2024年10月、タカラベルモントからスタイリングチェア「BENT WOOD」シリーズが発売されました。国内で唯一、曲木を専門とした家具ブランドである「秋田木工」とのコラボレーションによって生まれた、無垢の木製スタイリングチェアです。木工職人の技が光る新しいスタイリングチェア。サロンの印象を軽やかにしてくれる「BENTWOOD」シリーズが生みだされる現場をレポートします。
ナビゲーター:石倉 葵
編集者。新潮社「考える人」編集部、アノニマ・スタジオを経て、2013年より秋田在住。デザイン会社「See Visions」所属。地域×デザインの力で「よりよくする、楽しくする」をミッションに活動する。好きな食べ物は目玉焼き。
今回ご参加いただいた方のご紹介♪
秋田木工:風巻さま
秋田木工代表取締役。曲木家具専門ブランドとして家具デザイナーに愛される秋田木工で、さまざまなコラボレーションにより新しい商品開発を行うと同時に、技術の継承、職人の育成にも力を入れている。
タカラベルモント:山崎さん
理美容サロン向けの製品企画を担当。インテリア関係の仕事を経てタカラベルモントへ。製品企画を担当し、BENT WOODシリーズの企画開発に携わる。元々家具が好きなので、本製品の魅力を伝えたいと秋田木工へ訪問。
※2024年10月現在
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日本唯一の曲木家具専門ブランド「秋田木工」とは?
秋田県湯沢市。奥羽山脈がゆったりと裾野を引き、日本海に注ぐ雄物川が豊かな田んぼを潤すこのまちは、800年以上の歴史を有する伝統工芸・川連漆器や日本三大うどんの1つとして、秋田県を代表する名産品としても知られる稲庭うどんの産地でもあり、手しごともさかんな土地です。
ここ湯沢市の雄物川沿いにある「秋田木工」は、100年以上ににわたり職人たちが技を受け継ぐ曲木(まげき)を専門とする国内唯一の家具メーカー。剣持勇氏がデザインしたスタッキングスツール「No.202」など、現代でも愛される曲木家具を生産しています。
曲木とは、高温の蒸気で蒸した無垢の木材を鉄型に合わせて曲げる技術のことです。1840年頃にドイツ人の家具デザイナー ミヒャエル・トーネットによって発明され、ビストロチェアとしても知られる代表作「No.14」を筆頭にモダンスタイルの原点ともいえる曲木家具を多く生み出しました。
「曲木家具をつくる工房は日本にも数社あるものの、無垢材を3次元でひねりあげて立体的に曲げる技術は、秋田木工以外どこにもありません」
そう語るのは、秋田木工代表取締役の風巻譲さん。
木の特性を熟知した職人だからこそ可能な高い技術力は日本の巨匠たちによる名作とも呼べる数々の作品を、ともにつくり上げてきました。柔らかな曲線が生み出す穏やかなたたずまいを見ると、名だたる家具デザイナーに愛されてきた理由もわかるというもの。
このたび、この秋田木工とタカラベルモントとのコラボレーションにより、2種類の曲木のスタイリングチェアが生まれました。
「BENT01」は、秋田木工のロングライフデザインのダイニングチェアの一つであるNo.712の座面より上の部分を使用。脚部にはタカラベルモントで長年改良を重ねてきたスタイリングチェアのチェアベース(ポンプ部品)を組み合わせたもの。
「BENT02」は、同じく秋田木工のロングライフデザインのダイニングチェアの一つであるNo.508がベース。No.508は曲木パーツはわずか6種類で、シンプルななかにエレガントな雰囲気も感じさせるデザインが特徴です。
いずれも曲木特有の流れるような優雅なラインと、快適な座り心地のために計算し尽された、職人の技術が光るチェア。籐張りの背もたれは通気性に優れ、軽やかな印象。背面から見ても曲木家具ならではの美しさを楽しむことができます。
長く愛されてきたデザインと、サロンでの使い勝手が長年考えられてきたチェアベース。この組み合わせがサロンに新鮮な風景を生む商品です。
工房に潜入!「木を曲げる」瞬間
「まずは現場をご案内しましょう」
風巻さんに誘われて、いざ工場へ!
