理容室を営む家業を継ぐために理容の世界に飛び込んだ。その後、仙台市内と東京のサロンを渡り歩き実家のサロンへ戻る。そして、結婚やサロンの改装をきっかけに奥様のアイデアを生かしながら「ヘッドスパ」などの癒しメニューを導入してリラクゼーションサロンへと変貌を見せた。今では付加価値メニューが主力メニューとセットになって、新しいタイプの理容業として展開している。
ライター 前田 正明 | カメラ 藤村 徹 | 配信日 2015.12.3
まだまだ本腰ではなく要領よく過ごした専門学校生時代
理容師になろうと思われたきっかけを教えていただけますか?
私の両親がこの宮城県名取市で理容室を経営していたのが大きな理由です。子供の頃は、自分のなりたい職業に就いてもいいよと言われていたのですが、2人の姉たちが他の仕事をしていたので、いつの頃からか「お前はこの店の跡取りだから…」と言われるようになり、自分も周りもそんな雰囲気になってしまいました。高校卒業後、深く考えもせず地元の理容専門学校に入学。当時は、クラスメイトも私と同じように跡取りの人が多かった時代です。そんな専門学校生の頃、実は私はワインディングで1度も全頭を巻いたことがなかったんです。いつも言い逃れをしては楽をしていました(笑)。今思えば、まだ本気でこの職業を頑張る気力がなかったというか、まだまだ子供だったんでしょうね。実際に父の仕事ぶりを見てすごいなと感じ始めたのは、この店を継ぎ始めた30代の頃でしたから。専門学校卒業後は仙台市内のサロンに入社しました。
セットで1時間もかかったデビュー当時のほろ苦い経験
サロンに勤められて新人時代に感じたことは何ですか?
実家とは違う仙台のサロンに入社して、新人の頃は本当に仕事がつらいなといつも感じていました。厳しく指導されたのは、技術面もそうですが主に接客面です。先生が注意するのは、お客様に対して失礼にあたるというのが理由なんでしょうが、当時は意味も分からずにただ怒られているだけだと思っていました。サロンで働き始めてからも遊ぶことばかり考えていて、まだまだ真剣に考えてはいませんでしたね。それと、幸いなことに私は少し器用な面を持っていたので大きな失敗をしたことがなかったんです。それが、逆に成長しなかった理由でもあるのかなと感じています。デビューしたのは3年後でした。今でも覚えているのは、初めてセットを任された時に1時間もかかってしまったこと(笑)。お客様は学生さんで、ドライヤーとブラシを手に汗だくになっている私を、先輩たちはため息をつきながら見ていました・・・。そんな新人の頃から今でも心に残っているのが、経営に関する父のある教えです。それは、少人数なら早く目標に到達できるが、遠くまでは行けない。逆により高く遠い目標を目指すなら大人数で焦らず進めということです。それは今でも大事にしている言葉ですね。
美容に感化されて上京するも1年で実家へ戻った
東京のサロンに行かれた理由やその後の経緯を教えてください。
実はその頃、21歳で開業された元ミラクルコントロールのサトルコナンさんに感化されて美容に興味を持ち始めたんです。まだカリスマ美容師のブームが来る前です。そこで、東京に憧れを抱いて不意に上京することに決めました。勤めたのは神宮前にあったサロンで寮に住み込みでした。やはり、東京のサロンは若い人が多くて環境的にも大いに刺激を受けましたね。ただ、理容はまだおしゃれな感覚ではなかったので、もっとおしゃれな仕事をしたいと常々考えていました。でも、未熟だった私は1年で挫折して実家に戻ることに。上京した経緯も含めて父からかなり叱られましたが、しばらくは実家で修行を積んで新しいサロンを見つけることにしました。家業を継ぐには時期尚早で、もっと経験を積む必要があると思ったからです。父は寡黙で仕事にプライドを持つ人です。そんな父の仕事ぶりを見ながら、私は仙台や東京のサロンで経験したことを生かそうと思い、試行錯誤する日々が続きました。
「私も半分背負うよ」という妻の後押しで改装を決断する
実家に戻られてからの仕事ぶりや気持ちに変化はありましたか?
佐藤/その後、私が真摯に理容業と向き合うきっかけになったのは、実は結婚でした。妻は一般の企業に勤めていた業界外の人で、彼女が自分の仕事ぶりを見ていると意識し始めた時に、「今までのような気持ちではダメだ」と改心したんです。さらに、彼女が「友達を呼べるようなサロンにしたい」と改装を提案してくれました。このままではダメだと焦る一方でまだ自信も無く思いとどまっていたところ、彼女が「私も半分背負うよ」と背中を押してくれたんです。おかげで改装に踏み切ることができ、それまで思い描いていたイメージを具現化することができました。
Keiko/私はお付き合いをしている時からサロンの様子を知っており、結婚を機にお店を手伝ってほしいと言われた時もまったく不満はありませんでした。実は高校生の頃、美容師になろうか考えた時期もあったんです。そして、20歳で結婚して理容学校に入学して昼間課程で学びました。実は彼はすごく堅実で、大きな失敗を恐れて躊躇していたんです。そこで、私も半分背負うよという気持ちでプッシュし改装に踏み切りました。
佐藤/ただ、その頃の経営状態はどんどん下降して本当に危機的な状況でした。そんな時期に借金までして改装するのは大きな冒険だったんですが、逆に背筋が伸び、店主としての自覚が出てきました。決断してよかったと思っています。
フルフラットのシャンプーベッドを導入してヘッドスパを確立
改装にあたってどんなイメージのサロンにしようと考えたんですか?
