TBCA2024

シリーズ:TREND SPACE DESIGN

TBCA2026 vol.1 クライアントの個性を捉えたサロン空間デザインが入賞の決め手に

2026年7月、第36回「Takara Business Creation Awards(TBCA)」の最終審査会がTB-SQUARE tokyoで開催されました。「お客さまのビジネスに貢献できるサロン空間デザインか」という「ビジネスクリエーション」を重視した白熱した審査が行われ、入賞作品が決定しました。vol.1では、今年のサロン空間デザインの傾向、受賞作品のデザインコンセプトや工夫したポイントなどを紹介します。

Takara Business Creation Awards(TBCA)とは?

1991年にスタートしたタカラベルモント主催のグループ内デザインコンペティション。

設計力・デザイン力・提案力の向上を目指し、その1年間に全国のタカラスペースデザイン所属約100名 のデザイナーが設計した理容・美容サロンとクリニックから、特に優れたデザインを選出します。2026年は、147作品がエントリーされ、各デザイナーの創意工夫が光る作品が集まりました。

予選審査、事前審査を経て、最終審査会では外部審査員を招き、デザイナー自ら作品のプレゼンテーションを行い、サロン部門では金賞1作品、銀賞4作品を決定。TBCAの優秀作品は、これまでにも日本空間デザイン賞などで数多くの賞を獲得しています。

外部審査委員

長岡 勉さん

長岡 勉(POINT)(ながおか・べん)

慶應義塾大学SFC政策メディア研究科修了。山下設計で活動後、空間系デザイン事務所POINTを設立。東京造形大学准教授。家具以上建築未満のヒューマンスケールの空間作りを得意としている。

小嶋 伸也さん

小嶋 伸也(小大建築設計事務所)(こじま・しんや)

東京理科大学理工学部建築学科卒業。隈研吾建築都市設計事務所を経て、小大建築設計事務所を設立。小さなローカルなものからでも、集う場所を作り持続的で大きく確かな経済性を生み出すような設計を心がける。

田中 亮平さん

田中 亮平(G ARCHITECTS STUDIO)(たなか・りょうへい)

名古屋市立大学芸術工学部卒業後、東京都立大学大学院修士課程修了。隈研吾建築都市設計事務所を経て、G ARCHITECTS STUDIO設立。建築設計をはじめインテリアデザインなども手がけ、規模やジャンルの垣根のない取組みを行っている。

2026年10月現在

ファシリテーター

塩田健一

塩田健一(しおた・けんいち)

レストラン、ホテル、ファッションストアなど最新の空間デザインを豊富な写真で国内外に向けて発信する月刊『商店建築』編集長。東京都生まれ。工学院大学大学院修了後、2006年より『商店建築』編集部に所属。2017年2月より現職。

※2026年10月現在

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最終審査会レポート

審査会

ノミネート作品を象徴するキーワードは?

ファシリテーターの塩田氏によると、今回ノミネートされた9作品には特徴的なキーワードが3つあると言います。

01 記号性と心地よさ

「昨年に続き、心地よさが感じられる重厚感のある作品が多く見受けられました」という塩田氏。一般的に、重厚感の演出には自然素材の石や木材などが望ましいとされていますが、「広さが限られたサロン空間では重くなりすぎてリラックス感が出せないこともある」というデザイナーの意見にハッとさせられたそうです。

塩田氏

塩田氏

長く残る建築では、隣り合う柱の配置や素材の組み合わせなどが記号性(意味を生み出す性質)を帯びるため、そこに何らかの意図や説明が必要になってきます。今回の外部審査員3人の方々は建築家ということもあり、その点について「なぜその素材を選んだのか」といった点について多くの質問が出ました。サロン空間デザインにおいても、そこに繊細な配慮が必要であることは間違いありません。

一方で、サロン空間デザインは建築的な合理性だけでなく、身体的な心地よさも重要だと塩田氏は言います。

塩田氏

塩田氏

今回のノミネート作品には、石を使用したサロンであっても、部分的に石のように見せるペイントを施すなど、意図的に軽やかさや抜け感を加えることで、重厚感をコントロールした作品が多く見られました。

MACHIDA/デザイナー:湯口 巌

MACHIDA/デザイナー:湯口 巌

muii/デザイナー:湯口 巌

muii/デザイナー:湯口 巌

02 色や光による演出

塩田氏

塩田氏

色と光が印象的な作品が多かったのも、今年の特徴です。色の力で空間をブランディングしたり、透け感のあるFRP(繊維強化プラスチック)を効果的に使って無骨な空間の中に非日常感のある光の演出をしたりと、創意工夫に富んだ作品が並びました。自然光を活かす巧みな設計の作品も目立ちましたね。

