ライター 前田正明 | カメラ 更科智子 | 配信日 2013.2.7
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決められたレールの上を進むことに反発して大学へ進学
家は祖父の代から理容店を経営していたので、子供の頃からおじいちゃんに家業を継ぐように言われていました。だから、小学校の卒業文集にも「将来は床屋さんになる」って書いていました。高校まではそれがベストの選択だと思っていたんです。ところが、思春期になると少し反発心が出てしまい、浪人して大学に進学しました。青春を謳歌したいというか、尾崎豊さんの歌に感化されて決められたレールの上を進むことに疑問を感じたんです(笑)。でも、興味のあった文学部ではなく経営学部を選択したのは、頭のどこかに家業を継ぐことを意識していたからかもしれません。大学生活では、サークルに入って先輩や後輩たちとの付き合いを通じて人間関係を築けたこと、あるいはホテルでのアルバイトで厳しい社会勉強を積んだことが将来的に大きな経験になったといえますね。
年齢差を感じながらも、真剣に学んだ専門学校時代
卒業後の進路について、実は大学時代もずっと迷いが生じていて、この世界に進もうと決めたのは4年生の時でした。一般企業への就職も考えましたが、すでに不況の時代ということもあり、家業を継ぐ決心をしたんです。専門学校に入学してからは精神的に揺れることもなく真剣に学びました。当然、クラスメイトは年下ばかりでしたがそれは覚悟の上でした。専門学校時代は制服があったので、通学時に社会人の友だちと出会ったり、他の生徒たちと着こなしの違いがあったところに5才の年齢差を感じました。でも実際は、兄貴的な存在として接してくれたので嬉しかったです。私は大卒として威厳を保ちたかったのですが、慕ってくれる反面「おやじ」というあだ名で呼ばれてました。クラスメイトに本田誠一先生の息子の本田真一くんがいたのですが、彼からはよくからかわれましたね(笑)。
家業を継ぐために確かな技術を身につけることが必要
当時は1年制でまだインターン制度があった時代です。本田誠一先生は特別講師として来校されたことがあり、その時に初めてすごい方だということを知りました。そこで、真一くんに頼んで、インターン先のサロンを本田先生に紹介してもらえるようにお願いしました。本田先生のご紹介なら確かだろうと思ったからです。それがマキシムナカイです。当時はカリスマ美容師がブームになる直前で、理容はやや引け目を感じている頃でした。ほとんどの生徒は華やかさのあるユニセックスサロンへの入社を希望していました。でも、本田先生はしっかりした技術を身につければ、将来的に家業を継ぐ際にいい経験になるという考えで、メンズ主体で展開していたマキシムナカイを紹介してくださったんです。私も最初は華やかな雰囲気を求めましたが、やると決めたからには真剣に取り組み、同時に年齢差を埋めてやろうと決意しました。
サロンの面接に同行してくれた本田先生からの叱咤激励
理容師になった新人時代は、早く一人前になって家業を継ぐことを考えていました。独立して別の場所に出店するよりも、いかに父と共存して若いスタッフを雇いながら頑張るか。それしか考えられなかったですね。当時の憧れはやはりこの業界のパイオニアでもある本田誠一先生でした。先生の研究団体で学んだこともたくさんあり、何より見ているだけで惚れ惚れするような仕事ぶりでした。実は、ご紹介いただいたマキシムナカイへ面接試験を受けに行く際に、本田先生自らご同行してくださったんです。小田急線のロマンスカーに乗っている1時間ほどの間、いろんな激励とアドバイスをいただきました。私が大卒者であることに関して「決して遠回りではなく、むしろ貴重な経験をしたのだからプラス思考に考え、それを生かしなさい。理美容の世界は技術だけじゃないからプラス思考に考えなさい」と。そんな言葉が今でも胸に残っています。
学歴は関係ない世界だから気持ちをリセットして臨んだ
マキシムナカイには約9年間勤めました。経験を積むため他店で学ぶことも考えましたが、長く勤続することで得られることがたくさんあると思い独立するまで頑張りました。先輩たちも10年以上勤続している人がたくさんいましたから。ただ、当初は年下の先輩スタッフから厳しく指導されるなど辛い時期もありました。でも、それは理容師を目指した時から覚悟をしていたことです。父からも、「年齢や大卒といった学歴は関係ない世界だから気持ちをリセットして臨むように」と言われていました。そんな厳しい世界で頑張っていた時に妻と知り合いました。彼女は同じテナントビルの2階のサロンに勤めていた美容師でした。実は、結婚と同時に独立を考えていた頃、彼女は私の実家の理容室で一緒に働くことに難色を示したんです。彼女も美容師としての夢を持っていたようで、かなり話し合いをしましたね。
