TBCA2025 vol.3ではvol.2に続き、銀賞を受賞した4作品のうちの2作品「neiro(ネイロ)」と「Giardino(ジャルディーノ)」を紹介します。この2作品はコンセプトが異なるものの、どちらも既存の躯体を活かしている点が特徴です。それぞれの作品が、既存の躯体をどのように活かしながらサロンへと変貌させたのか紐解いていきます。
TBCA2025 vol.1 最終審査会レポートと金賞作品の紹介はこちら
TBCA2025 vol.2 銀賞2作品の紹介はこちら
Takara Business Creation Awards(TBCA)とは?
1991年にスタートしたタカラベルモント主催のグループ内デザインコンペティション。
設計力・デザイン力・提案力の向上を目指し、その1年間に全国のタカラスペースデザイン所属約100名 のデザイナーが設計した理容・美容サロンとクリニックから、特に優れたデザインを選出します。2025年は、エントリー数が140にのぼり、各デザイナーの創意工夫が光る作品が集まりました。
予選審査、事前審査を経て、最終審査会では外部審査員を招き、デザイナー自ら作品のプレゼンテーションを行い、サロン部門では金賞1作品、銀賞4作品を決定。TBCAの優秀作品は、これまでにも日本空間デザイン賞などで数多くの賞を獲得しています。
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銀賞作品紹介
新聞販売所をプライベートサロンに再生させた「neiro」
デザイナー:林 優佑
所在:大阪府枚方市
面積:30.80㎡(9.32坪)
竣工:2024年6月
立地:住宅エリア
種別:内装(新装)
業種:美容
2026年1月現在
古民家ならではの良さを「形」として残す
住宅地に溶け込むプライベートサロン「neiro」。実はこのサロン、元は新聞販売所で長らく空き家だったそうです。年季の入った古民家を改装するにあたり、林さんが追求したのは「新旧」の比重。林さんはどのようにしてこの「新旧」をコントロールし、サロンとして再生させたのでしょうか。
まず考えたのは、木造長屋の構造を見せつつ、空間をどのレベルで更新するか。しかしながら躯体の状態が悪く、時を重ねた素材をそのまま見せられる部分は多くありませんでした。そこで、既存の躯体から「形」の情報のみを取り出すことにしたのです。
具体的には既存の柱、梁、天井そして土壁の一部を見せて艶ありの塗装を施しました。傷んでいるテクスチャの情報を抑え、艶による鈍い反射で木軸の凸凹感や割れを浮かび上がらせ、素材感や空間の経年劣化を表現しています。
既存・新規部分で塗装を変えて新旧のバランスを調整
一方、新規の柱とモルタル壁は凹凸の少ない新しい部材なので、同色の艶消し塗装を施して既存部分との印象バランスを調整しています。もともとあった階段に関しては周りの壁を撤去しましたが、そのまま残して少しだけ艶あり塗装を。あえて塗装による艶の有無を演出し、「新旧」をつなぐ役割を担わせています。
改装前
改装後
なお、以下写真の赤の部分が艶塗装を施した既存の部分。青の部分が艶消し塗装を施した新規の部分です。全体的に既存と新規のバランスを追求して、どちらか一方に比重が偏らないようにニュートラルな空間を目指しました。
ファシリテーターの塩田さんは「新旧の部分が艶の有無で分かれていながらも、一体感がある」と評価。外部審査員の柳原照弘氏は「新聞販売所として長い歴史を刻んできた場所に新しい機能が加わり、街との新しいつながりが生まれている。その変化は非常に興味深いですね」とおっしゃっていました。
加えて、「古民家のような空間には、どのような機器や椅子を置くか迷うところだと思いますが、この椅子を置いた理由は?」と塩田さん。
塩田さん
オーナーさまから、基本的にワンストップで施術したいとのご要望があったので「MINIMAL SALON UNIT ONE(以下、ONE)」を選定しました。ONEはチェア内部にシャンプーボウルが格納されているため、来店から退店までこの席から移動せず、この場所で過ごしていただけます。またオーナーさまは親近感があってコミカルな方なので、閉じたサロンにするより街に対してオープンにした方がいいと思い施術スペースを入り口付近に設けました。
時代の流れにより時が止まってしまった新聞販売所。その場所が、当時の記憶を残しながらサロンとして新しい時を刻み始める。空間デザインという枠組みを超えて、街のあり方をも考えさせられる作品でした。
