35回目を迎えた「Takara Business Creation Awards(TBCA)」。vol.2では銀賞を受賞した4作品のうち、2作品「Nirsam hair spa mind(ニルサム ヘアースパマインド)」と「toiro(トイロ)」を紹介します。この2作品はプライベートサロンでありながら、街に開かれているという点が特徴。どのような考えを持ってオープンなサロンデザインにしたのか、それぞれの作品のコンセプトや表現手法を深掘りします。
TBCA 2025最終審査会レポートと金賞作品紹介はこちら
Takara Business Creation Awards(TBCA)とは?
1991年にスタートしたタカラベルモント主催のグループ内デザインコンペティション。
設計力・デザイン力・提案力の向上を目指し、その1年間に全国のタカラスペースデザイン所属約100名 のデザイナーが設計した理容・美容サロンとクリニックから、特に優れたデザインを選出します。2025年は、エントリー数が140にのぼり、各デザイナーの創意工夫が光る作品が集まりました。
予選審査、事前審査を経て、最終審査会では外部審査員を招き、デザイナー自ら作品のプレゼンテーションを行い、サロン部門では金賞1作品、銀賞4作品を決定。TBCAの優秀作品は、これまでにも日本空間デザイン賞などで数多くの賞を獲得しています。
この記事は参考になる!
この記事をあとで読む!
あなたの興味のある「#タグ」や「カテゴリ」「シリーズ」などを「気になる!」登録すると、関連するコンテンツがMy:TB-PLUSに自動で表示されるようになり、最新のコンテンツを見落とす心配や、コンテンツを探す必要がなくなりとっても便利です。
銀賞作品紹介
オーナーの感性を反映したアートギャラリーのようなサロン「Nirsam hair spa mind」
デザイナー:中村 まい
所在:神奈川県港北区
面積:50.0㎡(15.12坪)
竣工:2025年2月
立地:商業エリア
種別:内装(新装)
業種:美容
デザイナー:中村 まい
1990年東京生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科インテリアデザインコース卒業。2014年タカラスペースデザイン株式会社入社。小規模の新規独立開業から大型チェーン店まで理美容室のデザインを幅広く手がける。女性らしい素材や色使いを得意とし、エンドユーザーまでもが笑顔になれる愛される空間作りを心がけ、業界誌にも多数掲載されている。
2025年12月現在
樹齢60年を超える丸太から始まった空間デザイン
駅近で人通りの多い立地にある「Nirsam hair spa mind」は、通りに面した大きなガラスのファサードが目を惹くサロンです。設計するにあたって、五感に響く素材やアートとの出会いを大切に、選び抜いたアイテムで空間を構成したという中村さん。
「Nirsam hair spa mind」の設計プロセスは、これまでとは異なり“モノ”を起点に始まりました。そのモノというのが樹齢60~80年の赤松の丸太です。オーナーさまは、たまたまインテリア雑誌で見た丸太のカウンターに強く心を奪われたとおっしゃっていました。インパクトがあり、自然の造形美にも魅力を感じられたんだと思います。丸太に対して強い想いをお持ちだったので、オーナーさまの感性を刺激したこのアイテムを軸に空間づくりを進めていくことになりました。滋賀から取り寄せたこだわりの丸太は、受付カウンターとして使用することに。さらに、丸太の断面の形状をセット面ミラーにも採用しました。
サロン空間を満たす香りやお客さまが触れるタオルなど、1つひとつがオーナーさまの五感に響いたこだわりのアイテムです。そして丸太と並んでもう1つ、空間を印象的に演出するアイテムがアートです。設計の打ち合わせで参考にしていた空間にあったアート作品に、オーナーさまは一目惚れされました。そこで自ら富山まで足を運び1枚の絵を購入されたのです。その絵は、空間の印象を決定づけるように動線の中心に配置しました。
丸太やアートなど、それぞれが個性的なアイテムなので空間づくりが難しそうですが、中村さんはどのようにして統一感を図ったのでしょう。
アイテムの構成はできるだけミニマルに。光の当て方や陰影を意識して選び抜かれた1点1点が引き立つように空間を演出しました。また、美容椅子やオブジェは美術館のように余白を持たせて配置。道ゆく人が目を留め、入ってみたいと思ってもらえるように丁寧に構成しています。この場に身を置くこと自体が、豊かな体験になる。そんな空間にしたいと考えました。
内を魅せるだけでなく、内を見せにくくする工夫も
通りに面したガラスのファサードから空間を魅せる反面、施術を受けるお客さまのプライベート性は気になるところ。外部審査員の石丸耕平氏からは「外からはキレイに見えるけど、カットされているお客さまはミラー越しの視線などが気になるのでは?」との意見も。
カーテンを収納しているので、お客さまのご要望に合わせてセット面の空間と通りを隔てることができます。カーテンが1つの解決策ではあるのですが、営業をしていくなかで今後、アート作品やオブジェが増えていくことも考えられます。そのために、カーテンとファサードの間にある程度の隙間を設けました。オーナーさまの感性に響いたアイテムをその隙間に配置していただくことで、今よりも目隠し感が出ていくと考えています。
