ライター 前田正明 | カメラ 更科智子 | 配信日 2006.12.7
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『売れる美容師』になってメディア関係の仕事をしたかった
昔から物を作るのが好きで、小学生の頃は絵画展で賞をいただいて、全校集会で表彰とかされていましたね。子供の頃から、自分の作品を周りの人から評価していただくことが多かったです。物作りに興味があり、それが美容師になろうと思ったきっかけです。本当は、陶芸をやってみたかったんですが、周りのすすめで美容を目指しました。実際に、美容室でカットをしてもらった時に、『これだったら、オレにもできるな』って思ったんです(笑)。で、友だちの髪をカットしたりして、そこから美容師かヘアメイクになろうと思い、美容師を選択しました。美容師になった頃の夢は、雑誌やメディア関係の仕事をすること。『売れる美容師』への憧れがありました。そこで、いくつぐらいになれば、雑誌の仕事をしているんだろうと考えながら目標設定をしていました。自分の中では3年スパンでしたね。
一等地でも勝負できるという自信がついた時、さらに夢をふくらませた
例えば、売れる美容師としては、フリーの来店客ではなくいかにして『ご紹介のお客様』を増やしていくことができるかを第一に考えていました。その中で、技術と信頼度のアップ、そして自分に足りないものをどうやって補っていくのかを模索しながら行動する。そして、この時期くらいにはメディアでのチャンスがあるだろうと考えながら仕事をしていました。また独立に関しては、最初に美容師になった時に、いつかは自分のお店を持ちたいという希望を持っていました。ただ、原宿や青山にこだわらず、他の地域で出店することも可能な訳です。しかし、一等地でも勝負できるんじゃないかという自信がつき始め、夢が少しずつふくらんでいきモチベーションが高まりました。
もっとレベルアップしたい…その『もっと』という気持ちが大切
ある程度のキャリアに達すれば出店は可能ですが、果たしてそれでいいのかという疑問がありました。それは、技術においても同じだと考えています。まずスタイリストになる、そして一定のレベルに達することでもっとレベルアップしたいと思う。その『もっと』という気持ちが大切で、それが自分を成長させる糧だと思います。だから、自分に対してあきらめない、自分の可能性を信じる、それを確実なものにしていくためにどうあるべきかが大切だと思います。でも私自身、技術的に人一倍の努力したことがないんですよね。イメージしたことが自然とできるタイプだったので。だから、美容学校生の頃は、ワインディングでも最後から1~2番目でした(笑)。ただし、なぜそうなるのか意味や目的が分からないままやらされるのが嫌いでしたから、それが分かると他の方法もあるだろうと考えて、のめり込んで追求していましたね。
美容師は自らのハードルを下げないで志を強く持つことが大切
私が独立したのは、美容師になって12年目でした。一般論として、技術ができるから独立だという考え方もありますが、私の中でその段階はやっとスタートラインに立てたという感覚なんですね。だから、そのタイミングで独立するのは危険だと思います。しかし、スタイリストになるまでの期間をもっと長くするという意味ではないですよ。例えば、カットコンテストに出場して入賞した人が、来年も再来年も出場を続ければ、すごくレベルアップする訳ですよ。それが、入賞すれば来年は後輩を出すというのが多いですよね。そうではなく、ハードルを下げずに志を強く持つことが大切で、そこで何をすべきかを見つけることが独立につながると思います。
1ヶ月に30誌もの撮影オファーが自分の自信につながった
独立をする時に引き止められるのは、その人が必要だからですよね。だから、退職する際には、いろんな問題が生まれないように配慮することが大切だと思います。私の場合は、まずスタッフを連れて行かないこと。当時、担当していた雑誌の撮影を1年間はやらない。そして、お客様にも連絡しないなどでした。独立して最初は、自分の可能性を過小評価していましたが、1ヶ月に30誌も撮影のオファーがあったことなどで、少なからずとも自信がわいてきましたね。それ以外にもいろんな要素があり、地方ではなく東京の一等地に出店しようと決意しました。その結果、自分の中での美容観がさらに深まっていきました。独立は自分の中では中間地点と考え、今後のレールを敷いていきました。そこにはいろんなリスクもありましたが、それらを回避していくための対策も考えましたね。
