美容師専門税理士

シリーズ:誰も教えてくれない〇〇の話

"美容室専門税理士"が解説する「誰も教えてくれないお金の話」第4回 現役サロンオーナーと担当税理士が語る"上手くいくサロンのお金の使い方“とは?

「誰も教えてくれない○○の話」は、誰に聞けばいいのかわからない「サロン経営のさまざまな悩み」を、専門家に解説してもらうシリーズ。

最終回となる今回は、「上手くいくサロンのお金の使い方」について、愛知県で美容サロン4店舗を運営するアンドエル株式会社のオーナー髙木氏・半﨑氏と、お二人の経営をサポートする税理士「中嶋政雄」先生の3人にお話しいただきました。

連載:"美容室専門税理士"が解説する「誰も教えてくれないお金の話」(全4回)

第1回 サロン経営をHappyに導くお金の使い方

第2回 サロン経営をHappyに導く節税のコツ

第3回 サロン経営をHappyに導く2店舗目出店のポイント【前編】
第3回 サロン経営をHappyに導く2店舗目出店のポイント【後編】
第4回 現役サロンオーナーと担当税理士が語る"上手くいくサロンのお金の使い方“とは?★今回はコチラ

登場人物

中嶋先生

中嶋政雄(なかしま税務労務事務所 税理士)

美容室の創業サポートが得意な美容室専門の税理士。日本政策金融公庫の融資を活用した美容室の開業支援など多数の実績がある。理美容室に向けたサロン開業、サロン経営が学べるセミナーも行っている。

サロン開業相談室

髙木さん

髙木さん

愛知県出身。名古屋理容美容専門学校卒業。地元サロン勤務を経て、平成29年に共同経営者の半﨑さんと「Legare/a」をオープン。

美容は自己表現の一部であり、お客様が自分自身を愛し、自信を持つ手助けをすることだと信じ日々お客様と向き合っている

半崎さん

半崎さん

愛知県出身。名古屋理容美容専門学校卒業。地元サロン勤務を経て、平成29年に共同経営者の髙木さんと「Legare/a」をオープン。_従来の美容師の働き方から終身雇用の会社を目指し、地域に根付く共に歳を重ねることができる美容企業の確率を目指す。

※2023年11月現在

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スタッフファースト実現のために。アンドエル株式会社が開業時に意識していたことは?

中嶋先生

――アンドエル株式会社は、平成29年の開業から令和5年の4店舗目の開業まで、非常に順調に成長している美容サロンだと感じます。まず、開業の時点でどのようなことを意識されていましたか?

髙木さん

美容サロンで働くスタイリストって、例えば給料が安いとか長時間労働とか、ネガティブなイメージを持っていると思うんです。私も半﨑もスタイリストとして働きながら、その部分に課題を感じていて、「お客様を幸せにするためにも、まずは美容サロンで働く自分たちが幸せになるサロンを作りたい」という想いが強くありました。そのため、開業時に意識したのは「スタッフファーストの美容サロンを作る」ことでしたね。

半崎さん

「スタッフファーストの美容サロンを作る」上で重要になるのが、しっかりと利益が出せるサロンにすることでした。美容サロンは席数によって売上の上限が決まってしまうので、1店舗だけでなく、2店舗・3店舗と規模を拡大することを最初から考えていましたね。

――ありがとうございます。中嶋先生は開業前からお二人のパートナーとして関わっているとのことですが、最初はどのような印象を持ったのでしょうか?

中嶋先生

実は「2店舗目の出店は1店舗目が軌道に乗ってから」と考えるオーナーさんがほとんどなのです。ただ、2店舗目出店のために融資を受けることを考えると、開業の段階から2店舗目の出店を決めておくのがベストなのです。なぜなら、数年後に融資を受けるという目標があれば、それに合わせて「銀行に信頼されるためのお金の使い方」が開業当初からできるからです。そのため、お二人の話を最初に聞いたときは明確なビジョンを描いていることに感銘を受け、必ず成功させたい、と私自身も心に火がつきました。

――髙木さんと半﨑さんのお二人はどうでしたか?

髙木さん

経営に関しては素人なので、開業融資を受けるための事業計画を作るタイミングからアドバイスをいただけて本当に助かりました。例えば「内装に予算がけっこうかかっているけど、これってお客さんにとって重要かな?」とか、自分たちが突っ走りすぎている部分に対して釘を刺してくれるイメージですね。経営やお金の使い方を一から学ぶことができました。

半崎さん

私も同じです。スタッフファーストであることや、店舗を拡大していきたいことも伝えていたので、「2店舗目の開業をするなら、今のお金の使い方はこの方がいい」といった感じで、その時々のフェーズに合わせて必要なことを柔軟にアドバイスいただけました。

上手くいくサロンのお金の使い方①経費の予算を守る

挿入

――ではどのようなお金の使い方を意識されてきたのかについてお聞きします。お金の使い方に関して、中嶋先生から最初にアドバイスをしたのはどのようなことだったのでしょうか?

