2024年で34回目を迎えた「Takara Business Creation Awards(TBCA)」。金賞作品「Teal(ティール)」のデザインレポートに続き、銀賞を受賞した4作品「tukka(トゥッカ)」「Arete(アレテー)」「Private salon u(プライベートサロン ユー)」「Lamin(ラミン)」のデザインコンセプトや表現手法を紹介します。
TBCA 2024最終審査会のレポートはこちら
TBCA 2024金賞作品「Teal」のデザイン解説はこちら
Takara Business Creation Awards(TBCA)とは?
1991年にスタートしたタカラベルモント主催のグループ内デザインコンペティション。
設計・デザイン力・提案力の向上を目指し、その1年間に全国のタカラスペースデザイン所属のデザイナーが設計した理容・美容サロンとクリニックから、特に優れたデザインを選出します。
予選審査、事前審査を経て、最終審査会では外部審査員を招き、デザイナー自ら作品のプレゼンテーションを行い金賞・銀賞を決定。TBCAの優秀作品は、これまでにも日本空間デザイン賞などで数多くの賞も獲得しています。
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>プライベート空間へのアプローチが印象的な1席サロン(tukka)
>新しい個室のあり方を提案する2席で1つのサロン(Arete)
プライベート空間へのアプローチが印象的な1席サロン(tukka)
デザイナー:林 優佑
所在:京都府木津川市
面積:41.90㎡(12.67坪)
竣工:2023年7月
立地:住宅エリア
種別:内装(新装)
業種:美容
デザイナー 林 優佑(はやし・ゆうすけ)
1994年奈良県生まれ。大阪市立大学工学部都市学科卒。京都府立大学大学院生命環境科学研究科環境科学専攻修了。2019年タカラスペースデザイン株式会社入社。世界観やストーリーを重視した設計で、シンプルかつ独創的なサロン空間デザインを手掛ける。近年、建築業界誌などにも多く取り上げられている期待の若手デザイナー。
既存の内装を活用することで生まれた「光のトンネル」
住宅地の大通りに面した戸建ての1階に開業したプライベートサロン「tukka」。設計にあたっては、なるべく既存の内装を残すという条件があったなか、林さんはどのように空間をつくりあげたのでしょう。
「主に天井操作で空間を構成しました。図面の黒い部分が既存の壁で、グレーの壁が新規の壁です。既存壁で囲われた空間は4つのゾーンに分かれ図面左側の空間はエントランスゾーン、中央部がパブリックゾーン(※)、右下がセット面ゾーン、上部がシャンプーゾーンです。」
※パブリックゾーン・・・一般的に玄関やダイニングなど住まいの中で家族やゲストが共有する空間を指す。「tukka」においてはセット面やシャンプーブースへの導線となる幅2mの細長い空間を指しています。
「パブリックゾーンは、天井高を抑えて周囲の壁に厚みを持たせています。さらに、天井内にライン照明を仕込んで“光のトンネル”とし、お客さまがプライベート空間へ気持ちを切り替えて進んでいける構成にしました。また、空間中央に配置した什器はレセプションに必要な機器類や店販商品、植栽を収めることができ、正面から見えないように配慮しています。」
「現地調査の段階からパブリックゾーンを主役にする構想はありましたが、初めから光のトンネルのアイデアがあったわけではありません。設計を3Dで検証した際に、ここがただの通路では特別感がないと判断し、立体的に空間に変化をつけることに。既存天井が高かったことに加え、グリーンを置きたいとの要望もあったため、天井を下げて照明を仕込むことで光庭のようにすれば象徴的な空間になると考えました。それが、最終的に“光のトンネル“という表現に帰着したのです。」
パブリックゾーンとは対照的に、木の表情を感じる施術スペース
「セット面スペースの天井や壁面はラバー材の板張りにして、シンプルながら温かみある空間に仕上げています。また、シャンプーブースには視線を引きつける要素として間接照明を入れる掘り込みをつくり、圧迫感の軽減も試みました。」
お客さまを非日常へと誘う光のトンネル。そこから生まれる期待感。素材の選定や開口の開け方など、細かな箇所にも必然性を持たせて設計したことが評価され受賞となりました。
新しい個室のあり方を提案する2席で1つのサロン(Arete)
デザイナー:湯口 巌
所在:東京都江東区
面積:50.00㎡(15.13坪)
竣工:2024年4月
立地:住宅エリア
種別:内装(新装)
業種:美容
デザイナー 湯口 巌(ゆぐち・いわお)
1976年福岡県生まれ。九州芸術工科大学大学院博士前期課程修了。2001年にタカラスペースデザイン株式会社へ入社。新規開業・小規模サロンの空間デザインに長年携わり、近年はクリニックや新築デザインを主なフィールドとして活躍中。