自宅にサロンを併設して生活と仕事の両立を叶えた「Giardino」
デザイナー:湯口 巌
所在:埼玉県さいたま市南区
面積:13.80㎡(4.17坪)
竣工:2024年11月
立地:住宅エリア
種別:内装(新装)
業種:美容
2026年1月現在
働き方の相談が空間デザインの出発点
閑静な新興住宅地にあるプライベートサロン「Giardino」。自宅に併設されているこのサロンは小さなお子さんがいるオーナーさま(30代女性)が、家族の生活と仕事のどちらも充実させたいという相談から始まった計画だったそうです。
オーナーさまは住む場所と働く場所を近くして、時間を有意義に使える働き方がしたいとの希望を持っていました。その想いを叶えるべく、自宅にサロンを併設することに。ただ、保健所の規定により美容所最低面積として12㎡以上が必要でした。そこで4.5畳の客間に加えて、可能な範囲でリビングの一部をサロンとして使用。それでも足りなかったため、庭に増築することになりました。
増築部分は引戸をすべて開け放つことができ、庭先に腰掛けられる仕様に。花火やバーベキューなどもでき、増築以前と同じように家族がともに時間を過ごせる空間になっています。また、オーナーさまはガーデニングが趣味で、独特な花の形や葉の色、ワイルドな雰囲気が特徴的なオージープランツを育てていました。そこで増築を機に、同種の植物を追加。趣味を通してお客さまとのコミュニケーションがさらに深まることも期待し、一面を埋め尽くしました。
庭の増築に関して「すごいインパクトがある。縁側のようで家族が楽しめるのはいいですね。来店されたお客さまには、どのような気持ちや印象を与えるのが狙いですか?」とファシリテーターの塩田さん。
本サロンは住宅地の高台に建っているため、スタイリングチェアに座ると庭の先に空が広く見えます。住宅地の静けさも相まって、街中のサロンではなかなか味わえない居心地を提供できます。また、サロンにアクセスする住宅脇にスロープを設置し、ベビーカーを引くママやお年寄りの方など、誰でも気軽に立ち寄れるよう環境を整えました。
ここだけ時が経ったような感覚になる素材を選定
増築部分の素材に関しては、サステナブルの観点から建物解体で出た廃材を引き取り再利用しました。住宅地と言っても新興住宅地ですので、周りには新しい建物が並んでいます。その中で、このサロンだけ昔からあるような印象を演出するため古材を選定しました。野生味あるオージープランツとも相性が良く、古材の素材感や表情によってサロンに落ち着きや特別感を付加できたと思います。
店内は庭や空の色彩を引き立てるため、グレーでまとめました。壁天井にも床と同材の石目柄を用いて、耐久性・耐水性の確保を。一方で、素材の持つ質感や色のばらつき、重量感が落ち着きや特別感を与えています。
外部審査員の柳原照弘氏は「空間の間の取り方が秀逸で、お客さまに“こんなところに、こんな空間があったのか”という印象を与えることができる」と評価。石丸耕平氏は「小さくコンパクトな空間で、中から外を見た時にすごく広がりを感じられていいですね。オーナーの人柄が空間デザインに出ていると感じました。素材の選び方も素敵です」とおっしゃっていました。
自宅にサロンを併設したことで、予約の空き時間やすきま時間などに趣味のガーデニングをこれまで以上に楽しむことができ、家族の時間も増えたようです。働き方の多様性が進むなか、「Giardino」は空間デザインによって1つの働き方をサポートした好例と言えるのではないでしょうか。
銀賞を受賞した他2作品「Nirsam hair spa mind(ニルサム ヘアースパマインド)」と「toiro(トイロ)」の紹介はこちら
以上、TBCA2025で銀賞を受賞した「neiro(ネイロ)」と「Giardino(ジャルディーノ)」の紹介でした。全3回にわたって紹介してきたTBCA2025はいかがでしたでしょうか。さまざまなコンセプトや手法による独創の空間デザインが発表されるTBCAに今後もご期待ください!
MINIMAL SALON UNIT ONE
「neiro」に導入されているスタイリングチェアとシャンプー台が一体となったオールインワンチェアは、優れた省スペース性などから狭小サロンをはじめ多くのサロンに導入されています。
製品の詳細はこちら
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