ライター 前田正明 | カメラ 好川桃子 | 配信日 2008.3.6
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キャリアも顧客もない状態で支店を任される
私で三代目になるんですが、物心ついた時から、父がメインでお店を切り盛りしていました。当然、子供の頃は、お店の中を通って学校に通っていましたから、両親の仕事姿は目に焼き付いていました。子供の頃は、大変な仕事だなと思っていましたね。一日の労働時間が長いのと、あまり休みが取れないのとで…。 でも、大きくなるにつれて、自然と家業を継ぐ感覚になっていきました。専門学校時代は、クラスメイトに刺激を受けながらも、お店の手伝いをしていたこともあって、学校にはスムーズにとけ込むことができました。跡継ぎ同士でお店の情報交換をしたこともよくありましたね。卒業してからは、他店に修業に出ることはなく、父が唯一の師匠でした。しかも、23歳の頃に『池田の駅前に支店を出すからお前に任せる』と言われましてね(笑)。そんなにキャリアもないし、お得意さんもいないのに大丈夫かなと不安でしたよ。支店は弟と2人で任されました。弟はまだ20歳そこそこ。知人からは、まだ早いと言われるし、どうやって切り盛りしようかなと2人で考えました。
精神的な苦痛と一人のお客様の大切さを実感
当然、オープンした当初はお客様がまったく来ないんです(笑)。忙しくて大変なことと、逆に暇で大変なこととは精神的なつらさが違います。一人のお客様の大切さをどれほど痛感したことか…。お客様が来られた時は、本当に嬉しかったですね。本店で仕事をしていた時には考えられなかったことです。チラシを作って駅前で配ったりしましたが、数人しか来られません。 そこで弟が、知人を見かけると『友だちを誘ってきて』と、盛んに勧誘していました。そのお陰で、徐々にお客様が来るようになりました。そんな日々の繰り返しでしたね。必然と、接客も丁寧になりますから、顧客も増えました。軌道に乗り始めたのは3年目くらいでしょうか。当時は大学生が多かったですね。でも、卒業されると来られなくなるんですよ。また、社会人の方でも、3年周期で転勤があったりと、そんな経験もしました。これが駅前店なのかと実感しました。そして、本店に戻って4年になります。今では弟が支店で頑張っています。
父の厳しい教えと全国大会優勝への道のり
父から学んだことは、技術面と同時に接客の大切さですね。シャンプー時の指使い、コームを入れる時の力加減など、お客様に不快感と苦痛を与えないタッチを心がけるよう厳しく指導されました。それと、長年継続していくことのスゴさも感じています。これが、ヘアサロン・ナカモトの自慢できるところですね。それを支持していただいているお客様が多数いますから、ありがたいことです。そんな父の影響もあり、コンテストの世界に挑戦しました。技術的なレベルアップもさることながら、業界でのいろんな情報を入手できますから。最初は、腕自慢的な発想で挑戦しましたが、やはり負けると悔しいので、徐々にいい作品を作りたい、自分自身に納得したいという気持ちが強くなってきました。そして、昨年の全国大会第1部で優勝することができました。これは3度目の全国大会の挑戦でした。第1部はクラシカルバックという競技で、テクニックが如実に現れる種目です。過去2回はすべて3位で、3度目に優勝できました。
自己否定する葛藤に打ち勝ちナショナルチームへ
全国大会は、大阪大会や近畿大会とは違う難しさがあります。私の先生は同い年で、56回大会で優勝した泥谷 誠くん(Danoi Square)なんですが、彼を満足させないとダメなんです。自分だけが満足しただけでは全国で勝てないということを実感しました。まず作品を見てもらった時は、すべて否定されたところからスタート。最初はどこがダメなのか理解できず、それ以降は葛藤の日々でした。そこで、つらくとも否定された部分を受け入れ、自分を変える努力をしました。彼も私を優勝させたいという気持ちでトレーナーを引き受けてくれたのですから。そうして、自分が成長していくと、彼の要求に応えることができ、さらにステップアップできる…。 その連続でしたね。そうすると、彼の持っている高度なテクニックを見せてくれるんです。そのお陰で、優勝することができました。だから、一人で満足しているうちは勝てなかったですね。今後は、ナショナルチームの一員として、3月1日にシカゴで行われる世界大会に向けて、トレーニングに励んでいます。最初はピンとこなかったんですが、日の丸を背負って頑張ってきます。当然、今までにない緊張感で手が震えるでしょうが(笑)。
中本欽也(ナカモトキンヤ)
大阪府出身。大阪中央理容美容専門学校卒業後、父が経営する『Hair Salon NAKAMOTO』に勤務。後に支店の『CUT SPACE GUY』を出店、店長を務める。その後、支店を弟に任せ、Hair Salon NAKAMOTOに戻り、父と共に勤務。第59回全国理容技術競技大会第1部で優勝を経て、全理連ナショナルチームに参加。世界大会に挑む。
※2008年3月6日現在
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