2025年7月、第35回「Takara Business Creation Awards(TBCA)」の最終審査会がTB-SQUARE osakaで開催され、金賞1作品、銀賞4作品が決定しました。vol.1では、今年のサロン空間デザインの傾向や、金賞受賞作品のコンセプト、設計の工夫ポイントなどを紹介します。
Takara Business Creation Awards(TBCA)とは?
1991年にスタートしたタカラベルモント主催のグループ内デザインコンペティション。
設計力・デザイン力・提案力の向上を目指し、その1年間に全国のタカラスペースデザイン所属約100名 のデザイナーが設計した理容・美容サロンとクリニックから、特に優れたデザインを選出します。2025年は、エントリー数が140にのぼり、各デザイナーの創意工夫が光る作品が集まりました。
予選審査、事前審査を経て、最終審査会では外部審査員を招き、デザイナー自ら作品のプレゼンテーションを行い、サロン部門では金賞1作品、銀賞4作品を決定。TBCAの優秀作品は、これまでにも日本空間デザイン賞などで数多くの賞を獲得しています。
外部審査員

柳原 照弘(TERUHIRO YANAGIHARA STUDIO)(やなぎはら・てるひろ)
大阪芸術大学デザイン学科卒業後、2002年に自身のスタジオを設立。デザインする状況をデザインするという考えのもと、プロダクトから空間まで、国やジャンルの境界線を超えたプロジェクトを手がけている。

畑 友洋(畑友洋建築設計事務所)(はた・ともひろ)
京都大学工学研究科修士課程修了後、2005年に畑友洋建築設計事務所を設立。住宅や各種建築の設計から、オフィス・店舗などのインテリアデザイン、まちづくり、家具などのプロダクトデザインを手がけている。

石丸 耕平(ブラーリー)(いしまる・こうへい)
2020年に株式会社ブラーリーを設立し、兵庫県を拠点に活動。飲食や物販、ウエディング、大型商業施設、住宅など幅広いジャンルのデザインを手がける。2022年に兵庫県三木市に二カ所目となる拠点「2nd」をオープン。
2025年9月現在
ファシリテーター

塩田健一(しおた・けんいち)
レストラン、ホテル、ファッションストアなど最新の空間デザインを豊富な写真で国内外に向けて発信する月刊『商店建築』編集長。東京都生まれ。工学院大学大学院修了後、2006年より『商店建築』編集部に所属。2017年2月より現職に就任。
※2025年9月現在
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最終審査会レポート
ノミネート作品を象徴するキーワードは?
最終審査会にノミネートされたのは9作品。ファシリテーターの塩田さんは作品を俯瞰して気になったキーワードが3つあると言います。

キーワードの1つ目は『素材感』です。サロンを設計する際にはメンテナンス性や耐久性を重視した素材が選ばれがちですが、木材やレンガなどの自然素材を使用して素材感を活かしている作品が多く見受けられました。これは居心地の良さや五感に訴えかける感覚的な体験が求められており、デザイナーの方々が顧客の要望に応えている証だと感じました。

Giardino / デザイナー:湯口巌

代々木上原美容室 / デザイナー:湯口巌
次に『重厚感』。今年は軽やかな空間よりも、重厚感のある空間が多かったと思います。クライアントのニーズがサロンでの安心感やリラックスにシフトしていることを受け、重厚感があり落ち着きのあるデザインが増えたように感じましたね。

NUMBER NINE / デザイナー:田中大地・江口一征

Rapss hair design / デザイナー:林優佑
最後に『街との距離感』です。今年に始まったことではないですが、ヘアサロンを街にどう馴染ませるか、もしくはどう境界をつくるか。サロンの中を見せるデザインもあれば、完全に閉じるデザインもあり、街との距離感や連続性のつくり方は皆さん意識されていると感じました。『素材感』や『重厚感』、『街との距離感』は、来年も引き続き注視していきたいと思います。

Nirsam hair spa mind / デザイナー:中村まい

RECO / デザイナー:林優佑
TBCA2025、金賞1作品と銀賞4作品が決定
塩田編集長と3名の審査員が金賞・銀賞に相応しい作品に投票した後、ディスカッションを行い受賞作品が決定。今年は金賞票が割れたことでさまざまな意見が交わされました。
ディスカッションの結果、金賞は林優佑さんのRapss hair designに。Giardino、neiro、Nirsam hair spa mind、toiroが銀賞を受賞し、さらに今回はNUMBER NINEが審査員特別賞を受賞しました。



各賞の作品名とデザイナー
作品名 |
デザイナー |
|
金賞 |
Rapss hair design |
林 優佑 |
銀賞 |
Giardino |
湯口 巌 |
銀賞 |
neiro |
林 優佑 |
銀賞 |
Nirsam hair spa mind |
中村 まい |
銀賞 |
toiro |
林 優佑 |
審査員特別賞 |
NUMBER NINE |
田中 大地・江口 一征 |
作品審査における外部審査員の視点
審査員の方々はデザイナーでありながらも、専門とする分野はさまざま。何を重要視し、どのような視点で作品を審査されたのでしょう。

