「誰も教えてくれない○○の話」は、誰に聞けばいいのかわからない「サロン経営のさまざまな悩み」を、専門家に解説してもらうシリーズ。第1~4回までは「正しいお金の使い方」「節税のコツ」などなど、多くのサロンオーナーさまや独立志望のスタイリストさまが気になる「サロン経営のお金」がテーマです!
第2回となる今回は、「サロン経営をHappyに導く節税のコツ」。経営に関して漠然とした不安を抱えているサロンオーナーの山本さんと、現在スタイリストで独立志望のある早紀さんの2人が、第1回から引き続き美容業界を専門とする税理士「中嶋政雄」先生に気になる節税の話を詳しく解説していただきます!
登場人物

中嶋政雄(なかしま税務労務事務所 税理士)
美容室の創業サポートが得意な美容室専門の税理士。日本政策金融公庫の融資を活用した美容室の開業支援など多数の実績がある。理美容室に向けたサロン開業、サロン経営が学べるセミナーも行っている。

山本さん(サロンオーナー)
37歳男性。ご夫婦でサロンを開業して3年目。1店舗経営しているオーナー。売上も順調に伸びており、スタッフを1名雇えるほどの余裕もあるが経営スタイル、お金の使い方がこのままでいいのか少し不安を感じている。

早紀さん(スタイリスト)
27歳女性。現在は某サロンでスタイリストとして活躍中。2年以内の独立を検討しており、独立のために必要な情報やスキルの取得に積極的。
※2023年8月現在
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節税のコツは“所得控除”の有効活用?

中嶋先生、正しいお金の使い方のお話ありがとうございました!「使える経費の上限を知る方法」やその活かし方など、実践的なお金の使い方を教えていただき、とてもタメになりました。
喜んでいただけたようで私もうれしいです。早紀さんは独立前で、わかりにくいところもあったかと思うのですが大丈夫でしたか?
はい。むしろ「お金の話は難しい」という思い込みがあったので、「意外とシンプルなのかも」と良い意味でギャップを感じました。今日の節税のお話も自分自身の経験はありませんが非常に関心があります。「使える経費の上限」のお話を聞いたので、経費をたくさん使えばいいということでもない気がするのですが、ちなみに山本さんはどうしていますか?
今後は改める予定ですが、これまでは割と無計画に使ってしまっていました。やはり所得税が高額になるのが怖いので……。中嶋先生、この考え方ってどうなんでしょうか?
前回お伝えした上限の中で経費を使うことは問題ありません。ただ、「使えば使うほどいい」というのはリスクが高い考え方なので注意が必要です。では、どのような節税方法を実践するべきなのか?について解説していきますね。まずお二人に知ってほしいのは、節税には「経費を増やして所得を減らす方法」と「所得控除を使って所得から一定の金額を差し引く方法」の2つがあるということです。
①経費を増やして所得を減らす
経費(家賃・給料・シャンプーやカラー剤など仕事をするために支払ったお金)を増やすことで所得を減らす方法。所得が少なくなればなるほど、所得税も減額できる。
②所得控除を使って所得から一定の金額を差し引く
所得控除とは、所得として計上した金額から一定金額を差し引くことができる制度のこと。「配偶者控除・ふるさと納税(寄附金控除)・生命保険料控除・地震保険料控除」など、さまざまな制度がある。
先ほどから話に上がっている「節税対策」は①に該当する方法ですね。では、早紀さん経費と所得控除の違いって何だと思いますか?
えーと。経費は使い方の自由度が高くて、所得控除はバリエーションが少ない……とか?
それも間違いではないのですが、わかりやすい違いとしては「経費は戻ってこないが、所得控除はお金が戻ってくるものがある」「経費を増やすと所得が減るが、所得控除を増やしても所得は減らない」の2つです。
このような違いを踏まえると、節税として「所得控除」を選ぶことにはたくさんのメリットがあるんです。具体的には、「貯蓄をしながら節税効果も得られる」「所得をしっかり残せることで、融資が受けやすくなる」ことなどが大きなメリットなのです。

まだ完全に理解はできていない気がしますが、「所得控除を増やせばお金が戻ってくるし、融資も受けやすくなる」ってことですよね? 節税というと経費の話を多く耳にするのですが、先生のお話を聞くと所得控除のメリットの方が魅力的に感じます。山本さんもされていますか?
ふるさと納税だったり、保険だったり、一部やっていますが、お金が戻る制度があるのは初めて知りました……。ちなみに、「融資を受けやすくなる」とは、どういうことなのでしょう?
開業後の融資の審査は、「利益(所得)をしっかり残せているか否か」が重要視されます。利益(所得)が多い場合は融資を受けやすくなり、少ないと受けにくくなります。つまり、「所得を減らしすぎると、融資を受ける際に不利になる」ということです。最近はこの傾向が強くなっており、将来的に従業員や店舗を増やしたいと考えている方には覚えておいてほしいポイントですね。
なるほど……。目先の所得税を減らすために経費をたくさん使っていましたが、そんなデメリットがあったとは……。早速今年からでも、所得控除を増やしたいです!どのような制度がオススメなのか教えてください!
節税と貯蓄を同時に叶える!中嶋先生がオススメする3つの制度とは?

