今井愛さん（pesco pesca）| この人から学ぶ成功の秘訣 TBMG

ペスコペスカをオープンしたのは2003年です。それまで、サンロード美容室とブライダルサロン（京都）に勤め、美容の技術とヘアメイクの勉強をしてから独立しました。実は、京都で出店するつもりはなかったんです。土地柄、商売には難しい環境だと言われていましたから。でも、今まで私が歩んで来た人生において、人に助けていただいたことが多かったんですね。独立した時も、自分の予定より早くてまだ準備不足でしたが、まわりの人から応援していただいたので決断しました。この場所は、河原町界隈で商売をされているオーナーさんたちが、大勢住んでいる住宅地です。そんな方々のご家族の来店だけでなく、商売上でもお付き合いをさせていただけるのではと思い、出店しました。また、繁華街に進出するには、まず地域密着型で成功しなければ難しいと考えていたので、出店場所は住宅地に決めました。やはり何事にも、土台を作ってからチャレンジすることが大切ですからね。

オープンにあたり、物件や店舗デザインは私とぺスコペスカの部長の2人で決めました。いろんな所を探しまわり、決断してから3ヶ月で出店。内装だけでなく、外観にも自分たちのこだわりを具体化できる場所としてここを選びました。1階はモダンで落ち着いた雰囲気のサロンスペース。2階は昔ながらの京町家をそのまま生かしました。5月には、託児所を増設し、保育士や看護師さんも配備しています。サロンのコンセプトは、プライベート性をモチーフにした、居心地のいい『リゾート地感覚』の美容室です。生産性を感じさせるのではなく、お客様に癒しを伝えたかったんです。ただし、癒しを重視している代わりに、デザインはダメなのかと思われないように努力しました。うちのカット料金は4,320円～5,800円と平均的ですが、ここに来たら『カットだけで帰るのはもったいないな』と思わせるサロンづくりを目指しています。そのためには私自身が勉強をし続けて、スタッフのモチベーションを高めることが大切だと思っています。

ヘッドスパは、オープン時から導入しているメニューです。現在、客単価を維持しているのは、実はこのヘッドスパがあるからなんです。当初、タカラベルモントの担当者さんに、「エステシモっていいんですか」と尋ねたところ、「僕は分からないです…」って答えられたんですよ(笑）。普通なら、ウソでも「いいですよ」と答えそうなのに、この人は正直だなと思いまして。でも、分からないって言われたことで調べたくなり、「じゃあ、いいか悪いか研究しよう」って思ったんです。これって、美容師としての性なんでしょうね。あの時、「これは、いいですよ」と言われていたら、逆に捉えていたかもしれません。そこで、大阪のタカラさんのショールームにうかがい、インストラクターさんに教えていただきました。そこでは、ヘッドスパの気持ちよさと、メニュー化できる実感を得ました。そして、勉強しながらこのエステシモをやってみようと決断したんです。それは、ヘッドスパを研究するために、エステシモの力をお借りしようという感じですね。

ヘッドスパに関しては、他社メーカーの商品を使用した経験もあります。それらと比較して感じたのは、エステシモは技術者に依存する部分が大きいということです。他社の製品はある意味でオートマチック化されていて、結果が分かりやすいものが多いです。でもエステシモは、少しくらいのマッサージでは驚くほど気持ちよくはなりませんでした。つまり、もっと効果的に快感を与えるためには、それ以上にテクニックを高める必要があると思ったんです。その奥の深さに、すごく興味を感じましたね。例えば、アシスタントクラスが担当しても、1～2回は注文していただけるでしょう。でも、安定したメニューとして継続していくには、やはり努力と研究を重ねて、熟練した技術を提供しなければ難しいと感じたんです。それは、プロが提案できるメニューの裏付けとも言えますね。

ヘッドスパで中間の料金は6,300円。これは、カットよりも高い料金設定です。今まで私が10年を費やしてきた、カットの技術より高いんですよ（笑）。でも、これは時代性に応じた、消費者ニーズの変化として考えています。それを求める方、リラクセーションや頭皮ケアにこだわっている方が増えているということです。しかも、カットと同等以上の技術を提供しないと、サロン経営も安定しませんよね。それが、カラーやパーマであり、さらにはヘッドスパにつなげていきたいと考えています。これは、カットの土台ができているからできる展開です。私の理想は、カット、パーマ、カラー、ヘッドスパ、店販など、すべての売上げ比率が一定のボーダーラインで安定していること。それが、3年目で達成できたので、4年目からは違う目標を掲げていきます。

スタッフの教育に関しては、毎日の朝礼で『個人情報共有時間』というのを設けています。これは、お客様の好みや趣味などを、スタッフ全員が把握するための情報交換です。それと、ニュースなどで得た個々の知識や情報も交換しています。これは1年半で定着しました。お客様にしてみれば、『毎回来ているのに、これくらいは分かってほしい』と感じている方もいるでしょう。それは、新人スタッフでも覚えなければいけないことです。さらに、若いスタッフほど美容の知識や一般常識を備えておく必要があるので、それを深く養える努力をしています。そのために店内を改装したりして環境を整えながら、スタッフのためにサロンの展開をシステム化していこうと考えています。その手段の1つとして、今日感じたことや反省点などを、スタッフ全員が携帯のメールで毎日交換しています。

オープン当初は、もっとスタッフ教育を上手くやれると思っていたのですが、失敗ばかりでした。実は、オープニング当時のスタッフは誰も残っていないんです。それは、私がこだわってこのお店を出店したので、それを強要した部分があったからです。どうして、このタイミングで接客やサービスができないのかと…。それが、なかなか伝わらなかったですね。私は今まで、厳しい環境で育ってきて、上質のサロンづくりを目指していました。でも、スタッフたちは他店で教わった普通のやり方が身についている。その、温度差を私が感じてあげられなかったのが失敗した原因です。ショックで泣きながら帰宅したこともあります。それは、なぜ私の気持ちを理解してくれないのかという歯痒さと、逆に彼らの気持ちをくんであげなかったことへの反省ですね。本当に、申し訳ないと思いました。

そんな経験を経て、今のスタッフたちとはいい関係を築いています。今ではチーフを中心に、私が言わなくても稼働できるチームワークができつつあります。最初は、みんな知らない者同士で意思の疎通を図るのに苦労しましたが、1年半で定着しました。そして誰もが成長をしてくれているので、それが一番嬉しいですね。経営者という立場になって「サロンを守っていかなければいけない」という意識が強すぎてスタッフとぶつかった時期もありましたが、そんな失敗をチャンスに変え、さらにプラス思考で難局を乗り切りました。

美容師としてこれからは、美容業界に還元できる人間になりたいと思っています。今はまだできていませんが、業界に対して何か新しいものを発信できるようになりたいですね。やはり、美容業界が発展していくために、デザインは必要不可欠ですから。それと、今は男性美容師が注目を集めている時代です。それは結婚や出産など、女性にはいくつかのハードルがあるからでしょう。また、トップクラスの男性美容師はスター性やオーラがあり、女性が憧れの目で見るというのも、男性が生き残れる理由だと思います。仮に、同じレベルの技術を持っているなら、業界はスター性のある人を求めるでしょう。女性美容師でそんな方はわずかです。そうなれば、美容業界の中で美しいとされるデザインのほとんどが男性美容師からの発信になってしまうので、女性の立場としてどこかで覆したい気持ちはあります。そんな女性美容師がたくさん活躍する時代になってほしいですね。私だから出来ること、やっていきます。