中嶋先生

理想のサロンを作るためには、まずは「生存するサロンを作ること」が重要です。そのために分配率コントロール表を作成し、経費の予算を守ることを意識した経営をスタートしました。分配率コントロール表とは、以下のようなものです。

分配コントロール表

人件費(スタッフに支払うお金)


35%


不動産コスト(お店の家賃)


20%


広告費(ホットペッパーなど)


5%


その他の経費(水道代・シャンプー・カラー剤など)


20%


中嶋先生

これは、売上を100%とした場合の使っていい経費の上限を示すもので、利益を20%(※借入返済・生活費分)残すように設定して、その他はこの範囲内でお金を使っていれば、まずはお店がつぶれてしまうことはありません。

事業計画を作る段階からこの考え方を伝えて、開業後、経費を使う際にはこの上限を意識するようにアドバイスしました。

――中嶋先生から分配率コントロールのお話を聞いて、お二人はどのように感じましたか?また、実践するうえで意識したことはありますか?

半崎さん

分配率とか経費の上限とか、耳慣れない言葉が多いので最初は戸惑いました。ただ使っていい金額の上限が設定されているので、最初はとにかくそれを守れるように意識していました。

髙木さん

何にどのくらいの経費を使っていいのかが示されていますし、ここから逆算して毎月どの程度の売上が必要なのかも算出できます。また、3か月に一度の頻度で面談をしてもらえたのもよかったですね。実績と分配率コントロール表を照らし合わせて、過剰投資になっている箇所はすぐに修正できました。

上手くいくサロンのお金の使い方②積極的に利益を出す

差し替え

――上手く行くサロンのお金の使い方の2つ目のポイントとして「積極的に利益を出す」をピックアップいただいています。このポイントが重要な理由について教えてください。

中嶋先生

お二人は開業段階から2店舗目の出店を決めていたので、融資が受けられる状態にすることが開業当初からの大切なテーマでした。融資を受けるためには銀行からの信頼を得ることが必要です。では、銀行からの信頼を得るには何が必要かというと「1店舗目でしっかりと利益を出す=納税する」ことです。そのため、必要以上に節税をするのはやめて、利益を出してしっかり納税しようとアドバイスをしました。

――先生のアドバイスを聞いてお二人はどのように感じましたか?納税額が増えることに躊躇するようなことはなかったのでしょうか?

髙木さん

毎年10月頃に、納税額のシミュレーションをしてもらうのですが、最初に納税額を聞いたときは少しびっくりしましたね。ただ、納税をする意味(銀行から信頼を得る)は中嶋先生から説明してもらっていましたし、私たちの目標は事業の拡大だったので納得しました。

半﨑さん

事業の拡大といった目標がなければ、確かにびっくりする金額ですよね。ただ、私たちは融資を受けるという明確なねらいがあったので、ポジティブに受け止めることができましたし、「次のステップに確実に進んでいる」と感じることができました。

上手くいくサロンのお金の使い方③お金が残る節税対策を優先

挿し絵

――3つ目のポイントとして「お金が残る節税対策を優先」をピックアップいただいています。上述した納税額を増やすと相対するようにも感じますが、これはどのようなことなのでしょうか?

中嶋先生

銀行の信頼を得るためには「利益を出してしっかり納税すること」が重要ですが、その分手元資金が出ていってしまうのも現実です。なので、しっかり利益を出しつつ、手元資金を残す方法として「お金が残る節税対策」を提案しました。第2回で説明しました以下のような制度を利用することで、お金を残しながら節税対策ができます。※第2回で詳しく解説

①小規模企業共済制度
  税制優遇:掛金が全額所得控除、受取の際に税金の優遇が受けられる
② iDeCo(個人型確定拠出年金)

  税制優遇:掛金が全額所得控除、受取の際に税金の優遇が受けられる
③経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)

  税制優遇:掛金を損金として経費計上できるため、節税効果がある

これらの制度を使うことで、将来のお金を残しながら節税効果を得ることができます。経営セーフティ共済以外は経費ではないので、利益が減ることもなく、銀行からの評価にも影響しません。利益を残しつつ節税効果もあり、手元資金も残しておける制度なので、多くの理美容サロンのオーナーにおすすめしたい方法です。

――美容サロンのお金の使い方として非常に理に叶ったものであることが伝わってきます。ちなみに、開業初年度からこれらの制度を活用したのでしょうか?また、どの制度を活用したのでしょうか?