サロン・クリニック問わず、立地や物件の良さを引き出し、シンプルながらもクオリティーの高いデザイン、ハイグレードな空間を提案し続けている。日本空間デザイン賞やJCDデザインアワードでの受賞歴多数。
個室でありながらも、サロンらしい華やかさやワクワクを
美容師夫婦が営む小さなサロン「Arete」。お二人それぞれに指名客を持っているため、まず求められたのが2席の個室化。ただ、個室化に関してオーナーさまから興味深い話があったと湯口さん。
「近年、美容室は個室化が進んでいますが、大事なものを失っているのではないか、個室は安心感を得られる反面、狭苦しさを感じこともあるのではないか、そしてサロン本来の華やかさや非日常感、特別感がなくなったというお話がありました。そのため、デザインにあたっては個室でありながらもある程度開放的で、非日常を感じるサロンにしてほしいという要望と、もともと同じサロンで働いていたお二人には、共通の馴染み客も多く、顔を合わせれば声を掛けられる機能もほしいという要望がありました。また、「Arete」をきっかけに新しいスタイルを提案して、知人のサロン計画にアドバイスしていきたいので、汎用性のあるデザインも望まれていました。」
実にハードルが高そうな要望に対して、湯口さんが取った手法とは。
「1つは入れ籠(※)の構成の提案。そして、個室として空間を仕切りつつも、周りを気にしない範囲で視覚的な広がりをデザインしました。」
※入れ籠・・・重箱やマトリョーシカのように大きな入れ物の中に一回り小さな物が入る構造のこと。「Arete」の場合だとテナントの躯体の中に、フレームで組まれたセット面スペースがポンと置かれているような状態を指しています。
「フレームは人力で組み上げできる軽量鉄骨を使用し、多様なテナントに対応できるようにしました。屋根面にはツインカーボ(特殊なプラスチックを2枚合わせ、段ボールのように空洞があるシート)を用いて天井の照明を柔らかくしています。床面には髪の毛を掃き落とすダストシュートを一体化。また、店内中央に設備配管の立ち上がりがあったため、それを隠せるよう高床式を採用しています。」
高床が非日常感や特別感を演出
「高床にしたことで靴を脱ぎスリッパに履き替えていただくのですが、その際にお立ち台的な特別感を感じていただけます。セット面は向かい合う2席が一対に見えますが、中央にほぼ厚みのないミラーを配置。ミラーで仕切ることで向かい側にいるお客さまは見えないですが、自分から斜め先の視界は広がる『2つで1つ』の個室を提案しています。」
「広々したテナント空間の中にサロン機能を集約したフレームを組むことで、広がりや天井高を感じられる開放感と、個室のような心落ち着くプライベート感を両立させています。」
配管スペース確保と特別感演出のため、セット面の床を上げるという発想。ミラーや高さによる区切りの妙。「Arete」はまさに新しい個室サロンのあり方を提示した作品と言えるでしょう。
自然光を巧みにコントロールしたプライベートサロン(Private salon u)
デザイナー:松原 このみ
所在:東京都港区
面積:30.85㎡(9.33坪)
竣工:2023年12月
立地:商業エリア
種別:内装(新装)
業種:理美容
デザイナー 松原 このみ(まつばら・このみ)
1990年東京都生まれ。武蔵野美術大学造形研究科工業デザインコース修了。2016年にタカラスペースデザイン株式会社入社。サロン空間からクリニック空間まで幅広くデザインを手掛け、社内コンペで金賞受賞など実績も豊富なデザイナー。繊細な感性でお客さまの想いを汲み取った提案・空間づくりが得意。
窓から差し込む自然光に着想を得た空間デザイン
店名の通り、オーナーさまが1対1で施術するプライベートサロン。約9坪と受賞作品のなかでは最も小さく窓側には大きな柱も。デザインが制限されそうなテナントでありながらも、松原さんが提案したデザインとは。
「フロアに差し込む柔らかな光がとても印象的なテナントでした。この美しい自然光をデザインに取り込むことを前提にプロジェクトを開始しました。」
「デザインのプロセスは、まずサロンに必要な機能を満たしたプランを考えました。図面右上が入口で、入ってすぐに1対1で対話できるカウンタースペースを。その奥に施術スペース、セット面の裏に美容機器などの収納スペースを設けて、フロアをすっきり見せるように考えました。また、オーナーさまが1人で施術されるので、バックヤードは回遊できるように設計しています。」
「光を取り込むための、アール壁のアイデアはすぐに浮かびました。全体的にアールの壁で構成したことで、自然光の柔らかな移ろいを楽しめるようになっています。」
細部にいたるまでこだわった光の演出