佐藤/今話題のクラシカルなバーバーサロンやかつてのユニセックスサロンのような形態ではなく、癒しをコンセプトにして女性客も気軽にご来店していただける新しいタイプのサロンにしようと思いました。それは、住宅街という立地条件を生かしたサロン展開です。メニュー的には、フルフラットのシャンプーベッド「YUME」を導入してヘッドスパを確立しました。最初にタカラベルモントさんの仙台ショールームで体験させていただいて、「これだ!」と実感したのがきっかけです。当時はまだヘッドスパが浸透していない頃で、YUMEを核にしていち早くヘッドスパを取り入れました。改装における設計・施工は、はじめ知り合いの工務店にお願いしようかと思っていたのですが、やはりサロンづくりにおいて経験や知識があるプロの会社に任せたいと思い、タカラスペースデザインさんにお願いすることにしました。実は、当時のタカラの所長さんから叱咤激励の言葉をいただき、その人に認めてもらえるくらいの立派な理容師になってやろうと発奮したのを覚えています(笑)。私はそれまで師匠といえる人がいなくて我流でやってきたんですが、言わばその方が心の師匠と言えるかもしれません。それから妻と一緒に接客面やサービスに関して必死で勉強しました。
お客様に認めてもらったヘッドスパでサロンの経営状態が好転
ヘッドスパを導入してからサロンはどのように変わりましたか?
Keiko/実は、私が無鉄砲で走りすぎて主人がブレーキをかけるといった絶妙なバランスで今まで過ごしてきました(笑)。サロンの改装、YUMEの導入、それにより借金をして、しかも今までとは違うシャンプーテクニックをマスターしなくてはいけません。ましてや、ヘッドスパなんてお客様や地域の方々が受け入れてくれるのかさえも分からない状態です。それでも一生懸命に頑張っていたらお客様もついてきてくれて、今ではご年配の方までもヘッドスパをやりたいとおっしゃっていただけるようになりました。この「ヘッドスパ」がきっかけで、本当にお店が繁盛するようになったんです。お義父さんもそんな様子を見ていてくれて、「自分たちがやりたいと思ったことを頑張っていけば間違いない」と言ってもらえました。最初は危なっかしくてヒヤヒヤしたと思います。改装やスタッフを雇う時など、ことあるごとに「大丈夫なの?」って言ってましたから(笑)。今では何も言わずに安心して見守ってくれている感じですね。
ケミカルを学んでヘアケア剤を一新したところ店販売上げがアップ
ヘッドスパに関するお客様の反応や売上げはどうでしたか?
Keiko/改装後、実は飛躍的に売上げがアップしたのは「エステシモ」との出会いだったんです。ヘッドスパ導入後しばらくは、他の商材を使って施術していました。自己流で勉強し、一生懸命やっているつもりでしたが、今思えば自己満足だったんですよね。「エステシモ」のコンセプト・商品力、メニュー力に「これしかない!」と感動し、導入を決めました。タカラさんのセミナーを受け、その時に初めてシャンプーの成分やケミカル的なことを勉強したんですが、学べば学ぶほど、エステシモ以外は考えられなくなりました。私は講習で学んだことをすぐにサロンにフィードバックし、スタッフ全員でエステシモについて学び、メニューに落とし込んでいきました。
佐藤/エステシモを通じて学んだ頭皮や髪に大切な情報をお客様にもお伝えする義務があると思い実践していくうちに、ヘッドスパメニューだけでなく店販商品も急激に売れ始めたんです。それまで育毛剤やスタイリング剤の売上げが1年間でわずか7万円くらいでしたが、シャンプー剤や基礎化粧品を含めて翌年には約100万円。さらに去年は約370万円にまでアップしました。
Keiko/ヘッドスパではカウンセリングも重要です。特に年配の男性にとって抜け毛は大きな心配事で、そんなお悩みに対してホームケアのアドバイスをしていくうちに店販商品が売れ出したんです。最初は商品を売るつもりはなかったんですが、お客様の悩みを聞き、ケアの話をしていると、「今の話に有効なのはどれ?」という感じで買われる方が増えました。これには私たちも驚きましたね。
理美容の概念を払拭して大人の男性と女性がくつろげるサロンに
サロンのシステムやサービスに関して変わったことはありましたか?