半崎さん

はじめて制度を活用したのは 3年目でしたね。ここまで順調に利益が伸びていって、3年目になって予測よりも利益が大きくなりそうだったので、はじめて活用しました。

髙木さん

活用した制度は「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」でしたね。お店のお金を残すことを優先したかったので、小規模企業共済ではなく、こちらの制度を選びました。

上手く行くサロンのお金の使い方④2店舗目出店まで法人化はしない・追加融資を受けない

差し替え

――続いて「2店舗目出店まで法人化しない・追加融資を受けない」について教えてください。これにはどんな効果があるのでしょうか?

中嶋先生

法人化のメリットは、「消費税免税期間を最大2年間伸ばせる」という点です。通常、課税売上高が1,000万円を超えると、消費税の納税の義務が発生しますが、法人化することで免税期間を伸ばすことができます。そのため、売上高が1,000万円を超えると法人化を検討するオーナーが多いのですが、お二人には2店舗目出店までは法人化しないようにアドバイスしました。

――それはなぜなのでしょうか?

中嶋先生

2店舗目出店後の方が、消費税の免税メリットが大きくなるからです。店舗が増えるとその分売上が上がり、消費税の納税額が増えます。納税額が増えるタイミングで法人化した方が、消費税の免税メリットが大きくなるということです。

――では、「追加融資を受けない」に関してはいかがでしょうか?

中嶋先生

2店舗目出店までに追加融資を受けると、金融機関が融資に消極的になる傾向があります。要は追加融資を受けたせいで「お金を借りたい出店のタイミングで断られやすくなる」ということです。また、追加融資を受けると借入の上限を圧迫することにもつながります。1店舗目開業から2店舗目出店までには、追加融資を受けないように経営をコントロールすることが大切です。

――ありがとうございます。これらのアドバイスを受けて、お二人はどのように感じたのでしょうか?

半崎さん

私たちが目指しているのは「スタッフファーストであること、その実現のために事業を拡大すること」です。法人化は「そのために必要ならする」という意識でいたので、先生からのアドバイス通りにしました。

髙木さん

追加融資も同じですね。当時は2店舗目出店が優先事項だったので、その邪魔になるようなことはしませんでした。開業当初から、経営が傾かないように経費をコントロールしていたので、「運転資金のために追加融資が必要」といった状態にならなかったのもよかったと思います。

まとめ“これからのサロンに求められるお金の使い方”

――現在、インフレによる物価高騰や最低賃金の上昇など、経営者にとって悩ましい問題が次々に噴出しています。これから独立や出店を検討しているスタイリストやサロンオーナーが、お金の使い方で意識すべきはどのようなことなのでしょうか?

中嶋先生

美容サロンを運営するコストが上がっていく中で、売上や利益を抑えた経営はリスクが高くなっていきます。中には「追加融資を受けないからこのままでいい」と考えている方もいるかもしれませんが、利益がどんどん先細っていき「お店を維持するだけで精一杯」といった状態になりかねません。すでに開業されている方は、売上と利益を増やす方法を早めに準備する必要がありますし、独立を検討している方も、売上と利益を増やすということを念頭において開業してほしいです。

髙木さん

コストが高くなっているのは私も実感しています。さらに、賃金を上げるだけでなく、働く環境も良くしてあげたいので、美容サロンオーナーとしては取り組まなければならない課題が多いです。売上・利益ともに目標設定を高くして、お金を残す仕組みを作っていくことが重要だと思います。

半崎さん

仕事の質を落とさずに作業時間を減らすとか、レイアウトや設備投資で効率化を図るとか、生産性を高めるための取り組みも重要ですね。絶えず変化する状況に負けないように、あらゆる要素を早め早めにアップデートすることが大切だと感じています。

――最後に、独立を検討している方や経営で悩みを抱えている方に何かアドバイスがあればお願いします。

半崎さん

運営コストが年々高くなっているように、経営環境は目まぐるしく変化しています。固定概念に縛られていたり、「これくらいでいいや」と思考を止めてしまったりすると、あっという間に状況が悪化してしまうことも考えられます。お金の使い方にしても経営にしても、早く柔軟に動くことを意識すると良いかもしれません。

髙木さん

独立すると、どうしても数字のことに意識が集中してしまいやすいのですが、「何のために数字が必要なのか」という部分を明確にした方が良いかもしれません。人によって目標は違うと思うのですが、数字は「自分やお客さんを幸せにするためのツール」でしかありません。稼ぐことや数字だけに囚われることなく、幸せになることを考えて美容師という職業を楽しんでほしいと思います。

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