父とは違う若い客層を獲得しようと2世帯サロンをスタート
妻はサロンワークだけでなく、当時から多彩なキャリアを持っていました。例えば、ヘアメイクの仕事や専門学校の講師、さらには美容部員のインストラクターを指導する講師などもやっていました。そこで、父のサロンと壁を隔てて、私たちの新しいサロンを隣にオープンすることにしたんです。それが現在のSou-i hair Tanobeで、いわゆる2世帯サロンという形態です。私は独立を機に美容師の免許も取得して、父の客層とは違う若い男性や女性客を獲得しようと考えました。でも、オープン当初は集客面でかなり苦労しました。これといった告知広告をしなかったので、オープン以降はリーフレットを作って近所をポスティングして回るのが私の日課でした。マキシムナカイ時代のお客さまが30名くらい来てくださり、そのご家族も来店されたことが救いでしたね。その後、妻のアイデアでPRをしながら徐々にお客さまを増やしていきました。
サロンポスの導入でデータを分析して顧客管理に努めた
サロンのコンセプトは、ココロとカラダがきれいになれる癒しの空間です。髪に優しい薬剤やお肌に優しい化粧品をチョイスして、トータルビューティーで末永いお付合いを目指しています。集客面ではタカラベルモントさんからいろんなアドバイスをいただき参考にしました。例えば、1年に3回無料配布しているリーフレットの作成や、マキシムナカイでも使用していたサロンポスを導入して顧客管理の面で活用しています。ただ、顧客管理で苦労したのは、その分析方法です。データや表を見れば傾向や対策は理解できますが、そのデータの出し方が分かりませんでした。そこをタカラさんにアドバイスしていただき、再来店率や客単価や男女比率を把握することができました。さらに、マネージメントの書籍を読んだり、税理士さんを雇って数字的な分析もお願いしました。今のサロン経営において、やはり分析は大切だと感じています。
設備投資でメニューの充実化を図り男女比率半々を維持
現在の来店客の男女比率は約半々です。実家は理容室でしたが、私たちは美容室としてオープンしました。女性は好奇心が旺盛で、きらびやかなサロンでも物怖じせずに来店されます。ところが、男性は意外と小心者(笑)。そんな話を聞き、男女比を半々にするには男性が来店しやすい雰囲気にした方がいいと思い、ナチュラル志向の内装にしました。さらに配慮したのがメニュー内容。実は父のお客さまを引き継ごうと料金設定を合わせたんですが、内容的に満足がいかず、カット以外のメニューの質を上げ、料金をアップさせていただきました。そのための設備投資も惜しんでいません。今ではトリートメントを含めたコースメニューもご提案しています。さらに、年間で8万円以上のお客さまはロイヤルカスタマーとしてVIPサービスも行っています。これらはすべてデータから導いた戦略です。
小中学生を対象にした体験講座を開き地域活動に貢献
私たちは真のファミリーサロンとして、地域密着型で生涯顧客をつくることを目標にしています。例えば、地域貢献として町内会のイベントに参加したり、夏休みに小学生を対象にした職業体験としての子供美容室を開いたりしています。20名くらいの子供たちが相モデルになってスタイリングをしその感想文を書いてもらいます。妻も中学校の文化祭で特別講師として招かれてヘアアレンジの講座を開き大好評でした。そんな子供たちが未来の美容師さんになってくれればいいですね。店名のSou-iは創意工夫の文字をアレンジしたもの。だから、これからも新しいことにチャレンジしていきたいです。最後に、この世界で頑張っている若い人に対して、技術だけでなく豊富な知識を持って頑張ってほしいですね。お客さまが私たちに求めるものは多く、それにお応えするのが私たちの喜びです。「あなたでなければだめなの」と言ってもらえる、そんな理美容師さんになってください。
田野辺 武(タノベタケシ)
株式会社 Sou-i代表取締役。神奈川県出身。中央理美容専門学校・理容科、鎌倉早見美容芸術専門学校・美容学科卒業。マキシムナカイに入社し9年間勤務。その後、2007年に独立してSou-i hair Tanobeを川崎市内にオープン。家業である父のサロンと併設する2世帯サロンとして展開する。2012年にSou-i faceをオープンし、地域密着型のトータルビューティーサロンとしてのサービスの他にさまざまな分野で地元に貢献している。
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