自社乾燥の材木置き場や、ボイラーなど、広大な敷地を進み、いざ内部に入ります。
この工場で、秋田木工の椅子作りのすべての工程が行われているといいます。
さっそく秋田木工のアイデンティティの一つ、「曲げ」の工程を見せてもらうことになりました。
今回見せていただいたのは、「BENT01」の背面の曲線部分を作る工程。窯のなかで蒸された木材を取り出すと、もくもくと蒸気が上がります。
水分をじっくり含ませた木材を鉄型に合わせて二人がかりで曲げていきます。乾燥して硬くなる前に仕上げなければならないため、作業にかけられる時間はわずか5分。短時間に木目のクセを見ながら曲げる作業は、経験が何よりも重要だと話すのは、曲木課主任の斉藤勉さんです。
斉藤さん「ねじの締め加減や、一つひとつ違う木目の走り方など、職人の技術は数値化して伝えることは難しいもの。自分も師匠たちのやり方を見ながら、手で覚え、時には失敗もしながら、体に染み込ませて技術を体得してきました。」
機械を使った大量生産が可能な時代ながら、職人の技と手作業にこだわり続けるには理由があるのです。
曲木作業は二人がかりで同時に作業を行うものもあります。力づくで曲げようとしても決してうまくいきません。職人達は、木と対話するように心を通わせて進めていきます。
受け継がれる技術
曲木の家具をつくり出すために欠かせないのが治具(じく)と呼ばれる鉄型です。曲木の工程で使う型なので、チェアの部品の数だけ治具があると言っても過言ではありません。
この治具、クランプも含め、ネジ以外ほぼすべてを秋田木工の社内で制作しています。しかも機械ではつくれないため、秋田木工の職人のなかでも、秋田県の優良技能士として県知事賞を受賞した熟練工がすべて担っているのです。
実寸大の図面から木製の箱型をつくり、製品の曲線を描くところから始まる治具づくり。ボールペンで書かれたわずか0.5mmの線を頼りに、専用の機械で少しずつ鉄を叩き、つくり上げていきます。
治具をつくる職人の天童幸一さんは中学を卒業してからこの道60年の大ベテラン。息子の健太さんも秋田木工に入り、現在は父・幸一さんの元で治具づくりに携わっています。
「鉄は根気よく向き合う必要がある素材です。そもそも硬いから少しずつしか曲がらないし、力任せに急に曲げようとすると思わぬほうに曲がってしまう」と健太さん。
この治具がなければ、秋田木工がもつ日本で随一の技術と言われる、3次元での曲木は実現しません。
「治具づくりは、秋田木工の秘密の工程だ」
と言いながら、いたずらっぽく笑って顔を見合わせる幸一さんと健太さん。師弟関係も親子関係も、どちらも温かなものであることが伝わってきます。
風巻さん「秋田木工ではときどき親子で職人になるケースがあります。地域に根ざして114年。地元の産業として根付き、親の背中を見て入社してくれる人がいるのはうれしいですよね」
受け継がれるのは、創業100年以上の歴史と職人技。そして製品を愛し、仕事に強い信念を持つ姿勢。熟練の職人と若い職人とがともに肩を並べて作業し、伝えてきたものが、地域に脈々と息づいているのが感じられます。
「BENT WOOD」シリーズはこうして生まれた
できあがった上部とチェアベースを合わせると、組み上がった「BENT01」「BENT02」に職人さんが集まってきました。
「おお〜、チェアベースと組み合わせるとこうなるのか」
と歓声が上がるとともに、新しい取り組みだけに細部にわたって技術的な調整などが盛んに行われます。
ロングライフデザインの名作椅子をスタイリングチェアに。数々の有名デザイナーや企業とコラボレーションして常に新たな商品開発に取り組んでいる秋田木工でも、この発想はなかったと言います。では、このアイデアはどこから生まれたのでしょうか?