柳原照弘氏
TBCAはデザインコンペではなくビジネスクリエイションアワードですので、美容師さんのためになる空間という点を重要視して審査しました。ノミネート作品以外にも素敵なデザインはたくさんありましたが、受賞作品は美容師さんとお客さまの関係を想像できる空間が多かったように感じます。

畑友洋氏
私は建築の設計が専門ですので、内側からものを見る視点への発見があったと同時に、建築があるからインテリアが存在しているという点も気になりました。これからデザインをされる際に、インテリアを成立させている建築、さらにその外に広がる街の環境という部分にまで思いを馳せていただけると、より素晴らしいデザインが生まれると思います。

石丸耕平氏
サロン空間のデザインなので、トレンドなど表層的なところだけでなく人の動きをデザインすることも大事だと思っています。どの作品も丁寧に仕上げていることが伝わってきましたが、最終的にオーナーさまの人柄や、サロンスタッフの方がどのように接客されているかを想像できる作品が受賞に至ったと感じますね。
多様な視点から審査され、見事に金賞を受賞した「Rapss hair design」。デザイナーの林さんがどのような想いを持って空間をデザインしたのか紹介します。
金賞作品紹介
和の息吹を感じるプライベートサロン「Rapss hair design」

デザイナー:林 優佑
所在:大阪府豊中市
面積:25.0㎡(8.33坪)
竣工:2025年1月
立地:商業エリア
種別:内装(新装)
業種:美容

デザイナー 林 優佑(はやし・ゆうすけ)
1994年奈良県生まれ。大阪市立大学工学部都市学科卒。京都府立大学大学院生命環境科学研究科環境科学専攻修了。2019年タカラスペースデザイン株式会社入社。世界観やストーリーを重視した設計で、シンプルかつ独創的なサロン空間デザインを手掛ける。近年、建築業界誌などにも多く取り上げられている期待の若手デザイナー。
2025年9月現在
プライベートサロンらしい重厚感を生み出す壁厚+300mm
Rapss hair designのテナントは狭い土地に建てられたペンシルビルの2階で、事務所仕様の鉄骨造。広さを確保するために、梁型や柱型が表出していて、天井内に設備を納めることも難しかったそうです。

林さん
梁型※などの実寸法は細くて貧弱でしたが、相対的に見ると大きく感じました。そこでまず考えたのは表出している要素を整え、余計な情報をカットすること。そのうえで、コンパクトながらも洗練されたプライベート空間に仕上げることを目指しました。
具体的には、換気配管・給水給湯配管などのために壁に300mmの厚みを持たせました。壁に厚みを持たせると必然的に空間が狭くなるので、壁厚を利用してディスプレイスペースや掃き込みスペースを確保しています。壁は柱などを隠す目的もありますが、プライベートサロンとしての重厚感や、外界との切り離しも意図したところです。
※梁型:天井面からはみ出ている梁の部分


空間のシンボルとなるアーチ形状の天井
Rapss hair designに一歩足を踏み入れた時に、まず目を惹くのがアーチ形状の天井。どのような意図を持ってこの天井を採用したのでしょうか。
アーチ形状の天井を採用することで、梁を隠して奥行き感や高さを強調しました。突き当たりにある光障子も奥行き感を補助しており、圧迫感を感じさせない空間に仕上げています。


分厚い壁に囲まれた空間ではあるもののミラーだったり、開口部だったり抜けている所がある。それらによって箱の向こう側にも空間的な広がりを感じます。
コンパクトながらも、狭さを感じさせない空間をつくる。そこに林さんの力量をみた気がします。
空間全体に息づく和のエッセンス
アーチ天井の天高は低いところで2200mmほどだそう。これは和室でよく採用される天高。床に座った時の目線と天井のバランスが良く、安心感や落ち着きを与える高さと言われています。
天井操作などによってプライベートサロンならではの程よい“お籠もり感”を感じられるように仕上げています。また、素材はラワン合板やアイボリーの塗装を採用。ポイントに赤茶の板材を使用し、落ち着きのある和のプライベート空間を実現しました。


Rapss hair designに金賞票を投じた石丸耕平氏はディスカッションで本作品をこのように評価していました。
銀賞はデザイン的な面白さやコンセプトづくりに軸足を置いて審査していました。対して金賞は僕が行くなら、どのサロンに行きたいかという視点で評価をしたんです。Rapss hair designは、人のいいオーナーさんに迎えられそうな空気感までつくられている。そこが評価ポイントです。もちろん梁の隠し方や機能的な面も上手につくられている点も評価しました。

金賞の他、2つの作品で銀賞も受賞した林さん。30代前半ながらその感性とデザイン力には目を見張るものがあります。これからもきっと、お客さまが足を運びたいと思う空間を次々につくり出してくれるでしょう。林さんの今後の活躍に、期待が高まるばかりです。

以上、TBCA2025の最終審査会と金賞受賞作品「Rapss hair design」レポートでした。
次回vol.2では、銀賞を受賞した4作品の中から2作品をご紹介します。ぜひご期待ください。
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