吟味してよかったかもしれません。デザインされた空間はこちらが思っている意図を伝える装置になりうるものですが、こちらの意図が相手に正しく伝わるかどうか、設計者として考える必要があったのかなと思いました。
作品紹介✨サロンデザイン賞 銀賞/Hui
所在:千葉県佐倉市
面積:115.2㎡
竣工:2022年8月
立地:商業地域
種別:新装
業種:美容
デザイナー:湯口 巌
デザイナー湯口さんによるプレゼンテーション
デザイナー
湯口 巌
1976年福岡県生まれ。九州芸術工科大学芸術工学部環境設計学科卒。芸術工学研究科博士前期課程(生活環境専攻)修了。2001年にタカラスペースデザイン株式会社へ入社。主なフィールドは新規開業・小規模サロン。立地や物件の良さを引き出し、シンプルながらもクオリティーの高いデザイン、ハイグレードな空間を提案し続けている。日本空間デザイン賞やJCDデザインアワードでの受賞多数。
※2023年12月時点
千葉県の郊外、スタイリスト夫婦がオーナーさまのヘアサロンをご紹介します。お二人が勤務されていた、幅広い年齢層のお客さま(以下、顧客)が訪れるファミリーサロンとは真逆で、顧客を絞り、自分たちのカラーを出していきたいとの思いから、以前のサロンにはなかったグレー一色の洗練された空間を強く希望。そこには、顧客やサービスが主役として引き立つ空間にしたいといったコンセプトが込められています。
店名のHuiはハワイの言葉で「集まる」という意味があります。そこで、主要な素材に波をイメージさせる波板スレート板を採用。グレー1色の空間に陰影のグラデーションをつけることを提案しました。波の振幅にも注目し、壁を3段に分け、中段を半波分ずらしてセットバック。ずれによって生まれた印象的な陰影のグラデーションはもちろん、立体感や重量感、オリジナリティを演出しました。セットバック箇所はスレート同士の隙間をモルタルで埋め、商品ディスプレイやメガネ置きなどの棚機能も持たせています。
波板のデザインはかなり目を惹きますが、落ち着いた印象の空間にしたいというご要望もあったことから、カウンター周辺は石素材のみを用いて空間に落ち着きを加えています。また、背面に薄いグレーのシートを貼った、一部銀引きのガラススクリーンを店内中央に、薪を飾った疑似暖炉を店内突き当たりに配置。これらを空間のアクセントにして仕上げました。
審査員・ファシリテーターからのコメント
いろんな要素の組み合わせというより、統一された空間の中にさまざまな機能がきれいに収まっていますよね。ある意味、「湯口さんトーン」というべきものを、そこに感じました。
波板スレートのずれた陰影がどの場所でもきれいに出ていますよね。スレートのプロポーション的なものなのか、天井も高く見えます。
波板スレートを使うというワンアイデアで終わらず、アイデアとデザインが重層的に重なって、結果的に素晴らしい空間に仕上がっているように思います。疑似暖炉のアイデアも、一見突飛なようでいて、機能面でも、デザイン面でも理に叶っていて、うまく空間に溶け込んでいますよね。
波板の中段をあえて半波分ずらす必要があったかどうかは検討材料の一つに感じましたが、ずらしていないと、この空間は生まれなかったですよね。感心しました。
湯口さんは平面図をある程度描いた後は、立体で詳細なパースを描いていらっしゃるんですね。自分がその空間の中にいるような感覚でデザインしているからこそ、今回のようなアイデアやデザインの工夫がうまく空間に活かせているように感じました。
作品紹介 ~サロンデザイン賞 ノミネート作品/Fig~
所在:大阪府高槻市
面積:29㎡(9坪)
竣工:2022年6月
立地:商業地域
種別:内装(新装)
業種:美容
デザイナー:藤井 智大
デザイナー
藤井 智大
1994年兵庫県生まれ。名古屋市立大学芸術工学部建築都市デザイン学科卒業。
2017年にタカラスペースデザイン入社。
小規模の新規独立店から大型チェーン店、新築案件まで幅広いサロンのデザインを手掛ける若手デザイナー。施主の想いを形にしつつ、個性あふれる空間演出を提案。細やかな設計と繊細な素材選びで、誰からも愛される空間づくりを心がけている。
※2023年12月時点
サロンのオーナーさまは30代の女性です。勤務していたサロンからの独立にあたって、初回打ち合わせの前から、二つのことが決まっていました。一つはサロンに来られるお客さまと、一対一でゆったりと過ごせる空間にすること。もう一つは、店名をfig(=イチジク)にすることでした。シンプルにオーナーさまはイチジクが好きという理由もある一方で、イチジクの実は緑の皮の内部に鮮やかな赤色の花があり、その意外性と色の対比がとても印象的です。
施術においても、髪だけではなく、イチジクのようにお客さまの内面まで美しく仕上げていきたいという思いを、オーナーは強く持っておられました。そこで、今回はイチジクから要素を抽出し、意外性や色や素材の対比をコンセプトにデザインを組み立てました。
テナントは路地に入ったビルの2階。ボード貼りがしてあるスケルトン状態でしたが、ただテクスチャーを貼るだけではなく、壁や家具の仕上げレイヤーを斜めに切り取り、下地材を見せるといった、イチジクのような、仕上げと内面の対比を強調することで、お互いがより鮮やかに見えるように構成しました。たとえば、ジョリパッドの左官仕上げの陰影と、下地材の金属光沢との対比…などですね。仕上げ材の質感はもちろん、LGS(軽量鉄骨)やシナ合板といった下地材の美しさも引き出しました。
また、広い空間にポツンとセット椅子があっても、来店されたお客さまは緊張してしまいます。一対一のほどよい距離感が取れる空間とするため、セット椅子を中心に数層のレイヤーで囲いました。窓からは向かいのホテルの裏側と電線しか見えなかったのですが、レンガ調の壁や天井の色など、窓の外の風景や周辺の景色にある色と要素も空間内にレイヤーとして散りばめることで、カットする時はミラー越しに、内から外への空間の広がりも感じられるような形に仕上げました。
まだまだ続きます!TBCA2023のサロン部門受賞作品・ノミネート作品を紹介するvol.03は2024年1月9日に掲載予定です。
カメラマン:辰巳 隆二
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