山崎さん「長年お付き合いのある家具メーカーさんから『脚部をチェアベースにすれば、スタイリングチェアになるのでは?』と秋田木工をご紹介いただいたのがきっかけでした。
サロンの内観写真では、チェアのバックビュー(背もたれの見え方)が非常に重要です。秋田木工のチェアはラタンの抜け感があって、すごく軽やか。複数台並んだときにも見た目が重たくならないのがいいんです」
手や体に自然となじむ優しい触り心地は無垢の木ならでは。組み立て、研磨の工程まで一貫して行うことで、秋田木工のクオリティが担保されていることは想像に難くありません。
さらに木には経年変化で味わいを増していく特長があります。少しずつ色味や風合いが変わっていく様子も味わいながら、愛着を持てるチェアに育てられるのが「BENT WOOD」シリーズの魅力です。
山崎さん「さらに、秋田木工には修理部門もあります。スタイリングチェアは日々愛用いただくものですから、万が一何かあった際に修理できるというのは重要で、それならお客さまに安心してお使いいただけるのではないかと感じました。」
この日、30年以上前に作られた秋田木工のダイニングチェアを見せてもらいました。飴色に輝くダイニングチェアには時間だけが刻める味わいが宿っています。
修理部に届いていたのは、さらに年季の入っていそうなダイニングチェア。これもきれいに修理され、味わいはそのままにお客様の元に戻るのを待っています。
山崎さん「秋田木工で使用するブナやナラといった木材は東北の森から資材調達した良質な『地域産材』です。地域産材はメリットが3つあります。第1に輸送にかかるコストや化石燃料の使用を抑え、CO2の削減が可能であること。第2に地域の林業や木材関連業者の地域経済を活性化し、林業の技術保全にもつながること。そして第3は地域の森林を健全に保つことに寄与できることです。そういう意味でSDGsにも貢献できる、サステナブルな製品ができたと思っています。」
風巻さん「柔らかな佇まいも褒めていただくことが多いのですが、曲木には機能的にも長所があります。それは接合部がなく、パーツも少なくできることから、軽量さと堅牢さを合わせ持つという点です。
まず、軽いので女性でも移動させやすいんですよね。次に業務用の実績が多いことです。スタイリングチェアは一般的な家庭用のチェアとは異なり、一日にさまざまな体型の人が何度も座るものなので、強度的にどうかという懸念はあったのですが、弊社の商品はもともとレストランなどでも実績が多く、その点でも評価をいただきました」
山崎さん「なにより『BENT01』『BENT02』いずれも元となったデザインが長年多くの人に愛されてきた普遍性があるというのもいいんですよね。ダイニングチェアがベースなので、コンパクトなサイズ感ながらゆったり座れます。全体が丸く角がないため、カットの際にお客さまに近づきやすく、施術がしやすい点もポイントです」
風巻さん「まさにダイニングチェアに座るかのような気楽さがあるスタイリングチェアですよね。サロンってやっぱり少し緊張するじゃないですか。それが自宅のダイニングチェアに座るかのように、気軽に座っていただけるのは、元となる椅子のルーツがダイニングチェアだからというのは大いにあると言えますね」
注目ポイント
1.美しいバックビューと温もりのあるたたずまいは唯一無二
2.「地域産材」でサステナブルに
3.自宅にいるかのようにリラックスできる座り心地はダイニングチェアならでは
今後の展開は?
風巻さん「我々は『木が木で立っていたときよりも美しく』を信念に、伝統を受け継ぎ、新たな時代に合った曲木家具を作り続けています。日本随一の曲木の技術に誇りと夢を持ち、お客様へ色褪せない『本物』を届けたいという思いでものづくりに携わっています。
大切に使ってくださるオーナー様がいらっしゃって、『この椅子は、この店ができたときに一緒に買ったんだよね』などと語っていただけて、『長年使ってきたからそろそろ座面を張り替えようか、フレームを塗り替えようか』と言っていただけるぐらいご愛用いただけたら、こんなうれしいことはないですよね」
山崎さん「工房を見学して、美容師と家具職人は、技術の内容こそ違いますが、同じ『職人』として日々研鑽を積む点では共通していると改めて感じました。この製品を通して職人の手仕事ならではの味わいや、人が手間暇かけてつくり出すものの美しさが伝わってくれることを切に願っています。秋田木工で長く愛されてきたダイニングチェアと、タカラベルモントのチェアベースという、それぞれ長い時間をかけて磨かれてきた技術が一つに融合したことで、新しい価値が見いだせたこと、そしてこうした技術が継承されていく未来を描けるスタイリングチェアが完成したということは感慨深いです」
使えば使うほど、愛着が湧き、風合いを増して、その店らしく育っていくスタイリングチェア。職人がつくる唯一無二のスタイリングチェアの本当の価値は使うほどに増していくものなのかもしれません。
BENT WOOD
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