OAK STAND/デザイナー:小林 昌平

OAK STAND/デザイナー:小林 昌平

TAI hair & spa/デザイナー:林 優佑

TAI hair & spa/デザイナー:林 優佑

03 街との距離感

塩田氏

塩田氏

ヘアサロンと街の連続性をどう持たせるか、もしくはどう境界をつくるかは、毎年のように審査対象になる重要なテーマです。大きなガラス扉で店内を街へ開いている作品もあれば、オープンなガラスのファサードに対して、オーニング(日よけテント)などで街とのゆるやかな境界線を設けた「閉じているのに開いている」作品が印象的でした。

un chalett/デザイナー:林 優佑

un chalett/デザイナー:林 優佑

knott/デザイナー:城間 俊一・篠崎 海

knott/デザイナー:城間 俊一・篠崎 海

TBCA2026、受賞作品が決定

デザイナーのプレゼンが終わった途端、塩田編集長や3名の外部審査員から次々に質問が飛び出した今年の審査会。ディスカッションも熱を帯び、デザイナーも含めて外部審査員とさまざまな意見が交わされた後、入賞作品が決定しました。

審査会
審査会
審査会

入賞作品名とデザイナー

作品名

デザイナー

salon L(サロン エル)

藤井 智大

Ii(イー)

小林 昌平

MACHIDA(マチダ)

湯口 巌

muii(ムイ)

湯口 巌

TAI hair & spa

(タイ ヘアアンドスパ)

林 優佑

プロはどう見た? 外部審査員の視点

今年の審査員の方々は、いずれも建築家。建築のプロは、サロン空間デザインをどんな視点で審査し、どんな感想を抱いたのでしょうか。

また足を運びたくなる空間か/長岡 勉氏

長岡 勉氏

ビジネスクリエーションという視点を軸に、サロンに来店されるお客様がまた足を運びたくなる空間かという点を重視しました。一方で、作品の評価にはそれ以外にもさまざまな視点があります。受賞された方もそうでない方も、いろいろディスカッションを重ねた中で気づきがあったり、悔しさから今後の奮起を促されたりといったことに今回のコンペの意味があるのではないでしょうか。私自身は建築が専門なので、内装の設計者がプロジェクトの中で大切にしていることが、審査を通して価値あるものとして浮かびあがってくる過程が興味深かったですね。

細部まで丁寧に仕上げられているか/小嶋 伸也氏

小嶋 伸也氏

建築家として普段は土地の背景のストーリーから設計していくことが多いので、今回は自分とは違ったアプローチで「空間の心地よさ」を、小さい要素の積み重ねで表現していた作品に惹かれました。コンセプトやデザインの素晴らしさはもちろんですが、細部までこだわって丁寧に仕上げられた作品に票が集まった印象です。作家性を確立している方、施主と深い対話を重ねて想像を超えてくるアイデアを生み出している方など、さまざまな個性を持つデザイナーさんが多く、私自身も気づきや発見があり、とても有意義な時間になりました。

心地よさや特別感をどう表現しているか/田中 亮平氏

田中 亮平氏

心地よさや特別感、非日常感を演出するためのアプローチに独自性のあった作品に金賞・銀賞票を投じました。日頃から、価値のあるデザインをビジネスとして成立させることはとても難易度の高いことだと感じています。今回のコンペで、その難しさを乗り越えて多くの人に評価してもらう場面を見て、諦めずにやっていれば必ず人に伝わるのだと元気をもらうことができました。デザイナーが互いの作品に言及しあう場面もあり、切磋琢磨しながら高め合う姿も印象的でした。

入賞作品紹介

施主の個性を受け止めるミニマムな空間「Ii」

Ii

デザイナー:小林 昌平

所在:東京都渋谷区

面積:74.50㎡(22.54坪)

竣工:2025年3月

立地:住宅エリア

種別:内装(新装)

業種:美容

デザイナープロフィール

小林 昌平

小林 昌平

1987 年東京生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒。2010 年タカラスペースデザイン株式会社へ入社。サロンでの“特別な体験”を演出するデザインで多くのお客様から支持されている。JCDデザインアワード 他、受賞歴多数。

2026年10月現在

既存テナントの素地や壁を活かす

クライアントは、SNSで多くのフォロワーから支持を集める著名な美容師。独立開業にあたり、「自身が生み出すヘアスタイルにプラスワンのデザインを楽しんでもらいたい」という願いがあったと言います。