「細かいところでは、セット面の前の壁を斜めに配置して、そこからミラーを浮かすことで鏡の裏にも光のグラデーションができるようにしています。」
「また、入口から奥に目を移した際、窓からの光が強かったため、アールの壁を伸ばして光をコントロールしています。壁を伸ばしたことによる窓との間の空間はクロークスペースとして有効活用できるように考えました。」
壁面に使用した素材はザラっとした凹凸があるビニールクロスでありながら「左官だと思った」というコメントが多かったのも、自然光による緩やかな陰影によりシームレスな表現ができたからこそでしょう。
小さいサロンで大きな造作でつくると圧迫感が課題になりますが、そこは天井操作による工夫で解決を。
「テナントの四方が大きな梁で囲われていたため、梁の処理は設計するうえで一番悩みました。天井を造作すると天井高が2m程度になってしまうので。CGパースで検証を重ねた結果、セット面の上だけ大きな丸い折り上げ天井を造作して圧迫感を軽減しました。」
訪れる時間帯によっても表情を変えるサロン空間。「Private salon u」では、きっと柔らかな光に包まれながら贅沢な時間を過ごせるはずです。
機能性、デザイン性、居心地のよさが共存する大規模サロン(Lamin)
デザイナー:湯口 巌/青木 拓己
所在:東京都江東区
面積:102.00㎡(30.86坪)
竣工:2024年5月
立地:商業エリア
種別:内装(新装)
業種:美容
デザイナー 湯口 巌(ゆぐち・いわお)
TBCA2024では「Arete」と「Lamin」で銀賞を受賞しただけでなく、金賞や特別賞も受賞。知識と技術の探究を続け、サロン空間デザインの第一線で活躍している。(詳細なプロフィールは「Arete」の紹介で記載)
デザイナー 青木 拓己(あおき・たくみ)
1995年千葉県生まれ。日本大学理工学部海洋建築工学科卒。2019年タカラスペースデザイン株式会社入社。美容室からクリニックまで幅広く設計デザインに携わり、内装だけでなく建築案件までも手掛ける実力派デザイナー。
良い意味で大規模サロンらしからぬ空間へ
東京都と千葉県に数店舗を展開するabie hairの最新サロン「Lamin」は、受賞作品のなかで唯一の大規模サロン。大規模サロンの設計は個性を出しにくいと言われるなか、湯口さんと青木さんはどのように空間を構築していったのでしょう。
「プロジェクトを進める際にオーナーさまと話し合うなかで、折角なら大規模サロンでよく求められる効率重視の設計ではなく、居心地のよさや特別感も感じる普遍的なデザインをつくっていく方向で意見がまとまりました。」
「平面計画では機能性が求められたため、セット面を3列として回遊導線を確保しています。図面一番下の列の3席はヘアメイクにも対応し、スクリーンで仕切るとスタッフの練習室や着付けスペースにもなります。」
「また、入社式や講習会などにも対応したいとの要望があったため、上2列の空間には庭・暖炉・梁が生み出す祝祭性をベースに、鏡の効果による広がりを付加。梁は分かれたスペースを1つにまとめる装置としても機能しますし、この梁の連続によるリズムや陰影によって居心地や空間の質が上がると考えました。」
機能的でありながら空間演出も担っている梁と照明
「梁の間隔はセット面のピッチに合わせ、梁を挟むかたちでライン照明をレイアウトしています。セット面に座ると両サイド2列のライン照明で挟まれるため、影はできず顔の映りも良い環境がつくれるわけです。ダウンライトやスポットライトではできない照明環境を整えることができました。」
「ライン照明が梁を間接照明的に照らしてくれますので、リズムをより強調することができます。また、光が乗る梁と影となる天井のコントラストが、大空間にアクセントを。照明が機能性だけでなく、空間演出の点でも重要な役割を担っているのです。
ただ、梁を造作したことで法規面や設備面での設計難易度が上がったため、それらの分野に詳しい青木さんに舵取りを依頼し、プロジェクトをサポートしてもらいました。もちろん、設計やデザインに関しても有用なアドバイスをもらうことができ、結果として精度の高い空間の実現に至ったと感じています。」
ファシリテーターの塩田氏は「大きい空間でも世界観の作り込みができている。要素は増えていないが情報量は増えていて丁寧にコントロールされている」とのこと。湯口さん、青木さん自身もそこは意識している点であり、情報量のコントロールが居心地に直結するそうです。セット面が多いサロンをどう魅せるか。その1つの答えが「Lamin」なのでしょう。
以上、TBCA銀賞受賞作品のデザインレポートでした。
全3回にわたって紹介してきたTBCA2024はいかがでしたか。毎年、斬新なアイデアや手法によるオリジナリティの高い空間デザインが発表されるTBCAに今後もご期待ください!
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