西田斉さん(Bond HAIR-MAKE UP -待庵-)

西田斉さん(Bond HAIR-MAKE UP -待庵-)| この人から学ぶ成功の秘訣 TBMG

ライター 前田正明 | カメラ 好川桃子 | 配信日 2008.6.5

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油絵でヘアの描き方に興味を持った小学生時代

神戸大学の教授を経て小学校の校長をしていた私の父は、教育者ということもあり非常に厳しい人でした。その反面、母はいつも家庭にいて、私にはとても優しくしてくれました。決して勉強は嫌いじゃなかったんですが、そんな母のお陰で勉強ばかりではなく、野球をしたり絵画を習いに行くことができました。そんなある日、私が油絵で祖父母の絵を描いたんです。その時、顔の表情や髪型の描き方にすごく興味を持ちましてね。静物画とは違って人物は動きがありますから、その表現方法になんとも言えない楽しさを感じたんです。それがきっかけで、美容師になろうと決心しました。ところが、中学1年生の時に、『将来、美容師になりたい』と父に告げたところ、父から『それなら、家を出ていけ』と言われましてね(笑)。最初は画家になりたいと言っていたんですが、それではお金を稼ぐことができないと反対されていました。それなら、美容師の方が現実的かなと考えたんですが、父は納得してくれなかったですね。

西田さん幼少期

手が不自由な母のためにカットをしてあげたい

それともう一つの理由は、母の髪をきれいにしてあげたいと思ったからなんです。実は、私の母は左手が少し不自由で、ブラシで髪の毛をとくことがうまくできなかったんです。いつも片手で長い髪を束ねていたんですが、いつかブローをしなくてもいいような、きれいなヘアスタイルにカットしてあげたいと思うようになったんです。でも、そんなことは言えずにいましたが、母は私の気持ちを察していたんでしょうね。『お父さんには内緒で美容師になりなさい』って言ってくれたんです。そして高校入学と同時に、美容学校の通信科にも入学しました。通信課程だったので、高校卒業と同時に美容師の資格も取得しました。そしてすぐに、イギリスに渡ってカットを学びたいと考えました。私は京都外国語大学の付属高校に入学したので、そのまま大学に進学できたんですが、『これからは国際社会の時代だから、ロンドンに渡って語学留学をしたい』と言うと、父が応援してくれたんです。ところが実際は、ヴィダルサスーンのアカデミーに入学しようと考えていました。実は、このウソは父にバレていましたが(笑)。

西田斉さん(Bond HAIR-MAKE UP -待庵-)

美容師として実績がないままロンドンへ渡るが…

ロンドンに渡った当時は、お金もないし語学力もなかったので、最初は入学を拒否されました。しかしそれで、逆に意欲がわきましたね。イギリスではYMCAの語学学校に入学し、大きな刺激を受けました。その後いったん帰国して、再度チャレンジしようと決めました。必ず、母ちゃん孝行をしようと…。でも、美容師の資格や知識を持っているとはいえ、技術力はまったくゼロの状態でしたから今思うと無謀な行動でしたよね(笑)。帰国してからは、母が通っていた地元高槻市のサロンに5年間お世話になりました。当時は、川島文夫さんや茂木正行さんが第一線で活躍されていた時代で、カットだけでこんなに造形的なヘアスタイルができるのかと大きな影響を受けました。このカットテクニックを身につけると、母も不自由しないだろうなと。そのサロンでは、シャンプーからワインディングまで基礎を学びました。有難いことに、先生には『私が師匠では、あなたの夢は叶わないから、100万円貯めて自分でカットを学びなさい』と背中を押していただきました。

イギリス留学時代の西田斉さん(Bond HAIR-MAKE UP -待庵-)