これまでのプライベートサロンの常識と異なり、鮮明なまでに内を魅せる「Nirsam hair spa mind」。ただそこに存在するだけでなく、街の景観の一部になっていく。そんな未来も予感させるプライベートサロンです。
内と外を緩やかに分け、プライベート感と抜け感を両立したサロン「toiro」
デザイナー:林 優佑
所在:兵庫県加古川市
面積:53.9㎡(16.3坪)
竣工:2024年9月
立地:住宅街
種別:内装(新装)
業種:美容
デザイナー 林 優佑(はやし・ゆうすけ)
1994年奈良県生まれ。大阪市立大学工学部都市学科卒。京都府立大学大学院生命環境科学研究科環境科学専攻修了。2019年タカラスペースデザイン株式会社入社。世界観やストーリーを重視した設計で、シンプルかつ独創的なサロン空間デザインを手がける。近年、建築業界誌などにも多く取り上げられている期待の若手デザイナー。
※2025年12月現在
神社や屋台のあり方が、空間デザインの起点に
兵庫県加古川市の郊外に位置するプライベートサロン「toiro」。このサロン設計では「間口が広いテナントだったため、プライベート感と視線の抜け感を両立することが求められた」と林さん。相反する条件のように感じますが、どのように両立させたのでしょうか。
設計するにあたって、まずは空間を区分するものと外部の関係性についての考察から始めました。たとえば神社ですと、参拝空間と境内を階段などで区分しています。階段という装置そのものもそうですし、外と内の高低差も空間区分に作用していると考えました。他にも屋台だと、暖簾やビニールカーテンなどで外と客席を緩やかに区分しています。
この考察をもとに、「toiro」の設計では壁など明確な仕切りを設けるのではなく、階段や床の高低差で外と内を緩く区分。また、屋台におけるビニールカーテンのエッセンスを用いて、プライベート感と抜け感を両立しようと考えたのです。
実際にセット面は床を3段上げることで外との物理的な距離感を与えながら、まるでそこが「舞台」のように感じられるような演出をしました。さらに、階段の途中に金属メッシュの幕を吊り下げることで、外との隔たりを強調。程よい透過感をもたらすこともできています。
その時々の光の強さや、訪れる時間帯によって幕がさまざまな表情を見せ、空間の印象が変わるのも意図したところです。
この演出については「抜け感がありながらも、気持ちよく外からの視線を防ぐことができそうですね」とファシリテーターの塩田さん。
プライベートサロンだからこその期待感や特別感も
階段は空間を区分するための装置として考えましたが、お客さまがセット面へ向かう期待感や特別感も演出できると考えています。さらに、平面構成をシンメトリーにして、セット面=舞台としての象徴性を際立たせました。お会計やカウンセリング、店販を行うカウンターも空間の中央に配置することで、よりシンメトリー性を強調しています。
スケルトンな空間に対して“舞台をつくる”“幕を下ろす”といった最小限の操作でありながらも、外と内の関係性について1つのあり方を提示できたサロン空間デザインだと感じています。
金賞に続き銀賞も受賞した林さん。どちらもプライベートサロンではあるもののコンセプトやアプローチ、表現手法が異なり、同じ人がデザインしたとは思えません。そこに林さんのデザインに対する探求心や意欲を感じる受賞でした。
金賞を受賞したRapss hair design(ラプスヘアーデザイン)の記事はこちら
以上、TBCA2025で銀賞を受賞した街に開かれたプライベートサロン「Nirsam hair spa mind」と「toiro」の紹介でした。次回は、もともとの躯体の活かし方や素材感が印象的だった残りの銀賞2作品を紹介します。ぜひご期待ください。
『シリーズ:TREND SPACE DESIGN』他の記事
-
ウェルビーイングを考えるvol.2 安心とつながりを生むサロン空間とは?
この記事は
参考になる!
この記事を
あとで読む!
-
TBCA2025 vol.1 金賞は素材感と重厚さに心落ち着く 和のサロン空間デザインに
この記事は
参考になる!
この記事を
あとで読む!
-
ウェルビーイングを考えるvol.1 人を幸せにするサロン空間デザインって?
この記事は
参考になる!
この記事を
あとで読む!
TB-PLUSは、タカラベルモント株式会社が運営している<サロンとあなたの“明日”に役立つ情報サイト>。
クリエイティビティを刺激するトレンド情報からサロン経営のヒントまで、成長と意欲につながるトピックやノウハウをお届けし、あなたのサロン人生を応援していきます。
\友だち追加 お願いします♪/
LINE公式アカウント タカラベルモント for salonで、最新情報を発信中!
この記事は参考に
なりましたか?
この記事は参考になる!
この記事をあとで読む!
あなたの興味のある「#タグ」や「カテゴリ」「シリーズ」などを「気になる!」登録すると、関連するコンテンツがMy:TB-PLUSに自動で表示されるようになり、最新のコンテンツを見落とす心配や、コンテンツを探す必要がなくなりとっても便利です。