人を育てることの難しさ…逆にスタッフが私を支えてくれた
私はどちらかというと、チームプレーより個人プレーの方が得意なんです。でも、独立してそうも言ってられないので、スタッフを育てることに対しては自分の行動やポリシーを貫くことに責任感を持ち続けました。下の人間を教育するというのは、今まで自分の得意なジャンルではなかったんですね。だから、自分で葛藤する部分がたくさんありました。それでも、スタッフは私を支えてくれて、私も彼らを信頼するという関係が保てました。例えば、雑誌の撮影でモデルハントをする時も、閉店後や休日にするなど、スタッフには大きな負担をかけていて。そんなある日、ある雑誌の撮影前に、スタッフのほとんどが風邪を引いちゃったんです。私は大丈夫だったんですが、スタッフに無理はさせられないからモデルハントもできない。仕方なく、雑誌の担当者にお断りの連絡をしたんです。そしたら、すごく怒られましてね…。
知らないからこそできる…『無知は最大の武器だ』
スタッフのほとんどが風邪を引いている状態で、『モデルハントしろ』と私もそこまで強要できなかったんです。雑誌の担当者には事情を説明して、『申し訳ありませんが、この企画から降ろさせてくれませんか』とお願いしました。すごく怒られたんですが、私は間違っていないと思いました。営業も忙しくすごい大変な状況でつらかったですね。ただ、『あなただけがつらいんじゃないのよ』と言われた時、そうだなと反省もしました。
私はあまり常識が分かってなくて、敬語も上手く使えませんでしたが、それ故にオープン当初は学ぶことがたくさんありましたね。その当時よく使ってたのが『無知は最大の武器だ』という言葉なんです。知らないからこそできる、知らないからこそ聞けることが多い…そう感じていました。
チャンスは与えられるのではなく自分で勝ち取るものだ
スタッフ教育に関しては、まずテクニックは徹底的に指導することが第一条件です。考え方としては、『美容バカになれ!』と言っています。そして、最終的に物事はすべてにつながっていくんだということも教えています。また教訓として、『ゼロに戻せ、なった気になるな』ということをベースに、私の背中を見せながら教えてきました。そんな彼らに対して、チャンスも与えました。君たちはチャンスだらけなんだと。例えば、30人のスタイリストがいて、30個のチャンスがあるとしましょう。結果的に平等に1人ずつではなく、多分3~5人くらいが物にするでしょう。でも、今は3人しかいないから、1人に10個のチャンスがあるんだと。それに気づいて、勝ち取るようにならないといけない。与えられることが当たり前の世界だと勘違いしないでほしいとも言っています。
独立して思ったこと…オーナーは辞めたくても辞められない
いざ独立して思ったんですが、スタッフは辞めたいって言えても、オーナーは辞められないんですよね(笑)。そして、スタッフはつらいって言えても、オーナーは言えない。スタッフはウソをつけても、オーナーはウソをつけないですからね・・。経営者には、予測できなかった部分に対応できる能力が必要だと思います。スタッフみんなでお互いが夢を築き上げて、それを共有しながら進んでいけたらいいですね。
今後の展望ですが、私は多くのサロンを展開することに魅力がなくて、もっとサロンの中身を充実させることに重きを置いていきたいですね。それはスタッフの育成もそうだし、技術的にもより多くのお客様から満足していただけるようになりたいですね。さらには、美容界をより良い業界にするため、みんなで協力し合える状態になればいいと思いますね。
小松利幸(コマツトシユキ)
都内で3店舗を展開。サロンワークの他、ヘアショー、講習会、TV、広告、一般誌、業界誌の撮影、ヘアケア商品の開発などで活動。美容に関わるすべての流行を生み出すメッセンジャーとして幅広く活動する。また、Sカール、円すいクッションなどを生み出し、独自のantiスタイルを提案している。最近は自ら広告を手がけ、写真家としての才能も発揮。anti art worldを広げている。
※2006年12月7日現在
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