恩師のエールを受けて再度ロンドン留学へ

私が5年間お世話になった先生は、パーマはもちろん、着付、セット、日本髪がすごく上手な方でした。ところが、『カットで有名になりたいのなら、ここにいてはダメ。海外で勉強しなさい。』と言うんです。そして、川島文夫さんのタカラテクニカルセミナーに参加して、カットの勉強をしなさいとすすめられました。さらに、基礎をしっかり身につけて100万円を貯めなさいと。私はお世話になった5年間で、その100万円を貯めました。 そして父の反対を押し切り再びロンドンへ渡り、ヴィダル サスーン・アカデミーのディプロマコースに入学しました。父は最後まで反対していましたが、金額の不足分は実は父が立て替えてくれたんです。その頃は、お金がなかったので通訳を雇わずにひどい英語で会話していましたが、熱意だけで入学できました。サスーンのアカデミーは1ヶ月半で1ステージのカリキュラムがあり、テストを合格して次のステージへ進み、合計で5ステージを修得しなければいけませんでした。当時、1つ上のセカンドステージに、実はDADA CuBiCの植村隆博君がいたんです。

ヴィダル サスーン・アカデミー

闘争心に火をつけてくれたライバルとの出会い

私は日本人がいたことに安心したんですが、彼は授業中に一番前を陣取って、カメラで写真を撮りながらメモを取り、いろんな質問もしていたんです。その真剣な姿にすごく驚き、彼に影響を受けました。私のクラスは裕福そうなフランス人やイタリア人がいて、のんびりムードだったんですが、私はハングリー精神で植村君のように授業を受けました。首席で卒業すると大きなチャンスがありましたから必死でしたね。だから、彼が私の心のライバルでした。彼と競い合うように、朝早く登校しては一番前の席を取り、帰りはモデルハントをして自分のアパートでカットの練習もしました。それくらい、燃えた1年でした。その経験があったからこそ、今の自分があると思います。その1年で、一生分の財産を手に入れた気分でしたから…。ただ、ロンドンでも母の髪をきれいにしてあげたい、そして父を見返したいという気持ちだけはずっと忘れずに頑張りました。

右:西田斉さん(Bond HAIR-MAKE UP -待庵-)

初めてカットした母が涙ながらに喜んでくれた

結果的に私は首席で卒業し、『ベストスチューデント』という賞をいただきました。主席で卒業できる日本人は少なく、すごく気分が良かったのですが、私には経済力がなかったので1年後には帰国せざるを得ませんでした。そして、高槻市のサロンにお世話になりながら実力を試そうとしたんですが、なぜか結果が出ませんでした。その時、母の髪をボブにカットしてあげたんです。そうすると母は泣きながら、『こんなにシャンプーが楽で、手入れしやすいヘアは小学校以来よ』と喜んでくれました。そして、『私以外の大勢の人も、喜ばせてあげて』と言ってくれたんです。それを聞いた時、今まで地位や名声を追いかけていた自分が恥ずかしくなりましたね。そして、地元に恩返しをしようと、高槻市に独立オープンしたんです。それが27歳の時でした。

Bond HAIR-MAKE UP -待庵-

あなたのカットは心がこもっていない!

最初に出店したサロンは、わずか15坪でセット面が3面のサロンでした。実はオープンした当初は、流行らずお客様がまったく来なかったんです。というのも、ほとんどがサスーンカットで、ボブかレイヤーカットをしていましたから(笑)。そんな路頭に迷っていた時に、母が友だちを紹介してくれたんです。ところがその方が、『ヒトシちゃんのカットには心がこもってない。気持ちが入ってないから、お客さんは来ないわ。単なるええカッコしいの美容師や』って言われたんです。カットは上手かもしれないが、また来たいとは思わないと…。多分、抜け殻状態の自分を見透かされたんでしょうね。ある意味、ショックでした。そこで、以前母が言っていた、『みんなを喜ばせてあげて』という言葉を思い出したんです。そこから変わりましたね。仏教に『刹那』という言葉がありますが、その一瞬を頑張ることが大切だと感じてからは、次第に行列ができる美容室になったんです。その時、30才を越えていました。20代までは親のすねをかじっていましたが、ようやくそこで自立できたと今では思っています。