節税という観点でオススメの制度は、「小規模企業共済制度・iDeCo(個人型確定拠出年金)・経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」の3つです。それぞれどのような制度なのか解説しますね。
これだけ所得控除の話をした後で申し訳ないのですが……。3つめの経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)は、所得控除ではなく経費なので、その点はご注意ください(笑)。
①小規模企業共済制度
概要:小規模企業のオーナーや個人事業主のための「退職金制度」
掛金:最大月7万円、年84万円 (1,000円~7万円までの範囲で500円ごとに自由に設定可能)
税制優遇:掛金が全額所得控除、受取の際に税金の優遇が受けられる
途中解約:掛金の受け取り可能(加入から20年未満の場合は元本割れの可能性がある)
専従者の加入:可
(※)掛金の範囲内で事業資金の貸し付けも可能
節税への影響
掛金がすべて所得控除になるため、所得を年間最大84万円減らせる(※専従者も加入した場合は、事業主と専従者を合わせて年間最大168万円)。退職金の積み立てと節税を同時にでき、融資に影響する所得減も避けられる。
② iDeCo(個人型確定拠出年金)
概要:公的年金(国民年金・厚生年金)とは別に、給付を受けられる私的年金制度のひとつ
掛金:最大月6.8万円、年81.6万円
税制優遇:掛金が全額所得控除、受取の際に税金の優遇が受けられる
途中解約:掛金の受取は不可
専従者の加入:可
節税への影響
掛金がすべて所得控除になるため、所得を年間最大81.6万円減らせる(※専従者も加入した場合は、事業主と専従者を合わせて年間最大163.2万円)。退職金の積み立てと節税を同時にでき、融資に影響する所得減も避けられる。途中解約はできず、小規模企業共済のような借り入れには使えない点に注意。
③経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)
概要:取引先の倒産による共倒れのリスクに備える制度
掛金:最大月20万円、年240万円(累計800万円まで5,000円から20万円の範囲で5,000円ごとに自由に設定可能)
税制優遇:税金の優遇はないが、掛金を損金として経費計上できるため、節税効果がある
解約時:掛金を1年以上納めることで、解約手当金を受け取れる
専従者の加入:不可
節税への影響
年最大240万円を経費にでき、解約時に掛金を受け取ることができる。節税と貯蓄が同時にできるものの、所得控除ではないため、利用するフェーズを見極める必要がある。
どれも節税と貯蓄を同時に叶えられて、①、②に関しては所得も減らないってことですよね?こんな制度があるんですね!
ただ、私は経験がないので、「年間どのくらい所得税が発生するのか?」「これらの制度を利用すると、どのくらい納税額が変わるのか?」がイマイチ掴めません。このあたりをご説明いただけないでしょうか?
わかりました。私のクライアントを例に、所得控除を利用した場合の節税効果を解説してみますね。開業から2年目、ご夫婦で美容サロンを経営しており、従業員は専従者の奥さまの1名のみ。売上2,000万円、経費1,000万円だったので、所得額は1,000万円です。この条件で、節税をまったくしなかった場合と、上述した3つの対策を全て掛金満額で行った場合の所得税額は以下のようになります。