小林さん
小林さん

小林さん

個性的なヘアデザインを受け止める器として、アトリエのようなミニマルな空間を目指しました。既存テナントの「むき出しの素地」といった構造的な特徴を活かしながら、新しい壁は極力立てず、デザインのイメージに合わないところには手を加えるなど、空間を「作り込む」というよりは、丁寧に「トリートメントする」意識で進めていきました。

アートピースを思わせる什器

什器に関しては、クライアントから「受付カウンターやスタイリングミラーなどの機能系の家具も、機能を盛り込みながらひと癖あるデザインにしてほしい」というリクエストがあったそうです。

小林さん

小林さん

ひと癖あるデザインというリクエストに対して、カラーコーンを型枠として用いたモルタル製の脚を共通のデザインとして、オリジナルの家具を3つ製作し、3点のシリーズ物のような雰囲気でまとめました。

サロン
サロン
サロン
小林さん

小林さん

受付カウンターは、脚の配置をずらして動きや緊張感を表現しています。スタイリングミラーは、ドリンクテーブルも備えつつ、スタイリッシュな店内の雰囲気に合わせて造形のバランスをとりました。一方で、空間に機能が散乱しないよう、ドライヤーホルダーや仕上げ剤を置くスペースもミラー裏に隠れるよう配慮しています。

クライアントとの対話力を高く評価

ディスカッションでは、小林さんの「クライアントとの対話から生まれるデザイン」や「物語を言語化する力」に審査員の注目が集まりました。

塩田氏

塩田氏

置いてあるものすべてがアートインスタレーションのようで、成立させるのに難易度が高い空間だと感じます。審査員の皆さんはいかがですか?

田中氏

田中氏

「こういうデザインをしてほしい」というオーダーで出てくるものではない空間デザインが素晴らしいですね。著名な美容師であるクライアントの個性にどういうボールを投げるのか。ジャズのセッションのような探り合いから始まり、信頼を得て、それが形になっていく過程が感じられた作品でした。

長岡氏

長岡氏

クライアントも小林さんとのコミュニケーションを楽しんでいることが感じられる作品ですね。特にクライアントから好評だった什器などはありますか?

小林さん

小林さん

ディスプレイ什器では、ポリスチレンの鏡面の板をヒートガンであぶって光の反射で水を表現したものが、製作経過も含めて喜んでいただけたと感じています。私自身が現場で作業したのですが、クライアントにはその作業の様子を間近でご覧いただく機会があり、制作風景や完成作品をご自身のブログでも紹介していただきました。

作品
小嶋氏

小嶋氏

癖がある什器をどういう感覚でつくり上げていったのかに興味があったのですが、小林さんは言語化が秀逸。什器それぞれに個性を出さなくてはと考えるのではなく、カラーコーンという軸を設定して、そこからずらしていくというバランス感覚や選択のしかたにうならされました。

クライアントとの深い対話や信頼関係から、什器の製作過程も含めてサロン空間を楽しめるデザインが生み出されていて、まさにビジネスクリエーションを体現している作品だと思いました。

対話

新設された「TB-PLUS TABEちゃん賞」

今回から新設された「TB-PLUS TABEちゃん賞」。TB-PLUSをご覧いただいている皆さまに、「こんなサロンにしたいな」「このデザイン素敵だな」と感じたサロンデザインへ投票していただきました。

最も多くの票を集めた作品に、皆さまの想いを代表してTABEちゃんから「TB-PLUS TABEちゃん賞」を授与しました。

「クラッチヘアデザイン」が受賞!

クラッチヘアデザイン
クラッチヘアデザイン

受賞したのは「クラッチヘアデザイン」(デザイナー:高橋 修)。「個室、ペア席、カウンターと、場所ごとにさまざまな雰囲気が楽しめる(美容サロンオーナー)」、「非日常の空間が味わえる(理容サロンオーナー)」、「外観もスタイリッシュ(美容サロンオーナー)」と、多くの支持を集めました。また、「店内が明るく仕事がしやすそう(美容サロンオーナー)」、「バーバーショップとしての観点から、全年齢の顧客対応のシャンプー設備として外せないフロントシャンプー設備一脚を備えている点がよかった(美容サロンオーナー)」と、働きやすさや機能面を評価した意見も多くありました。

TABEちゃん:たくさんの投票と、TABEちゃんへの応援メッセージ、ありがとう!!高橋さんに表彰状を渡したよ。

TABEちゃん:たくさんの投票と、TABEちゃんへの応援メッセージ、ありがとう!!高橋さんに表彰状を渡したよ。

以上、TBCA2026の最終審査会と入賞作品「li」のレポートでした。

次回vol.2では、入賞した3作品をご紹介します。ぜひご期待ください。

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