イギリスにて

サスーンカットの応用でゾーンカットを完成

実は、お店が流行らず暇な時期、毎日ウィッグでカットの研究をしていました。それが30冊くらいのファイルになって、後に完成したのが『ゾーンカット』です。西洋のサスーンカットでは、骨格や毛量の違う日本人にはマッチしないと気づき、理論的に日本人の髪をカットできるように研究しました。その結果、お店が流行り出して5年後に店舗を約50坪に拡張。セット面20面でスタッフは20人になり、売上げも1ヶ月に1000万円を越えるようになりました。ようやくサロンが軌道に乗り、母の出身である京都に移転しようと考えました。それは、町屋を生かした京風のサロンです。高槻時代のお客様も4割くらいは来ていただいたんですが、そこでまた落とし穴に落ちてしまいました。実は、今まで技術者として歩んできたのに、京都に来てからは経営者という意識がいつの間にか私を守りの姿勢にしていた。つまり、経営の勉強を始めてから、サロンワークから遠ざかってしまったんですね。その結果、スタッフが徐々に辞めていきました。

カットの研究

スタッフの退職、臨時休業、そしてお客様の支え

5 人目のスタッフが辞める時、彼は『今まで西田さんは一緒に仕事をしてくれていたのに、自分たちから遠ざかってしまった』と言ったんです。たまにサロンに出て来てもすぐに帰るし、毎週月曜日はセミナーの仕事やその準備。ここで働いている意味がないと…。その時点でもまだ僕は、彼らの気持ちに気づいていなかったんですね。そのままの状態を続けているうち、スタイリストが全員辞めてしまったんです。僕自身夢は達成したし、その時40才だったので、もう美容師を辞めるつもりで、しばらく臨時休業にしました。その1ヶ月間は、まったくの無気力状態でしたね。その時考えていたのが、今までの自分には、遊びや余裕がまったくなかったということでした。そうするうちに、お客様から『いつからオープンですか、楽しみにしています』とか、心配してくださる大量の留守番電話が入っていたんです。そのメッセージを聞いた時、これからの僕を支えてくれる人が大勢いることに気づいたんです。人から愛の手を差し伸べられて、これから一緒に頑張って行こうという気持ちにさせられた瞬間でした。

西田斉さん(Bond HAIR-MAKE UP -待庵-)

その『刹那』今を大切に生きることが大切

再開してからは、今までやってきた『他人と競うことや争うこと』、そして『ええカッコすること』を今後は一切捨てようと思いました。美容の世界は争うことじゃないんだ。シンプルに、目の前のお客様を喜ばせてあげること、その積み重ねが大切なんだと再認識しました。それは、母をきれいにしてあげたいという美容師を志した当時の夢、川島文夫さんのタカラテクニカルセミナーで感動してヴィダルサスーンに憧れたことに通じていると思います。そんな気持ちを忘れていたんでしょうね。だから、初心に戻れた今が一番自然体なんです。そして、自分ともう一度向き直すためにブログも始めました。再度、『刹那』を生きるという意味で、今ではエキサイティングな日々を送っています。実は再開する日の朝、一瞬で気持ちが切り替わったんですよ。よし、今日から頑張ろうと。だから今は、まだまだ現役で頑張ろうという気持ちでいっぱいです。美容師というのは、お客様の身体の一部である髪の毛に触れて、お客様を美しくして、しかも感謝される素晴らしい職業だと思います。だからこそ技術が大切。そこで悩んでいる人がいれば応援したいですね。そのためのスクールを、これから作りたいと考えています。

Bond HAIR-MAKE UP -待庵-
西田斉さん(Bond HAIR-MAKE UP -待庵-)

西田斉(ニシダヒトシ)

大阪府出身。大阪整容美容専門学校(現大阪中央理容美容専門学校)卒業。大阪府高槻市の地元の美容室に入店後、1989年に渡英。ロンドンのヴィダルサスーン・ディプロマコースに留学。卒業後も技術の追求、創作活動を続けながら、日本と英国を行き来し、1995年に帰国。同年、大阪府高槻市に『Bond HAIR-MAKE UP』をオープン。2001年に京都市中京区に移転。京都の町屋づくりをそのまま生かした店内は、癒しの空間を提供している。現在、サロンワークを中心にカットのテクニックブックの発行、業界誌での撮影や全国各地でセミナー等の活動を行う。特に日本人の骨格を考慮したカットテクニックは好評を博している。

※2008年6月5日現在

シリーズ:この人から学ぶ、成功の秘訣「TBMG」

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