小規模企業共済制度だけでも、17万円以上、3つ加入すると約55万円も節税できるのがわかるでしょう。また、この表は加入者が1名の場合の節税効果を表しています。事業主と専従者のご夫婦で加入すれば、節税効果はさらに大きくなります。
さらに、今回は所得税だけで計算しましたが、住民税も所得額によって変動します。これらの制度に加入すると、住民税(経営セーフティ共済の場合は事業税も)も減るので、実際の節税効果はさらに大きくなるのです。
しかも、掛金は退職金や年金として蓄えられるということですね……。正直やらない理由が見つかりません(笑)。
こんなにも金額が変わるとは……。所得税がどのくらい発生するのかも知らなかったので、これを知らずに開業していたと思うと、少し怖くなってきました(笑)。ちなみに、「開業1年目の場合は○○だけ~」など、入る順番などはあるのでしょうか?
最初に選ぶのは、小規模企業共済制度がオススメです。解約しても掛金が戻ってきますし、掛金から借り入れもできるので、万が一資金が足りなくなっても安心できます。それでも余裕があり、「融資のために利益(所得)を残しつつ、さらに節税したい」という方は、小規模+iDeCoに。最後に、「利益(所得)を減らしてでも節税しないと納税額がとんでもない額になる」といった場合は、経営セーフティ共済に加入というイメージです。サロンの成長度やオーナーさまの考え方に合わせて判断するのが基本ですね。
なるほど。私の場合は、とりあえず小規模企業共済制度から始めればいいですね。
私も加入しようと思っていますが、「どの程度の掛金が最適なのか?」「小規模だけなのか、もしくはiDeCoも入るのか?」など、細かい部分はどのように判断すればいいのでしょうか?加入の判断材料になるような方法があれば教えてほしいです。
あらゆる経営判断の指針に!知っておきたい納税予測とは?

山本さんがおっしゃったように、「いくらぐらいの掛金が良いのか?」を知ることはとても大切です。どのくらいの節税効果があるのかわからないのに、大切な手元のお金を掛金支払で減らしてしまうことは避けたいですよね。
「いくらの掛金でどのくらいの節税効果が出るのか?」これが分かって対策を打つことができれば、節税効果を最大限に高めることができます。そこで今回お伝えしたいのが、その年の納税額を事前に予測していくら所得控除に使えるかを算出する「納税予測」という方法です。
納税予測の方法
①1~9月までの売上実績を出す
9月までの売上を計算して、売上実績を計算。納税予測を早めに行いたい場合は8月までの実績でも可能。
②10~12月の予測売上額を出す
9月までの実績と昨年度の同時期の実績を踏まえて、10~12月の売上予測を出す。設備投資・採用・販促などで、売上の変化が予測される場合は、その変動分を踏まえて計算する。
③予測経費を出す
9月までに使った経費を12ヶ月分に換算して、年間の経費を計算する。9月以降に、設備投資・採用などの予定がある場合はその分の経費も踏まえる。
④売上と経費から予測所得を出す
計算した売上から経費を引き、予測所得額を計算する。
⑤予測所得から予測納税額を計算する
予測所得額をもとに予測納税額を計算。税額は、「(所得-所得控除)× 税率」で計算できる。
先ほどご紹介したご夫婦で経営する美容サロンのケースで、10月末くらいにこの方法で予測納税額を計算しました。そこから小規模・iDeCo・経営セーフティ共済の各制度の掛金の適正額を検討し、掛金の額を決められています。
ちょっと気になったのですが、10月末となると年末までに2ヶ月しかないですよね?そのタイミングでも、制度は使えるものなのでしょうか?
大丈夫です。例えば小規模企業共済制度は、掛金の年払いができます。節税効果を確認した後に、年末の申込み期限までに年払いすれば支払った全額がその年の所得控除となりますので、節税効果はかなり大きくなります。
そうなんですね!正確な計算はプロにお願いしたいですが、必ず覚えておきます!
タメになる情報を共有できてよかったです!今回ご紹介した3つの制度は、節税と貯蓄が同時に叶えられる方法ですが、それでも納税予測をせずに行うのはリスクがあります。現状の蓄えと制度を利用した場合の効果を把握したうえで、制度の利用を慎重に検討してみてください!
まとめ
今日お二人にお伝えしたかったことは以上です。どのような節税方法が有効なのか、なんとなくは理解できたでしょうか?
「節税=経費を使う」という認識から、理解が一気に深まったような感覚です。所得控除を上手に活用する方法は、まさに「目から鱗」という感じで、本当にタメになりましたね。とりあえずは今年の納税予測に向けて、少しずつ資料をまとめておこうと思います。
前回同様、独立前に先生のお話をお聞きできて本当によかったです!税金や節税に対しての解像度が上がり、独立に向けての不安がひとつ取り除けた気分ですね。まだまだ、先生にお話を聞けるということなので、次も楽しみにしています!
今回も有益な情報をお伝えできてうれしく思います。次は2店舗目出店のポイントについてお二人に解説をしようと考えているので、楽しみにしておいてください。次回もよろしくお願いします!
次回「誰も教えてくれない〇〇の話」
”美容室専門税理士”が解説する「誰も教えてくれないお金の話」
第3回「サロン経営をHappyに導く2店舗目出店のポイント」
更新日:2023年11月21日
ライター・カメラ:児島 宏明
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