佐藤/私たちは従来の理容や美容といった概念を取り払い、大人の男性と女性がくつろげる癒しの空間をご提供したいと考えています。カリスマ美容師ブーム以降、若い男性が美容室に流れていきましたよね。でも、そんな人たちの中には、居心地が良くないと感じている人が結構いるんです。また、年配の女性からも、若い人たちばかりで自分の居場所がなく落ち着かないという声を聞きます。そんな人たちの受け皿になれるようなサロンを目指しています。決して安いだけでは通ってくれないし、きちんとしたサービスでおもてなしをしないと満足していただけません。その軸になったのがエステシモヘッドスパです。
Keiko/髪をカットしてカラーリングをして帰るだけでなく、フェイシャルやシェービングの際にアロママッサージで心もリラックスしていただくなど、ホリスティックなケアにも取り組んでいます。肌も頭皮も髪も身体もみんなつながっていて、全てが関わりあって美と健康を形づくっていくんです。これは、エステシモのホリスティックビューティの考え方で、深く共感するところがあります。それと、お客様一人ひとりに対応した接客も大事にしています。いいデザイン、ヘアスタイルをご提供するのは当たり前で、もっとお客様に喜んでいただくにはいい接客が必要です。そんな話をしていると、お互い熱くなりすぎて夫婦ゲンカになることもありますが(笑)、結婚するまでずっとお客さんとしてサロンに通っていた私だからこそ感じる部分があるのかもしれません。
ホリスティックビューティーに力を注ぎ内面から輝かせたい
ヘッドスパ以外のメニューや改装に伴う稼動について教えてください。
佐藤/今はヘッドスパメニューを6種類まで増やし、その他に炭酸泉の「トルケア」も導入しています。追加料金は500円ですが、すでに約70%のお客様にご注文していただくくらい定番化しています。改装した個室感覚のブースは女性客やフェイシャルメニューの他にブライダルなどのエステルームとして多目的に活用しています。時にはキッズルームやペアシートとしてご利用いただくこともありますね。
Keiko/ブライダルエステに関してはカミソリを使用できる理容ならではのメリットだと考えています。気持ち良さだけでなく、しっかりと効果を実感していただくために、手技だけでなく美顔機やスチーマーなどの機器類も、良い物を選んで導入し、しっかりした施術を行っています。
佐藤/タカラさんは機器や商材の販売の他にセミナーでいろんなことを学べるし、何よりもアフターフォローをしていただけるのが嬉しいですね。特にエステシモに関しては、プロが考案したメニューをサロンにフィードバックできるので、私たちもそれを応用しながら新しいメニュー作りに役立てています。
Keiko/新しいメニューをお勧めする際は決して押し売りになってはいけませんが、逆に私たちが先入観をなくすことも大事だと思います。常連のお客様の中には新メニューに抵抗を感じる人もいますが、気になるけれどお勧めされないと自分からは言い出せないという方も多いんですよ。特に男性は、メニュー名や用語を見てもよく分からない方もいらっしゃるので、ご紹介だけのつもりで案内をしてみて、反応を見てみるのも大切です。そして興味を示されたら、まずは体験していただくことが重要です。お得意様が支えてくださったからこそ今の自分たちがあるんだという事を忘れずに、これからも本当に良い技術・商品・接客をご提供していきたいですね。今後はホリスティックの分野に力を注いで、お子様からお年寄りまで、全てのお客様をもっと元気にしてあげたいです。ヘアスタイルだけでなく内面から美しくなると本当の意味で輝けるし、それが私たちの仕事だと思いますから。
佐藤/最後にこの業界を担っていく若い人たちに一言。なり手が少なくなっていますが徐々に受け皿が整ってきているので、後は皆さんの頑張り次第ですよ。今までの理容ではなくなっているし、どんなに素晴らしい製品が発明されても最後は人の手によって施術する訳ですから若い人たちの力が必要なんです。新人の時はつらい経験もするでしょうが、それを乗り越えて素晴らしい技術者になってほしいです。
佐藤哲郎(サトウテツロウ)
HAIR ACE代表。宮城県出身。仙台理容美容専門学校卒業。仙台市内と東京都内のサロン勤務を経て自店に入店。2007年に改装して「ナチュラルで居心地の良い空間」をコンセプトに、癒し系のリラクゼーションサロンをプロデュースし本格的に家業を継ぐ。その後、カット・カラー・パーマの主力メニューと併せて「ヘッドスパ」と「フェイシャルスパ」を導入して好評を博す。現在はサロンワークをメインにセミナーの講師としても活動中。
HAIR ACE
「ナチュラルで居心地の良い空間」をコンセプトにした、どなたでもゆっくりとくつろげるリラクゼーションサロンです。最先端の技術を導入した頭皮改善メニューの「ヘッドスパ」や完全個室で安心のレディースシェーブなど、お客様の期待にお応えできるしっかりとしたメニューを取り揃えています。
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木村 和彦さん(株式会社 友美) | この人から学ぶ成功の秘訣 TBMG
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